第472話 大聖女vs魔王
*
「エルルカさんが来たか、これは嬉しい誤算かな。あっちは3人に任せておいて大丈夫そうだね──」
ノアは空の黒雲、その先を見据える。
「よく気づくじゃねぇか、白女」
気づいたことに気づいた愧火は不敵に笑う。
「あれは落とされたら厄介かな、直撃したら街が消し飛ぶよ。うん、比喩無しで……」
雲の上に隠されながら、愧火が魔力を集めマグマのように赤い弾、さながらミニ太陽のような形の、魔法で作られた大弾がジリジリと大きくなっていく。
大都市と言えども、人類が築いた街一つ程度なら軽々と破壊するであろう、それを愧火はパズルでも組み立てるかのように、楽しげに、怪しげに、そして着々とその魔法の威力を練り上げていく。
「貴方を倒せばあれは消えるのかな?」
「さぁ、どうだろうな? やってみるか?」
「うーん、難しいこと言うなぁ。私の本分は超防御特化型。言わば盾なんだよ。実の所、魔王を倒す矛が私には無いんだ。まあ、だからって貴方の討伐を諦める理由にはならないけどね。私もそれなりには攻撃魔法も魔力も使えるから──ただの水滴でも時を重ねれば岩をも削る。そんな言葉もあったよね♪」
無言で話を聞いている愧火にノアは攻撃を仕掛ける。魔法でも、武器でもない、右足に魔力を込めた回し蹴りだ。
山一つぐらいなら半壊させる威力の蹴りだ。
流石の愧火もこれには刀に魔力を込め防御に徹するしかなかった。
「うん、防がれるのは、分かっていたよ」
瞬時にノアは次の攻撃に移る。
魔法で自身の何倍もある青い炎を纏った大剣を作り出し、愧火に振るう。
先ほどの蹴りで愧火の刀は斜め上に弾かれており、懐が手薄だ。一瞬の隙をノアは狙った。
ノアの大剣は愧火の左半身の横腹から斜めに斬り上がる。胴体を真っ二つにするつもりで斬ったが、愧火は後ろに飛び、最低限のダメージでノアの攻撃を乗り切る。
斬られた愧火は笑っていた。まるで自分にダメージを負わせた敵が目の前にいて嬉しいかのように。
「いいねぇ、戦いはそうこなくちゃ、楽しくねぇ」
「私は逆かな、戦いはあまり好きじゃないんだ。争いの大抵は不幸しか生まないからね」
「じゃあ、なぜ、お前は戦うんだよ?」
「私の戦争はね、奪う為、傷つける為に戦うんじゃないんだ。誰かを守る為、助ける為に戦うんだ。言ったでしょ? 私は盾だって──まあ、貴方には分からないかな。バカだって笑われるのがオチかな」
「そうだな、笑っちまうぜ。俺は壊すだけだ。だから守ってみろよォ! 俺からこの街を──大聖女ォ!」
大聖女と魔王がぶつかる。
大気が震え、漆黒の空が割れる。
この日、また歴史が一つ語り継がれることになる。
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