第48話 魔王信仰2
*
「──な、何だ、今の爆音は! 落雷か!?」
隊を統率しながら〝魔王信仰〟が現れたという、現場へ急ぎ向かう中、都市に轟く爆音に警戒したシスティアが足を止める。
「魔法ね。使ったのはユキマサみたいよ。それに〝千撃〟と〝桃色の鬼〟にアリス王女も勢揃いだわ」
都市に雷鳴が響くと同時に、ヴィエラは空高く飛翔し、その様子を確認すると、再び下に降りてきて、その見たまんまの状況を簡単に報告してくる。
「ユ、ユキマサくん、本当に何やってるの!?」
「ふふ。クレハちゃんはユキマサが心配?」
呆れ顔のクレハにヴィエラが問いかける。
「し、心配と言いますか、何と言いいますか……」
「というか、あの馬鹿! クレハに心配かけてるんじゃないわよ!」
「え、エメレア、お、落ち着いて……!」
ヴィエラの質問に、少し顔を赤くしながら答えるクレハを横目に、怒った様子のエメレアを、いつも通りあたふたとしながら、ミリアが宥めている。
「お前達、遊びに来てるんじゃないんだぞ! もっと気を引き締めろ!」
「「「すいません……!」」」
システィアのお叱りで、
改めて、一同は気を引き締める。
「そうね、今の雷撃で報告にあった〝禁術者〟も倒されたみたいだし。どちらにしろ合流を急ぎましょう」
*
「「「「「………」」」」」
──ビリ、バチッ、バチッ
「まあ、これぐらい、丸ごと焼いちまえば核とやらも壊れるだろうし、再生も何も無いだろう?」
俺は〝黒影元マント〟が跡形も無く消し飛んだのと、再び再生する様子が無いのを確認する。
「な、今のは何なのですか? というか、お前は本ッ当にバカなのですか!? こっちまで吹っ飛んでたらどうするつもりだったのですか!」
「いや、だから、少し威力は調整しただろうが? 現に、お前ら無傷だろ?」
流石に大通りでは無くとも街中で、しかも近くにアリスや第3隊の〝鳥人族〟がいる状態で、一切周りを気にせず〝雷撃〟を吹っ放っしたりはしない。
(まあ〝雷撃魔法〟自体を使うの初めてだったから、少し練習を兼ねて威力調整をしたって理由もあるが)
「「「「「……」」」」」
何やら引き気味のアリスと第3隊の鳥人族達と、
「あはは! 頼もしいじゃねぇかよ!」
楽し気に笑うフィップ。
「──ッ!?」
すると、次の瞬間──
バッ! っと、先程の報告のあった、残りの〝魔王信仰〟の奴等が一斉にアリスに向かい飛びかかる。
(この状況で来るのか?)
今回の主戦力であろう〝影黒元マント〟が倒されたから、撤退するかと思っていたが、何か策があってか無くてかは知らないが、突撃してくるようだ。
(てか、皆〝怪しげなマント〟にマスクを被ってるじゃねぇかよ? 制服なのか……?)
俺は応戦する為〝魔力銃〟を取り出そうとするが──
ドンッ!!
その前に動いた〝アーデルハイト王国〟のトップ戦力である──〝千撃〟と〝桃色の鬼〟により〝突撃マント集団〟は、瞬時に殲滅させられる。
「ここに来て、突撃とは逆に気味が悪いですな?」
「〝魔王信仰〟何て元々こんな感じだろ? 頭の中は魔王か、殺しぐらいしか無い奴等だ。〝自爆〟とさっきみたいに特定の奴が使える〝禁術〟にだけ気を付けろ」
さっきの件を、自分のミスだと言って、負い目を感じている様子のフィップは、自身も厳しい目で辺りを見渡す。
(まあ、後は心配無いだろう)
この一瞬で、顎、心臓、顳顬、後頭部、脛椎といった、人体の急所を二人は的確に叩いている。
〝魔王信仰〟の者は、立つことは愚か、意識を保つの事さえも難しいだろう──それに今のコイツらには魔力の気配は一切ない。完全に意識も飛んでるな。
「──か、確保!!」
「「「「はッ!」」」」
「皆さん、私たちも手伝いますよ!」
「「「了解!」」」
そして〝アーデルハイトの兵士〟と〝第3騎士隊〟が縄や魔法で〝魔王信仰〟の者を束縛していく。
「舌を噛みきられないようにもお願いします。この者達には少々聞きたい事がございますので……」
「「「了解しました!」」」
「……取りあえず。一段落か?」
「そのようでございますね」
「そうか。俺は〝第8騎士隊〟と鉢合わせたら、色々と面倒そうだからな? フィップ、後は任せていいか?」
「あ? 待てよ、お前どこ行くんだよ?」
「ほとぼりが覚めるまでは街でもぶらつく予定だ」
「お、お待ちください! ユキマサ様、この一件で、ギルドから賞金も出るかと思いますので、よろしければ少しお待ちいただきたいのですが?」
慌てた様子で〝第3騎士隊〟のフィオレが、地面にグーにした片手を付きながら頭を下げ、俺に話しかけてくる。
「何だ、賞金がでるのか?」
「はい。元より〝魔王信仰〟には、懸賞金がかけられてる者もおりますので──しかも〝禁術者〟ともなれば、ある程度の賞金は確実かと思われます」
「……まあ、手柄はお前達にやるよ? じゃあな!」
少し考えたが、俺はそう言い残し、恐らくはブチキレているであろう……エメレアが来る前に──この場から、そそくさと立ち去ろうとするのだが……
がしッ……
俺の服の袖をアリスに捕まれる。
「私も行くのです」
(ま、まあ、俺は構わないが……)
俺は〝妖怪世話焼き爺〟こと──千撃をチラリと見て、目線で『どうする?』と聞く。
「ふむ……」
「私も行くのです」
大事な事なのか……クイ、クイッと俺の袖を引っ張りながら、先程と同じ台詞をアリスは二回繰り返す。
「──なら、あたしも行くぜ? それなら文句無いだろ? なあ、老いぼれ小僧?」
「……そうですな。フィップ先輩が一緒なら何も言えますまい。この件の後処理は私がやっておきましょう」
「む? たまには良いことを言うではないですか?」
「ユキマサ殿とフィップ先輩が同意見なら、私が例え力ずくで止めようとしても、勝ち目は無さそうですからの。ユキマサ殿、お嬢様を何卒よろしくお願い致します」
妖怪世話焼き爺は深々とお辞儀をしてくる。
「……任された。街を少し回ったらギルドに戻るよ」
「畏まりました。申し遅れましたが、私は〝アーデルハイト家〟の〝執事長〟を勤めております──ジャン・ウィリアムと申します。以後、お見知り置きを」
―ステータス―
【名前】 ジャン・ウィリアム
【種族】 人間
【性別】 男
【年齢】 78
【レベル】90
と、異世界恒例のステータス画面を見せてくる。
「随分とレベルが高いな? 執事長?」
そして俺もいつも通りのステータス画面を見せる。
―ステータス―
【名前】 ユキマサ
【種族】 人間
【性別】 男
【年齢】 16
「私の場合は、無駄に歳とレベルが上がってしまっただけに過ぎません。それと私の事は、気軽にジャンと呼んでくださいませ。勿論、呼びづらければ〝妖怪世話焼き爺〟でも構いませんぞ?」
ほほほ。と、ジャンは冗談めかしに陽気に笑う。
「分かった。じゃあ、本当に気軽に呼ばせてもらうぞ? ──ジャン? アリスからは、朝から晩まで、それはそれは世話を焼くと聞いているよ?」
「それは、それは〝執事冥利〟に尽きますな!」
(執事冥利か……これも初めて聞く言葉だな? それはそうと、異世界には〝妖怪〟だとか〝幽霊〟だとかはいるのか? まあ、もう何が現れても、あまり驚きはしない自信はあるけどさ?)
──、……幽霊……か……。
『──お化けでも、幽霊でも、何でも良いから……私は……もう一度……もう一度だけ──おとーさんとおかーさんに会いたい!』
そんな事を昔……理沙が泣きながら言っていた事があったな──
「ユキマサ、どうしたのです?」
ぎゅッと、相変わらず〝リッチ〟を抱き締めてるアリスが、じッと俺を下から見上げる形で聞いてくる。
「いや、何でもない……」
だが、俺のその返答が、あまりお気に召さなかったらしい様子のアリスちゃん王女は……
「全く、人が心配してるのに、何なのですか!」
と、少しご立腹みたいだ。
それにしても……異世界に来てからというもの、やけに俺は理沙や昔の事を思い出す──何でだろうな?
──新手のホームシックってやつだろうか……
異世界ホームシック……いやいや……まさかな?
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