第513話 奴隷の解放
*
奴隷解放には少し時間がかかりそうだった。
倒れて気絶していた〝ジークア王国〟の兵士の一人を叩き起こし、王宮を案内させた。
兵士は反抗する気力も無いらしく大人しく王宮を案内した。奴隷が収容されてる牢屋と、この兵士は入ったことの無いという地下室を重点に調べあげる。
一階の牢屋もだが、地下室が特に悲惨だった。
イタズラに逆さ磔にされたケガだらけの亜人の男。ボロ雑巾のようになった小さな女の子。他にも奴隷は大勢いた。中には既に亡くなっている人もいた。
「……酷い……これ程とは……」
レモンが反射的に口元を押さえる。
これはキツイよな。最近悲しいかなグロテスクな物を見慣れてきてしまった俺でも結構キツイ。
クレハと桜も合流したが、地下室には俺とジューリアにレモンと後〝大都市エルクステン〟の憲兵10名で向かった。今はクレハと桜を地下室へ連れて来なくてよかったと本当に心から思う。
レモンが手錠や足枷の破壊、ジューリアが奴隷紋の解除、俺がケガの治療を行った。
「アダマンタイトの手錠だな。レモンは壊せたか」
「? 含みのある発言ですね。誰か壊せない方が?」
「ん? ああ、トランプって奴がな」
「!? トランプと言うと。トランプ・フーラッパですか!? 奴隷商人との繋がりが懸念されている人物です」
……しまった。失言だったな。
「人質を取られて飼われてた哀れなカラスの話だ。今はもう只の人気のピエロさ。見逃してやってくれ」
「……懸念と言った筈です。それに先に奴隷商人のオークション会場を見に行ったのですが、何者かに壊滅させられた後でした。現行犯ならともかく、トランプさんにはまず証拠がありません。今の私にはどうすることもできませんね。それに今の私は目の前の奴隷となってる方を救わねばなりませんし」
かなり遠回りな言い方だが見逃してくれるっぽいな。それが〝聖教会〟の人間として良いことなのかは追求するだけ野暮なことだろう。
*
「う……俺は……」
「気がついたか? 奴隷の時代は終わりだ」
磔にされていた男が目を覚ますと、磔にされていた時にはなかった、自分の指や歯を確認し、あることに心底驚いた様子だ。
「夢だな……身体に痛みがない。奴隷紋まで消えてる。いい夢だ。できれば覚めないでほしい……」
「寝言は寝てから……って、寝てはいたのか、夢じゃないから、さっさと起きな! 〝ジークア王国〟は間もなく滅びを向かえる。奴隷の居ない新しい時代がやってくる。どうだ? 少しは生きる気力が出てきたか?」
亜人の男に俺は問う。
男はまだ夢の中といった表情だ。
まあ、気持ちは分からんでもない。
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