第49話 幸運の少女
俺とアリスとフィップは、後処理をジャンに任せた後、この〝大都市エルクステン〟の都市を見て回って歩いていた。
──耳を澄ますと、街は何やら少し騒がしい。
「向こうで〝魔王信仰〟が暴れてたみたいだそ!」
「怖いわねー。さっき、落雷もあったみたいよ?」
「聞いたか! 今、ギルドに〝剣斎〟がいるらしいぞ!」
すれ違う人々が、そんな事を話しているのが聞こえる。
「……少しお腹が空いて来たのです」
トコトコと歩くアリスは、相変わらず〝熊のぬいぐるみ〟のリッチを抱き締めながら、そう呟く。
「まあ、激辛スープを飲んだだけだからな? 量はそんなに無かったし……何か軽く食べるか?」
あの〝爆弾唐辛子とサソリ海老のスープ〟とか言う、もはや辛いと言うより〝痛いスープ〟は……
──〝完食したら小金貨1枚!〟──
という、所謂〝チャレンジメニュー〟だったのだが、別に大食いチャレンジでは無いので、特別量がある物では無かった。
あの店は量ではなく、如何に辛くして食べきれなくするか。という事に、重点を置いていたからな。
「む、辛い物は別腹なのです!」
まるで『甘いものは別腹!』みたいに、アリスは抗議してくる──それにしても、このゴスロリロリッ子は本当に辛いものが好きみたいだ。
「あーあ、お嬢は相変わらずの辛党だな?」
「あれは、もう辛党とか言うレベルじゃないぞ?」
──はむ、もぐもぐ
「アリス、それは何食ってんだ?」
俺とフィップが話していると、いつの間にかアリスが、もぐもぐと何かを食べている。
そして俺は、そのアリスが、ふみゅ~! っと、幸せそうな顔で、もぐもぐと食べている〝赤い木の実〟のような物には見覚えがある……
「おい、アリス、それ〝爆弾唐辛子〟じゃねぇか?」
「ふふん♪ お前になら特別に、この〝爆弾唐辛子〟を1つ分けてやらん事もないのですよ?」
「いや、遠慮しとく……てか、何で持ってんだよ?」
「スープ屋の親父に貰ったのです」
(いつの間に……)
はむ、もぐもく。と、アリスは更に〝爆弾唐辛子〟を口に運び、スナック菓子でも食べるような感覚で激辛唐辛子を食べている。
──と、その時。
今、ちょうど俺とすれ違った、白いフードを深く被った少女が、すれ違い様に何かを落として行く……
俺はそれを拾い上げて見てみると、小金貨だ。
「──おい、そこの白フード少女! 落とし物だ!」
人混みに紛れる前に。と、俺は声をかけるが……
振り向くと、もうその少女の姿は無かった。
(見失ったか……屋根にあがって探して見るか? 白いフードを被ってたから、逆に目立つだろうしな──)
と、考えて俺が屋根へと移動しようとすると……
──トン、トン
誰かに、優しく肩を叩かれる。
「私のこと、呼んだかな?」
「──ッ!?」
(コイツ……いつの間に!?)
「「!?」」
いきなり現れた、白フード娘にアリスとフィップも驚いている。
そして何より俺は、この少女に敵意は無かったとはいえ、肩を叩かれるまで、気配に気づかなかった。
「……あ、ああ。落とし物だ」
少し言葉に詰まりながらも、俺は白フード少女が落とした小金貨を少女の手に渡す。
深く被ったフードで顔はよく見えないが、髪の色ぐらいは分かるな? 綺麗な長い紫の髪で、年は俺と同じぐらいだろうか? 大人びた感じもあるが、少し幼さの残る雰囲気もある、不思議な少女だ。
「あ、拾ってくれたんだ、ありがとう。君、良い人だね!」
「──おい、待ちな! 何者だ、お前?」
と、フィップがアリスを庇うように立ちながら、警戒した様子で、白フード少女を睨む。
「うーん。一応、話しかけられたのは、私の方なんだけどな? できれば、そう警戒しないで貰えると嬉しいかな──フィップ・テルロズさん?」
「──ッ……」
盲点というか、正論を言われたフィップは押し黙る。
……まあ、確かに話しかけたのは俺だからな。
「それと、お隣の熊のぬいぐるみを抱き締めてるのが、噂のアリス・アーデルハイト王女様かな?」
「む。お前と言い、コイツと言い……なぜ〝リッチ〟を持ってる私を、そう簡単に見つけられるのですか?」
(ん、どういう意味だ? アリスの持ってるリッチ……〝熊のぬいぐるみ〟は、普通の物じゃ無いとは思っていたが、何か〝ステルス性能〟でもあるのか?)
言われてみれば、この〝異世界〟で、ゴスロリ服を着て、大きな熊のぬいぐるみを持った7~8歳ぐらいの小さな女の子なんて、嫌でも目立つ筈だ。
でも、すれ違う人や、道を歩く人は、アリスをあまり気にしていない……
というより、見えてないようにすら思えた。
普通なら、じっと見るとまでは行かなくても、無意識に、チラっと目で追う程度には目を引く姿だろう。
それに俺が最初〝激辛スープの店〟を羨ましそうに眺める、アリスに声をかけた時も、アリスは俺に話しかけられた事に対して、かなり驚いていたしな。
「うーん、見えるものは見えるからかな?」
白フード少女は、まるで、アリスに語りかけるような感じで、返事をしている。
「──って、そうだった、それだよ、それ!」
と言い、白フード少女は俺の方を振り返り……
ひょこ、ひょこ、ふむ、ふむ。
俺の全身をじっくりと観察し始める。
だが、不思議と俺はこの少女への不快感は無い。
「ふ~む、なるほど、なるほど。もしかして、君がそうだったりするのかな? ──稗月倖真君?」
白フード少女は、くるりと俺の周りを一周し、
『う~ん』と考える仕草をした後に……
俺がこの世界から見て〝異世界から来たこと〟を含めて話した──クレハ以外には伝えていない筈の、俺の〝フルネーム〟を、女の子っぽく少しだけ首を傾げた可愛らしい仕草で、ゆっくりと口にするのだった。
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