第558話 千の妖の黒き芒20
「──黒芒さん、本気ですかっ!?」
少年が声を張る。少なくない焦りも見える。
「本気も何も道はそれしかないのじゃろう。まあ〝特別魔導士団〟の八人を敵に回すのも一興じゃが、それにはまず〝大聖女〟と〝剣聖〟を相手にしなきゃならんようじゃしの、脅威度では似たような物じゃのう」
空気が少し変わる。緊張した空気が流れるが〝大聖女〟は構わずに表情一つ変えず口を開いた。
「交戦にならずに封印ができるのであれば私共も大変ありがたいことです。貴方がその気になれば倒れるのは私共の方かも知れませんので」
〝大聖女〟の言葉に〝剣聖〟は黙って行く末を見守る。
「言うた筈じゃ〝大聖女〟妾を未来へと逃がしてくれとな。妾に戦闘の意思は無い」
ヒラヒラと両手を上にあげる黒芒。
「そうですか、良かった。私は運が良いようです」
ホッとする〝大聖女〟はホッとしたのも束の間、彼女にしては本当に珍しく、直ぐに険しい顔に変わる。
「失礼ながら、早々に封印をさせて貰いたい所です。足の速い者なら、竜車を全力で走らせても数日から数週をかかる、国から国の移動を数刻で、もっと速い者なら一刻もかからずに国から国へ移動をします。そして組織柄か〝特別魔導士団〟には足の速い者が多い。っと、説明が長くなりましたね。簡単に言えば時間が無い。急ぎましょう。もう彼らはこちらに向かってる筈です」
言葉が終わると同時に怪しく光る文字のような物が描かれた札を無数に展開する。
光る札の文字は具現化し紐のようになり黒芒を絡めとる。
「お別れじゃ、小童──」
「黒芒さん、そんな嫌です! 折角出会えたのに!」
「出会いとは別れの始まりじゃ。じゃから妾はあまり人とは出会いとうない。今回の別れは少し早すぎたかも知れんがの」
「黒芒さん、出会いを恐れないでください! 出会いはきっと幸せを運んでくれますよ。僕はそう思いますっ!」
唐突な少年の言葉に少しだけ目を見張る。
「……分かった。覚えておくとしよう。っと、そうじゃ、これをそなたに渡そうと思ってたんじゃ」
黒芒が取り出したのは酒を買ったおまけで老婆に貰ったアクセサリー。
もっと正確に言うならばブローチだ。
「いいんですか!? 嬉しいです!」
わぁぁ! と、笑う少年。
「喜ぶのはよいが、酒を買ったおまけで貰った物じゃ、安物何てレベルじゃないぞ。タダ物じゃ」
「それでも嬉しいです! 大切にします!」
黒芒が最後に一撫で少年の頭を撫でるとブローチを握りしめながら少年は泣いていた。
でも、少年は幼くとも一人の男だ。最後のプライドとして、声は出さないように。そう泣いていた。
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