第534話 黒芒の魔法
──桜の家に着くと桜はまた悲しそうな顔をした。
それもそうか、家は荒らされ、家具や部屋はぐちゃぐちゃ、しっかりと帰って来たとは言えないだろう。
「部屋、片付けるか。手伝うぜ?」
「私も手伝うよ。うー、私が〝形状記憶系〟の魔法が使えればよかったんだけどね」
「〝形状記憶系〟?」
あまり聞いたこと無い魔法だな。
「極めれば、割れたお皿も壊れた椅子も時間を戻すように直せる魔法だよ。難しくて私は使えないんだ」
ショボンとするクレハが桜に申し訳なさそうな顔をした時だ──
「それならば妾が使えるぞ?」
スルリ、と、俺の影の中から黒芒が現れる。
影から現れるや否や黒芒は魔力の気配がする掌を前に突き出す、するとクレハの言ったように、まるで時間を戻すかのように壊れた椅子やテーブル、皿までもが何事もなかったかのように直っていく。
ま、魔法だ。何か凄い王道なやつ。
こういうザ・魔法的な奴が大好きな俺は密かにテンションをあげる。
俺もクレハも揃って驚き顔なのだが、それ以上に嬉しそうに目を見開く桜の顔が眩しかった。
「お爺ちゃんのお皿が……お婆ちゃんの椅子が……皆のテーブルが……よかった……よかった……黒芒さんありがとうございます……お家が……私とお爺ちゃんとお婆ちゃんが過ごした大切なお家が帰って来ました……」
桜はまた泣いた。もう戻ることの無いと思われた家の中を噛み締めるように見つめながら。
「でかしたぞ、黒芒! グッジョブだ!」
「黒芒さん、凄い!」
俺はふと疑問に思ったことを黒芒に問う。
「まさか、時間を巻き戻したのか? 壊れる前に」
本当に時間が巻き戻ったように見えた俺は直球にそんな馬鹿げたことを聞く。
「いや、記憶された物質をあるべき形に戻しただけじゃ。似てはいるが、時を戻したワケでは無い。ちなみにこのまま力を使い続けると木製のテーブルは元の木に戻る」
うーん、分からん。
魔法ってのは意外と科学より複雑なのかもね。
「桜、今日はもう遅い。埋めるのは明日にしてやれ。それと外の土地を借りるぞ」
「土地ですか? 全然大丈夫ですけど、一体何に使うんですか?」
「まあ、見てりゃ分かる」
そう言い外に出て俺は桜の家の隣に〝アイテムストレージ〟から俺達の家を取り出すと桜が腰を抜かす。
「〝アイテムストレージ〟だ。家を仕舞ってあった。俺達はここで今日は休むが、お前はどうする? せっかく黒芒が直してくれたんだ自分の家で休むか? それともこっちに来るか?」
「そちらで休ませて貰ってもいいですか……? 今、あの家に一人はとても耐えれそうにありません」
涙を流しながら桜は言う。それもそうか、ただのスプーン1つ、椅子1つでも思い出が詰まっているんだ。嫌でも祖父母を思い出してしまうだろう。
じゃあ、来な。と、短く返事をすると、俺とクレハと黒芒、そして桜は家へと入る。扉を閉める時にふと見上げた空には大きな満月が輝いていた。
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