第525話 桜の家にて
*
──〝ジークア王国〟の外れ、綠々しい牧草が生える牧場の更に先の幾つもの畑がある場所の、その端に古民家が建っていた。
「あれが、桜の家か?」
「そうです。でも、あれ……」
辺りには他には民家は見当たらない。
あったとしてもkm単位で離れているだろう。
「悪いがズカズカと聞くぞ、嫌なら止めろ」
俺は前もって桜にそう伝えておく。
「襲撃されたのは家でか?」
「はい。夜の夕食を取り終わって直ぐのことでした」
桜の足が速くなる。その様子は酷く焦った物だ。
「──お爺ちゃんっ! お婆ちゃんっ!」
ドタドタドタバン! っと、勢いよくドアを開け家の中に入る。
「邪魔するぞ」
「お邪魔します」
続いて入室する。
部屋の中はこれでもかと言うぐらい散らかっていた。床に散らばる割れた皿とグラス、壊れたテーブルに椅子、荒らされたタンス。そして床にはベッタリと血が付いていた。
「血はあるが遺体は無いな。床の血の量は残念ながら致死量だ。生きてこの場を離脱したというワケでも無さそうだ」
無情にも俺はそう告げる。
きっと桜は生きて逃げたと言うもしかしての可能性は頭を過った筈だ。誰だって1%にも満たない確率だろうが、大切な家族の無事を願うことだろう。
「私が拐われた時は、家の中、こんなんじゃありませんでした。誰かがあの後この家に来たんだと思います」
「人攫いの後に空き巣か? いや、遺体を盗む空き巣なんて聞いたこと無いな。それも別口か? クソ、招かれざる客にしては客が多すぎるぞ」
すると割れたお皿を徐に拾い上げ、桜がボソリと悲しそうに呟いた。
「お爺ちゃんのいつも使ってたお皿です。何で、何で私の大切な物を全部壊していくの……」
ポタポタと涙を流す桜に俺は何も声をかけられていない。ああ、いつもそうだ。こんな時に何て声をかければ正解なのかが分からない。
「本当にすまねぇ。話を悪くしちまった。これは知るべきじゃなかった筈だ。かえって辛い思いを……」
〝言わぬが花〟のように〝知らぬが花〟なんて事も世界には沢山あるだろう。
「いいえ。ユキマサさんは何も悪くありません。謝らないでください。これも私が受け止めるべき事実なのでしょうから……ぐすん……」
家を片付けるのを手伝いながら、色々と探してみると、家に残っていた金と家にあった金になりそうな品物が根こそぎ無くなっていたそうだ。
根こそぎ荒らされた家だ。金になる物が残ってる方が不思議だ。
「確か〝ジークア王国〟にも教会があったな? 取り敢えずそこに行ってみるか。何か分かるかも知れない。お前の祖父祖母の遺体だけは必ず回収するぞ」
ここにはもう手がかりは無い。
俺は落ち込む桜にそう提案した。
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