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第51話 卒業生



 *


 ──大都市エルクステン

          ギルド・受付前──


 ギルドの受付にて、複数の男女がギルドに対して猛抗議をしていた。種族は〝人間(ヒューマン)〟や〝エルフ〟や〝亜人〟と様々だが、その集団の平均的な年齢は若い。

 その全員が10代半ば程、13~18歳ぐらいだ。


「一体どういう事ですか! 説明してください! クシェラさんが王女様の()()だ何てあり得ません!」


 この集団の中では、歳が上の方であろう──人間(ヒューマン)の少女が、ギルドの受付にいる女性職員に向かい、説明を要求する。


「少し落ち着いてください。まだ、正確な情報は分かってないんです。それに、今ギルドでは〝魔王信仰〟の件も、あれこれございまして……すいません。一先(ひとま)ず、少しお待ちいただけませんか?」


 対応しているギルドの受付嬢の女性職員も、正直な所……あまり今の状況が整理できておらず、あたふたしている。


「オイ、お前達! 何をしているッ!」


 そんな騒ぎを聞き付けた、近くにいた騎士隊の隊の者数名が現れ、周りを囲む。


「私達は〝兄〟であり〝育て親〟でもあり、そして何より私達の〝家族〟であるクシェラさんへの、あらぬ疑いに対し抗議に来ただけです!」


 臆する事無く、真剣な眼差しで、先程の人間(ヒューマン)の少女が口を開く。


 それに続き、周りの少年や少女達も──


「そうです!」

「クシェラさんや、クシェリさんは、身寄りの無い俺達を拾って育ててくれたんだ!」

「あの人がいなきゃ、私達はとっくに死んでます!」


 それぞれ、自身の思いを伝える。


「──おやおや、賑やかですね、どうなされましたか?」


 そんな騒ぎを聞き付けてか、それとも偶然か……


 クイッと片手で眼鏡を直しながら、落ち着いた口調で話す、男性にしては、少し長めの灰色の髪の男性が近づいてくる。


「ぎ、ギルドマスター!?」


 少し慌てながらも、騎士達は直ぐ様姿勢を正す。先程の受付嬢の女性職員も、立ち上がり、慌てながらもしっかり頭を下げる。


「──ッ……」


 このギルドのトップである、ギルドマスターのロキが出てきた事に、抗議をしていた少女達も、少なからず驚いた様子で言葉が詰まる。


 だが、それでも勇気を振り搾り、先程から先頭を切って抗議をしていた──人間(ヒューマン)の少女が口を開く。


「わ、私達はクシェラさんが〝王女様の誘拐〟なんて、バカげた噂に抗議をしに来た者です。ギルドマスター、どういう事か説明して貰えませんか? あの人はそんな事をする方ではありません!」


 ここで、あたふたとする訳にはいかないと思い、その人間(ヒューマン)の少女は、力強く己の意思を伝える。


「あはは。何かと思えば……それは本当にバカげた噂ですね。どうぞ、ご安心ください──そもそも〝王女様の誘拐〟と言うのが間違いなんですよ?」


 少しピリついた空気の中。そんな事は全く気にせず、ロキは少しおどけた様子で、両手を軽くひらひらと振り『大丈夫ですよ』と、少女達を落ち着かせる。


「ほ、本当ですか……?」


 あっさり否定されキョトンとする少女達。


「ええ。王女様が〝行方不明〟と言うのは事実でしたが、特に事件性はありませんよ。誘拐についても──心配(ゆえ)にか、慌てた騎士の者達の憶測が飛び回ったのでしょう。〝アーデルハイト王国〟のアリス王女は、今は無事に〝桃色の鬼(ロサラルフ)〟殿と一緒にいるみたいですよ? ……おや、こちらは、噂をすればですね?」


 と、ロキの言葉に少女達が後ろを振り返ると……


「──お、お前達、みんな揃ってどうしたんだ?」


 ボロボロの姿で──〝双子の妹〟のクシェリに、肩を借りながら歩いてくるクシェラの姿があった。


「く、クシェラさん! それにクシェリさんも! というか、ボロボロじゃないですか!?」


 そんな二人を見て、慌てて駆け寄る少女。


「ん、サラか? それにお前達も久しいな。元気だったか? 後、この〝愚兄(ぐけい)〟への心配は無用だぞ?」


 サラと呼ばれた──先程から先陣を切り、抗議をしていた少女の心配を他所(よそ)に、クシェリはロキ以上のマイペースさで淡々と話す。


「クシェラさん、本当に大丈夫なんですか!? あ、それとクシェリお姉さんもご無沙汰してます……!」


「ああ、心配はかけまい。それに、この怪我の半分はコイツのせいだからな? オイ、聞いているのか、この愚妹(ぐまい)が!」


 と、クシェリを指をさすクシェラ。


「ん? 私は今、立派に育ってくれた〝卒業生〟達と話していて、忙しいかったからよく聞いていなかったが? どうした、何かあったか?」


 相変わらずマイペースのクシェリは、卒業生と呼ばれた、その〝男女の集団〟と親しげに話している。


「くッ、この……熟女め……」


 そう呟くと、ギロリとクシェラを睨み、


「……何か言ったか? 中高年?」


 と、クシェリがクシェラに向け殺気を放つ。


「何だ貴様、耳まで悪くなってきたのか? 仕方無いな。耳にポーションでも流し込んでやろうか?」


 バチバチとした視線の二人の喧嘩が始まる。


 それを見ていた周りの少年少女達は……


「またですか……」

「仲良くしてくださいよ」

「でも、いつも通りで良かったね!」


 と、ホッとした様子で話している。


「ポーションが必要なのはクシェラさんの方です」


 クシェラとクシェリの喧嘩は慣れているのか、サラはいつもの事のように、二人の間に割り込み、ポケットからポーションを取り出し、クシェラに渡す。


「おぉ、すまないな。サラ」


 礼を言うと、クシェラはサラからポーションを受け取り、それを一気に飲み干す。


 ──そして、その一連の流れを微笑ましそうに黙って見ていたロキが口を開く。


「こんにちは、クシェラさん、クシェリさん。アリス王女様はどんなご様子でしたか?」


「おぉ、ギルマスでは無いか! あの〝尊き幼女のお姫様〟なら、我が兄弟が保護しておったぞ? あやつに任せて置けば、何も心配には及ぶまい!」


 グッと親指を立てながら、白い歯をニッと見せ爽やかな笑顔で、クシェラは返事を返す。


「ん? 私の事では無いからな? それに、愚兄……お前はいつからユキマサと兄弟になったんだ?」


 すかさず、自分の事では無いとクシェリは否定する。


「ふん! 私と同じ(こころざし)を持つ者を、兄弟と呼ぶことが、そんなに不思議か?」


 すると周りからは……


「え、同じ志って、その人もロリコンなのか!?」

「ユキマサって名前……確か例のヒュドラ殺しの?」

「私はその人は〝黒い変態〟って聞いたわよ」

「俺は噂で〝黒い女(たら)し〟って聞いたぞ」

「黒いロリコン女誑し……その人、本当に大丈夫?」


 そんな、声が上がっている。


「あはは。大人気ですね! ご心配なさらずとも、ユキマサさんはフォルタニアさんからも、お墨付きを貰ってますからご安心ください」


「ん、そういえばギルマス? その副マスの姿が今日は見えんが、休みか?」

「ええ、フォルタニアさんは今日はお休みですよ。何でも、()()()()と会うとの事で、珍しく興奮した様子でしたよ」


「ほう、それは珍しい。意外に隅に置けんな?」


 本当に意外や意外だったのか、クシェリは少しばかり目を見開いて、驚いた表情を見せる。


「元々、フォルタニアさんは隅に置けませんよ」


 ロキは、いつもの胡散臭い笑みを浮かべる。


「それと皆さん。此度はこちらの情報ミスで、不快な勘違いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」


「い、いえ、私達こそ、失礼を申し訳ありません!」


 謝るロキに、慌てた様子でバッ! と、サラは深々と頭を下げ、それに続き、周りの他の者達も、次々と頭を下げて「「「すいませんでした!」」」と謝る。


「ど、どういうことだ?」

「……」


 その様子にクシェラは首を傾げ、クシェリは黙ってその様子を見ている。


「確か〝卒業生〟と呼ばれていましたか? 差し当たり、彼や彼女らは──貴殿方の運営する、()()()の卒業生の方々でしょうか?」


「「ああ、この子達は私の孤児院で13歳を迎えて、立派に」」


「ロリを──」

「ショタを──」


「「卒業して、新たな旅立ちを迎えた、私達の大切な家族だ!」」


「息ピッタリですね。この子達はクシェラさんが()()()と言う、独り歩きした噂を聞いて、ギルドに抗議を申しに来られたのですよ?」

「そ、そうだったのか。心配をかけたみたいだな……」


 やっと状況を飲み込んだ様子のクシェラ。


「ええ、立派な子達ですよ」

「そうだろう! まあ、まだ一人前には少し遠いかもだが、それでも私達が育てた自慢の子達なのは変わらん!」


「偉そうだな、愚兄? それに貴様、こないだから、サラに孤児院の子の世話や家事を手伝って貰っていただろう? ココットから聞いているぞ?」


 腕を組み、クシェリがクシェラを睨み付ける。


「あ、あのクシェリさん……そ、それはですね……実は……お恥ずかしながら……私がその時……お金が余り無くてですね。その……次のお給料日まで……ごはんを食べさせて貰いに帰った時の事だと思います……」


 顔を真っ赤にしたサラが、ゆっくりと手をあげながら、恐る恐ると恥ずかしそうに話す。


「む、なんだ、そうだったか? それなら別に良い。よくある事だ──まったく、この愚兄が育児をサボり、サラに家事を押し付けてるのかと思ったぞ?」


「ふふ、愚妹(ぐまい)よ、貴様では無いのだ。私が幼女達の世話という()()を、いくらサラとは言え、他の者に押し付けるわけが無いだろう!」

 

「私もそんな事をするわけが無いだろう? 〝千撃(せんげき)〟との手合わせで頭でも打ったか?」


「あ、あの……すいません……私のせいで……」


「何を謝ることがある? 金が無いでも、腹がへったでも、暇だからでも、魔王に追われているでも、理由は何でもいい。困ったことがあればいつでも帰ってくるがいい──孤児院(うち)は、もうお前達の家なのだからな? 遠慮は無用だ!」


 白い歯を見せてクシェラは笑う。


 それを見てクシェリも


「そうだな、愚兄も億に一度ぐらいは良い事を言う」


 と、クシェラの発言に対し、珍しく笑みを溢す。


「は、はいっ、ありがとうございます!」


 その言葉に、凄く嬉しそうな様子でサラは笑う。


「──身寄りの無い子供達は本来なら、それなりの資産や権力がある私共(わたしども)ギルドや、この都市の領主等が、率先して保護を行わねばならない事です。それが申し訳ない事に、現状では行き届いておりません。ギルドを代表し、お二人には改めて感謝を伝えさせてください。本当にありがとうございます!」


 ロキは、クシェラとクシェリに頭を下げる。


 いつも胡散臭そうな表情と、フォルタニアにまで、よく言われるロキだが──

 この時、ロキは珍しく本気で困った顔をしていた。


 だが、頭を下げていた事もあってか……

 その、本気で困ったロキの表情に気付いた者は、この場には1人もいなかった。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!

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