第50話 幸運の少女2
──こいつ、何で分かったんだ……?
知り得ない筈の俺のフルネームを、目の前の会ったばかりの白フード少女に当てられた俺は素で驚く。
(いや、別に〝フルネーム〟がバレても、不味い訳でも、女神様に口止めされてる訳でもないんだが、流石に気になる。というか、正直、少し気味が悪い……)
それにかなり不自然だ。──例えば〝相手の名前が分かる〟みたいな〝スキル〟や〝魔法〟があったとしても、今みたいに疑問系で聞いてくる必要は無い。
もし、そんな〝スキル〟や〝魔法〟があって、裏をかいて、この白フード少女が、わざと疑問系で聞いてきたとかだったとしても……
だからどうなる? 何の有効打にもならない。
まあ、クレハが話したという可能性もあるが……
でも、恐らくそれはない。それに別にクレハが話したとかなら、それはそれで別に構わないしな。
「──フルネームも名乗った覚えは無いんだがな?」
「それは、正解として受け取ってもいいのかな?」
「そうだな。正解だよ」
まあ〝異世界〟では、分かりやすいように〝姓〟は名乗らず、ユキマサで通していただけなんだがな。
それにユキマサの名前だけでも、俺と同じ名前の者が、この〝異世界〟にいると思わなかったし。
「うんうん、素直だね、私的には好感度高いよ?」
と、白フード少女は、クスリと笑いながら、満足そうな様子で頷いている。
「お前、稗月と言う名前だったのですか?」
今のやり取りを黙って聞いていたアリスが、少し不機嫌そうな顔で聞いてくる。
「正確には稗月が名字で、名前が倖真だ。俺の故郷では〝姓〟が先で〝名〟は後から読むんだよ」
「何処の生まれなのです? スイセンの国ですか?」
「いや、もっと遠い国だ。強いて言えば東の方だ」
「……釈然としないのです」
俺の回答がお気に召さなかった様子のアリスは、ムスッとしてらっしゃる。
「それでだ。何で俺の名前……しかも〝フルネーム〟を知っていた? ──お前とは初対面の筈だし、そこの〝ロリッ子お嬢様〟や〝桃色吸血鬼〟みたいに、俺は有名人でも無ければ、名字はギルドや〝ステータス画面〟にすら公表して無いんだぞ?」
実際の所。俺もスキル〝天眼〟を使えば──相手の〝ステータス画面〟の公開設定にされている、名前や、レベルは見ようと思えば、除き見ることができるのだが……
俺みたいに〝稗月倖真〟の──姓を省き、名のみのユキマサを、自身の〝ステータス画面〟を反映させていれば、もし何らかのスキルで見られたとしても……
―ステータス―
【名前】 ユキマサ
【種族】 人間
【性別】 男
【年齢】 16
最低限の公開設定になっている、この〝ステータス画面〟のそれ以上の物は見られる事は無い筈だ。少なくとも、俺のスキル〝天眼〟で見れるのは、今の所はこれが限界だ。
だから、非公開設定である所の、俺の稗月の名字が分かる事は、まず無いと俺は考えていた。
まあ、勿論、この少女が俺の〝天眼〟以上のスキルを持ってる可能性も否めないが──
……というか、その可能性が一番高いんだがな。
「うん、そうだね。私も、君とは〝はじめまして〟で間違いないと思うよ。けど、私は君に会いたかったんだ。でも、まさか、こんなに早く会えるとは思ってなかったけどね──」
「悪い、どういう意味だ?」
今の返事だと、本当に意味がよく理解ができなかったので、俺は直ぐに素で聞き返す。
「ふふ♪ 私、こう見えて凄く運が良いんだ♪」
……うーん、ダメだ、よく分からない。
でも、不思議な事に、この会話は一見〝言葉のキャッチボール〟が成立してないように見えるのだが……
何故か、この少女の返答の意味は本当によく分からないのに、ちゃんと質問の答えは返ってきているという、不思議な感覚がある。
「かなり遠回しな言い方だな? 今は答えられないって事か?」
それと、この少女の的外れに思える言葉の、そのひとつひとつに、これまた不思議な重みを感じる。
「そうなるかな。ごめんね。でも、すぐ話せる時が来ると思うよ──それと、アリスさん、フィップさん、ごめんなさい。これは理由があって、2人には見せられ無いんだけど、悪く思わないでね」
そう言うと、白フード少女はその場で指をスライドし、俺だけに向け、この異世界お馴染みの〝ステータス画面〟を見せてくる。
―ステータス―
【名前】 ノア
【種族】 人間
【性別】 女
【レベル】100↑
【年齢】 17
ノア。これがこの白フード少女の名前か。
年齢は17歳ってことは俺より1つ上か、誕生日によっては、同い年か?
そして、俺が何より目が行ったのは、レベルの表示上限である筈の──レベル〝100↑〟という項目だ。
アルテナの話だと〝レベル100以上〟は、数字上それ以上の数字はステータス画面には表示されず〝100↑〟としか、表示されないと聞いている。
このノアと言う少女はレベルだけ見ても、人類でもトップクラスの実力者らしい〝六魔導士〟の一人である──エルルカや、そこで先程から険しい表情で、アリスを守るように立っている〝アーデルハイト王国〟の一国の最高戦力である、吸血鬼のフィップよりも上という事になる。
「私の名前。よければ覚えておいて貰えるかな? できれば、私の事は、今は秘密にしておいてくれると助かるな──まあ、私の勝手なお願いになっちゃうから、バラされても私に怒る権利は無いんだけどね♪」
と、最後の方はあっけらかんとした様子で、笑いながらそう伝えて来る。
「……分かった。今は黙っておくよ、白娘?」
名前は覚えたが『今は秘密にして』との事なので、俺は適当にパッと見の姿の、白フード娘から、安直に白娘と渾名を付けて、この少女を呼ぶ。
「ふふ、白娘か♪ そんな風に呼ばれたのは初めてだよ。可愛い呼び方だね、気に入ったよ♪」
ノアは女の子らしく、グーにした左手で口元を隠すようにして、クスクスと楽しそうに笑っている。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼するね。多分、また、すぐに会えると思う気がするから、その時はまた改めて仲良くしてね? ──アリスちゃんとフィップさんも、またね。色々とごめんなさい」
「あ、オイッ──!?」
俺はノアに声をかけるが……
「あ、それと、ユキマサ君、落とし物拾ってくれてありがとね! それじゃあね!」
こちらに背を向け、首だけで少し振り返り、軽く片手をヒラヒラと振りながら──ヒュン! と、まるで消えるようにノアは去っていく。
ノアが去ると、辺りにブワッと強めの風が舞う。
そしてその風が収まる頃には、
そこにノアが居た痕跡は何も残ってなかった。
(……ッたく、どうしろってんだよ?)
「──お嬢、怪我は無いか……?」
「私は大丈夫なのです。そんな事よりも、あれは一体、何だったのですか?」
「さあな、あたしが聞きたいぐらいだ。やっぱ、昼間に何て活動するもんじゃねぇな。どっと疲れるぜ……」
ノアが去り、今までかなり警戒していたフィップが、ゆっくりと息を吐き、忌々しそうに太陽を睨む。
……てか、やっぱ吸血鬼って太陽苦手なんだな。
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