第548話 千の妖の黒き芒10
「確かにお別れは悲しいかもしれません! でも、勿体ないですよ! 確かに一人で居る時間もあってもいいかもしれません。でも、ずっと一人で居る何て気が狂ってしまいますよ。誰かと過ごす時間はきっと別れの悲しみを上回るぐらい楽しいことが待ってる筈です。少なくとも僕はそう育てられました」
そんなことは知っている。
どれだけ楽しいか。どれだけ嬉しいか。
無愛想な自分を仲間と呼び笑いかけてくれたのに、照れて仲間と呼ばなかったかつてのパーティーメンバーに、あの時間に戻れるならば伝えたい──
『ああ、仲間よ。ありがとう』と。
だが、反対に黒芒は知っている。
──失う、悲しみを。
「……そなたに……何が……」
「え?」
言いかけた言葉を黒芒は何とか引っ込めた。
「何でもない。考えておく」
不貞腐れたように黒芒は言った。
たかが10歳の少年に何をムキになっているのか。
影に潜って頭を冷やそうと考えたが〝天聖〟から受けた〝スキル封じ〟で、まだ影に潜れない事に舌打ちする。
*
翌日──黒芒は街に酒を買いに来ていた。
昨日はあの後、溺れるように酒を飲んだ。
風情も何も無い、酒を注いでは飲み、空になったらまた酒を注ぎ、口に運ぶだけの、久方ぶりにとても、とてもつまらない酒だった。
朝は少し早い、昼も営業する酒場が開くまでは少し時間がある。時間潰しもかねて黒芒はふらりと街の露店を見て歩く。別に何か目的があるワケじゃない。
露店には様々な物が売られていた。林檎に唐揚げやサンドイッチやアップルパイ等の食料品から衣類に宝石や誰が描いたか分からない絵にアクセサリー。
時間を潰すにはまずまずと言ったラインナップだ。
「何じゃ酒も売っておるのか? 露店か、盲点じゃったの。おい、そなた。その樽を売ろうてくれ」
「あら、綺麗なお姉さん。アンタ〝千妖〟じゃないかい。ご一緒にアクセサリーはいかがかな?」
ヒヒヒと笑う怪しげな老婆は黒芒に返事を返す。
「アクセサリーなどいらぬ。酒を売りゃれい」
金を払い酒を受け取り立ち去ろうとする黒芒に老婆が「少しお待ち」と手を伸ばす。
「じゃから妾はアクセサリーなどいらぬと言っておろう?」
「樽ごとお酒を買っていただいたお礼ですじゃ。おまけと思って受け取ってくだされ、千妖様」
もう返すのも面倒だとばかりに溜め息を洩らし黒芒は酒を持ち、帰り道でフライドチキンを買い露店通りを後にした。
老婆に貰ったブローチは次に小童にあったら奴にでもやるかと頭で考えながら。
こんな物でも喜びそうな少年の姿を思うと少しだけ心が踊った。
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