第52話 天然娘
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ノアが去った後、俺はフィップとアリスと共に、そこら辺の料理屋に入って、軽く食事を取る事にした。
時刻は昼はとっくに過ぎて、夕方近く、おやつの時間といった感じだ。
チラホラと人はいるが、微妙な時間なので店は特に混んでおらず、すぐ席に着けそうだ。
店に入ると、此方を見もせず「いらっしゃい」と男性の店員に声をかけられたが、特に店員の案内も無いので、適当に空いてる席に座ろうとすると……
「姉ちゃん、こっち来てちょっと酌してくれよ?」
「おい、ズリいぞ! 俺とも仲良くしようぜぇ。それに、可愛い顔と中々良い身体してんじゃねぇか! なあ、ちょっと、色々と付き合ってくれよ?」
酒を飲み、酔った様子のガラの悪そうな客に〝給仕服〟姿の女性が絡まれている。
「や、やめてください。それに、今は私はプライベートなんで! いや、プライベートじゃ無くても、お断りですけど!」
その〝給仕服〟姿の女性は『プライベートなんで! いや、プライベートじゃ無くても、お断りですけど!』と〝給仕服〟では、あまり聞かない、独特な断り方をしている。
(てか、この声と、この天然具合……どっかで……?)
「あ、お前、ふざけてんのか!」
「あんま舐めてると痛い目みるぞ!」
チンピラ勢も、酔っている事もあり、中々にヒートアップして来て、今にも〝給仕服〟姿の女性に掴みかかる寸前なので……
「おい、お前ら! プライベートでも、プライベートじゃなくても、嫌だってハッキリ言われてるだろうが! ──飲み過ぎだ! その辺にしておきな?」
せっかくなので、俺はこの〝給仕服〟の〝プライベート大作戦〟に乗っかりつつ、チンピラ勢を止めに入る。
……まあ、作戦なのかは知らないけどさ?
「あぁ!? 何だと、この糞ガキ! 殺すぞ?」
今度は俺の方に絡んできてガンを飛ばしてくる。
(てか、酒臭え……)
「ほわぁ! ユキマサさん! ユキマサさんじゃないですか! 救世主です。救世主が現れましたよッ!」
俺を見るなり、ぴょんぴょんと、飛び跳ねて喜びながら──脱兎の如く、俺の後ろに隠れる、この〝給仕服〟姿の女は思ったとおり……
「アトラ……お前こんな所で何やってんだ?」
ギルドの直ぐ近くにある、クレハ行きつけの料理屋〝ハラゴシラエ〟で働く〝給仕服〟であり、その店の店主の姪でもある、金髪ショートの〝人間〟の少女──アトラだ。
「──おい、ユキマサ、何遊んでんだ? お嬢が、早くしろって怒ってるぞ? 早く来い!」
すると、先程まであくびをしながら、この様子を退屈そうに見ていた、フィップが痺れを切らしてこちらに声をかける。
「おい、無視してんじゃねぇぞ!!」
チンピラの男が殴りかかって来るが……
俺は、ひょいっと、それを躱しながら、チンピラ男を──ドンと後ろから軽く蹴り飛ばす。
「おい、こっちにやんな!」
俺が蹴り飛ばした先にいたフィップが、キレ気味で更にその男を──ドンッと、まるでサッカーボールのように蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたその男は、もう一人のチンピラ男を巻き込む形で店の奥へ、ドカドカドカン! と辺りのテーブルを巻き込み、破壊しながら吹っ飛んで行く。
「ほわぁ……」
その様子をアトラは俺の後ろに隠れて見ている。
すると、ガラガラガラ……と、壊れたテーブルの瓦礫の中から「ぐふッ……」と痛そうに、男達は立ち上がり
「……も、もう許さねぇぞ」
と、片方は剣を抜き、もう一人の方は懐から銃を取り出した。
相手は武器を構え、もう引き下がる様子も無いようなので、俺は瞬時に〝アイテムストレージ〟から〝魔力銃〟を手に取り出し──
──ヒュン、ドン、ドン!!
最低限の動作で、チンピラ男達の武器に向けて〝魔力弾〟を撃ち──そして、撃ち終わると、また直ぐに〝アイテムストレージ〟に〝魔力銃〟を戻す。
そして、男達の持っていた武器に〝魔力弾〟が当たると、剣はバキンッと折れ、銃はバンッと破裂する用に壊れる。
「な、なんだ!! お、俺の剣が!?」
「俺の銃もだ……!? な、な、何が起きた!?」
武器を構えたら──剣は折れ、銃は破裂するという状況に陥った男達は、あんぐりと口を開けて、その場で固まり、自身の壊れた武器を見つめていた。
「だ、だ、だ、誰だ、出てきやがれ!!」
次に二人は辺りを見回し叫び始める。
どうやら、俺が撃ったと言う事に、気づいてすらいないみたいだ。
俺が〝アイテムストレージ〟から〝魔力銃〟を取り出し〝魔力弾〟を撃ち、そして再度〝アイテムストレージ〟に〝魔力銃〟を戻すまでの時間は──1秒にも満たない。
それこそコンマ1秒以下の刹那の瞬間──
実際、今かかったのは約0.002秒程の時間だ。
フィップが蹴り飛ばしたせいで、俺からチンピラ男達までは5mぐらいの距離もあり、俺もノーモーションで〝魔力銃〟を撃ったので、このチンピラ男達はここにいる誰かでは無く……
どこか他の場所から狙って狙撃されたと、勘違いして、慌てて辺りを見回してるみたいだ──。
(てか、狙撃されて、慌てて叫ぶ時間あるなら、とっとと逃げるか、隠れるかしたらどうなんだ……? もし本当に〝暗殺者〟がいたら『殺してください』と言ってるようなものだぞ?)
一通り辺りを見回し、他には誰もいない事に、やっと気づいたらしいチンピラ男達が、今度はこちらを見て目を、見開いて驚いている。
ちなみに、その視線の先は俺ではなく……
──俺の斜め右の後方に立つフィップだ。
「……う、嘘だろ……桃色の髪に……背中に大鎌を背負った……きゅ、吸血鬼って事は……」
今更ながら、改めてフィップを見たチンピラ男達の顔が、どんどん青ざめていく……
「えーー!! こ、こ、この人もしかして〝アーデルハイト王国〟の〝桃色の鬼〟ですかあぁーーー!!」
だが、驚きながら大声で叫んだのは、チンピラ男達ではなく……俺の後ろに隠れているアトラであった。
「いや、何でお前が一番驚いてんだよ?」
「それは驚きますよ! というか、ユキマサさん、何で、そんな超有名人と一緒にいるんですか!?」
ぴしぴしとフィップに向け、指をさし、少し行儀は悪いが、悪意は全く無い、相変わらず天然のアトラ。
(そういや、フィップは超の付く有名人だったな?)
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! 悪かった、お、俺達が悪かったから……ゆ、許してくれ……」
「ちょ、ちょっと飲みすぎちまったんだよ? もう、お前達に関わらないからよ……こ、この通りだ……」
フィップの正体に気づき、さっきとは真逆の態度で、床に這いつくばり、震えながら謝っている。
「酒は理由にならないだろ?」
(バカか? こいつら?)
「どうすんだ? これはあたしの問題じゃねぇぞ? まあ、お嬢を待たせてるって事については、そろそろ我慢の限界だが?」
と、結構、イラついてるようで、俺を不機嫌そうに睨み、フィップは『早くしろ?』と見てくる。
「──ひッ……!」
ついでに目を向けられたアトラが、怯えながら更に俺の背中に隠れる。
「あ、おい、アトラ。別にお前は悪く無いだろ? それに、フィップもお前に怒ってる訳じゃ無いから、そんな怯えるなよ」
「ほ、本当ですか……そ、そうですよね……よかった。──あ、というか、ユキマサさんと一緒にいたって事は、もしかして私の味方って事じゃないですか!」
〝あ、私気づいちゃいました!〟とばかりに、アトラは急にテンションをあげてくる。
(いや、間違っては無いが、頭の中でどんな連想ゲームしてんだ? この天然ウェイトレスは?)
「それに、私にはユキマサさんも付いてるんですからね! 何を隠そう。こないだのヒュドラの〝変異種〟を単独討伐をしたのは──今、まさに、私が後ろに隠れている、このユキマサさんなんですからね!!」
ふふんッ! と俺の背中に隠れながら、
何故かスゴく自慢気なアトラ。
「……ま、まじかよ……ヒュドラの〝変異種〟の討伐者って……ま、まさか……く、〝黒い変態〟か……!」
(──は……?)
「あ、あり得ねえ……で、でも──〝桃色の鬼〟を相手にあの態度だぞ……? に、逃げるぞ、こんなの勝てるわけねぇ……」
「──おい、待てッ! それ誰に聞いた!」
「「ひっ! に、逃げろ!! こ、殺される!」」
青ざめた顔で出口に向かい、一目散に逃げる二人だが……出口付近で店員に「おい、金払え! 壊したテーブル代もだ!」と言われ「退け、金なら払うから! 頼む、退いてくれ!」と、懐から出した貨幣を、投げるように店員に渡し、必死に走り去っていく。
てか、店員め──今まで、盛大に素知らぬフリをしてた癖に、金だけはしっかりと請求してやがって。
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