第547話 千の妖の黒き芒9
──数日後、風邪から復帰した少年がまた黒芒の元へやって来た。
「黒芒さん!」
手を降り駆け足で近づいてくる少年に黒芒は目も向けず口を開く。
「騒がしいのが戻ってきたのう」
「こないだはありがとうございました!」
「体調はもうよいのか?」
相変わらず、朝から酒を飲む黒芒は、目を少しばかり鋭くし、少年に問いかける。
「はい、お陰さまで!」
少年は笑う、太陽のような笑顔で。
黒芒は少年のその笑顔がやけに眩しく見えた。
*
──それから1ヵ月が過ぎた。
少年は相変わらず毎日黒芒の前に現れた。飽きもせず、他愛の無い話を繰り返すばかりだ。
「はて、まだ治らんのう〝スキル封じ〟とは難儀なもんじゃ」
「〝スキル封じ〟って何ですか?」
「その名の通りスキルを封じる物じゃ。そなたと初めて会うた日の数日前に〝天聖〟から受けた」
て、天聖……と、飛び出た、その世界一有名な二つ名に少年が息を呑む。
「封じられたのは〝影移動〟のスキルだけじゃが、これが無いと妾は昼間に寝ることができぬ。厄介なことをしてくれたものよ」
「〝影移動〟……凄いですね〝影移動〟のスキルなんて、ユニークスキルじゃないにしても、歴史的に見ても持ってた人は極僅かですよ」
「そうか? 妾は人生で10人程会うた事がある」
次の日もまた他愛の無い話が続いた。
また翌日も少年はやって来た。今日はいっぺん変わって少年は母親が作ったという料理を持ってきた。
メニューは大鶏の唐揚げ。肉好きの黒芒は酒のつまみにと喜んだが、それ以上に黒芒が喜んだことに少年は大いに喜んだ。
次の日も、次の日も、雨の日も、風の日も、少年は黒芒の元へやって来た。
「黒芒さんは仲間を作らないんですか?」
「なんじゃ急に? 仲間なぞ妾には必要ない」
「そ、そうですか……その、僕はダメですか? たくさん修行して強くなります! そしたら僕を仲間にして世界を冒険してくれませんか!」
「嫌じゃ、妾はもう仲間は作らん」
「もう?」
「……口が滑ったの。昔、妾を仲間と呼んでくれたパーティーがいた。数百年も昔の話しじゃ。じゃが、妾は頑なにそやつらを仲間と呼ばんかった。ハハ、照れ臭かったのかも知れんの。それに妾と人間じゃ時間が違い過ぎる……じゃから、妾は人とはもう深くは関わらん。そう決めたのじゃ、あんな思いはもうごめんじゃからの」
遠い目で酒を呷る黒芒に強い言葉が響いた。
「──そんなの寂しいじゃないですかっ!!」
「……小童……」
黒芒の酒を飲む手が止まった。
いや、止められた。眩しいぐらいの少年の言葉に。
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