第45話 魔法陣
「──バカなのですか!? あいつは、こんな場所であんな数の魔法をぶっ放す気なのですか! ──あの〝脳天桃源郷ピンク〟はッ!!」
アリスは桃色吸血鬼に指をさし、慌てた様子で怒りながら、がしがしと地面を足で踏みつけている。
「おい、見ろよアリス!? 魔法陣だ! 魔法陣だぞ? やっぱ、魔法と言えば魔法陣だよな!」
そして俺は柄にもなくテンションが上がっていた。
これは凄く個人的な話になるのだが……
ヒュドラ戦の時や自身の〝回復魔法〟等でも〝魔法〟は見ていたが──〝魔法〟と言えば、魔法陣という勝手な憧れを抱いていた俺は、この綺麗な魔法陣を見て、密かにテンションをあげる。
──古代と言えば恐竜に、空と言えば宇宙に、異世界と言えば魔法に、そして魔法と言えば魔法陣だ!
まあ、これも、個人的な意見になるのだが……
簡単に言えば……ロマンだよ! ロマンッ!
こういう、王道的な奴でいいんだよ!
えーと、分かりずらいか?
あー、うん、分かりずらいよな……?
まあ、何だ? ここで親父の言葉を借りると……
『──気持ちが大事だよな!』
そう、気持ちが大事なんだよ! 気持ちが!
まあ、母さんや理沙にこういう話をすると『そうね』と流されたり『どういうこと?』とか、本気で首を傾げられたりするんだろうけどさ……
「……ど、どうすれば、この状況で魔法陣にそこまで興味を示せるのですか……? バカなのです……こいつはスーパーバカなのです! あぁ……しまったのです! あっちにも馬鹿が居ますが、こっちにはスーパーバカがいたのですッ!」
俺をスーパーバカと呼ぶ、アリスちゃんお嬢様は、更にあたふたとしながら、頭を抱えていらっしゃる。
「──あはは、悪い、悪い、どうもここには、聞いてた話の通り、素敵な物が色々とありそうだ……」
俺はここでやっと頭を冷やし、少し落ち着く。
「な、何の話しなのです……?」
不思議そうに首を傾げるアリスは、ギュっと〝リッチ〟を抱き締めて不安を紛らわしている。
「ふはは! 何で、魔法陣にそんなテンション上がってんだよ!? おい少年、お前面白い奴だな! てか、ちゃんとお嬢のこと守れよ? この遊び、実はアタシの首もかかってんだからなッ!」
場合によっては、自分の責任も問われる事を覚悟の様子の桃色吸血鬼。
この複数魔法陣は、そのレベル攻撃ということか?
首がかかってるわりには、随分と楽しそうな様子だな? つーか『少し遊ぼうぜ』のノリで首かけてんのかよ……!?
そして俺は背後のアリスに唐突に問いかける。
「で、アリス? 俺を信じられるか?」
「どういう意味なのですか?」
「そのまんまの意味だ。具体的には、そこの場所を一歩も動くな。その代わりお前を必ず守ってやる」
「むぅ……」
少し考え込むアリス。
まあ、そりゃ、悩むよな?
「一緒に痛いスープ……じゃなくて、辛いスープを飲んだ仲だろ? まあ、無理にとは言わんが、どうだ? 俺を信用できないか?」
「…………はぁ、分かったのです。お前を信用してやるのです。だから、とっととあの〝減給・脳天桃源郷ピンク〟に、一泡を吹かせてくるのですッ!」
ビシッとアリスは桃色吸血鬼に向け指をさす。
「了解した」
「話は纏まったか? てか、お嬢がよく懐いたな?」
「な、懐いてなどいないのです!」
と、怒るアリスは律儀な事に、俺から言われた通りその場から一歩も動かず、一頻り『わーわー!』と文句を言った後〝リッチ〟を抱き締め直しながら、ムスッとしている。
「んな事より、遊んでくれるんだろ? 桃色の鬼? ──まさか、その魔法陣は『実はタダの光るライトなのでした』とか言わないよな?」
屋台の骨付き肉の件に続いて、俺をあまりガッカリさせないでくれよ異世界──? いや、マジで……!
「あたしの名前は──フィップ・テルロズだ。それに言ってくれるじゃねぇか! てか、やっとやる気になったか? 待ちくたびれたぞ?」
どうやら、魔法陣は本物みたいだ……よかった。
(そろそろ対人の魔法戦も、してみたいと思ってた所だしな。丁度いい、逃げるにしても面倒そうだし──ここはちょいと戦わせて貰うぞ?)
「俺はユキマサだ。宜しく頼むよ、フィップ」
「──ああ、じゃあ、死ぬなよ!! 少年ッ!!」
──ヒュヒュヒュヒュッ! ビュンッ!
そんな音と共に、一斉に魔法陣から光熱線的な物を容赦なく撃ってくる。
それに対して、俺は〝アイテムストレージ〟を応用し、一瞬で〝月夜〟から〝魔力銃〟ニ丁に武器を変更する──そして〝魔力銃〟を両手に一丁ずつ持つと同時に〝魔力銃〟に、魔力を込め〝魔力弾〟を撃つ!
次に、俺は無詠唱で魔法を使う──
(──〝七銃奏〟!!)
すると、俺の〝魔力銃〟に魔法陣が浮き出る。
(やっぱ、魔法には魔法陣だよなっ!)
通常、引き金を引けば、一発の魔力弾が発射されるが、この魔法により、一度に七発の〝魔力弾〟が発射できるようになる。
言うなれば〝魔力弾〟の、七点バーストだ!
勿論、その分の〝魔力〟は使うが、
今の俺ならこれぐらいは何て事は無い。
これで、二丁の〝魔力銃〟を合わせて、一回の引き金で、14発の〝魔力弾〟を打てる!
こういう手数が多い相手にはもってこいだ!
そして俺は瞬時に──バン! バン! ドンッ!
と、三回撃ち、14×3で計42発の魔力弾を放つ。
「──魔力弾!? オイ、今何発撃ったんだよッ!」
〝魔力〟も十分に込めた〝魔力弾〟なので、その一発一発が、フィップの攻撃を確実に相殺していく。
これで、アリスに当たりそうなフィップの攻撃は、粗方打ち消せたので、俺は残りの魔法陣を引き付けるように走りながら、フィップとの距離を詰める!
「甘いぜ、少年! ほら──爆ぜなッ!!」
すると、俺の足元に大きな魔法陣が現れ、大きく光り、どう見ても──爆発する前兆をみせる。
(──ッ!! 避けられねぇか! なら──)
俺は〝魔力銃〟を一度〝アイテムストレージ〟に仕舞い──そして、次にそこから〝剣〟を取り出し、瞬時に武器を〝魔力銃〟から〝月夜〟に変更する。
──ドッカーンッ!!!!
フィップの仕掛けた〝魔法陣〟が思った通り、爆発するが、寸での所で──俺は〝魔力〟を込めた月夜で、爆発を魔法陣ごと斬り飛ばす!
その衝撃で、辺りに砂煙が充満する。
俺はそれに紛れてフィップへ急接近する。
「──ッ!?」
「やっと、お近づきになれたな? 飛んでるから、ここまで来るの大変だったぞ?」
「いいねぇ、そうこなくちゃなぁ!!」
──ドォォォォォォンッ!!!!!!!!
俺の剣と、フィップの大鎌が大きくぶつかる!!
次に、俺はそのまま剣を横凪ぎに振り……
──フィップの大鎌を弾く!
そして例の如く、俺は〝アイテムストレージ〟から、さっき買ったばかりの〝短剣〟を取り出し……
大鎌を弾いた事により、一瞬だけ、ガラ空きになった胴体に目掛け、俺は逆手に持った短剣で、フィップを左腹から、右肩に向けて──斬り上げる!!
が──
「おっと、危ねぇな!」
くるッと大鎌を回転させて、フィップは〝大鎌の柄〟で、ガッ! ──と〝短剣〟を受け止めて来る。
「──終わりか? 少年?」
「いいや、チェックだ!」
その言葉と同時に、俺は〝剣〟と〝短剣〟を、
〝アイテムストレージ〟に仕舞う──
大鎌で受け止めていた俺の武器が、急にパッと消えた事で『おぉッ!?』と驚いた声をあげながら、バランスを崩すフィップに……
俺は魔力で空中を踏み込み、踏み込んだ逆の足で、
──ドォンッ!! と〝魔力〟を込めた、回し蹴りをフィップの鳩尾へと叩き込む!!
「おぅ……ガフッ……!!!!」
フィップは苦しそうな声をあげ……
────ドババババーンッ!!!!!!
周囲の建物を巻き込み、派手に吹っ飛んで行く。
──タンッ!
その様子を見ながら、俺は地面に着地する。
(これは一本判定でいいか……?)
「──ッ!!」
──と、次の瞬間、アリスの背後の建物の影から〝短剣〟を持ち、どう見ても悪役と言った、怪しいマントで全身を包み、目以外の顔をフェイスベールで隠した、目の血走った男が、アリスに思いッきり飛びかかる!!
「──見つけたぞ! アリス・アーデルハイト! その心臓は俺様がいただくッ!! これで俺もあの方にお褒めいただける筈だ!! 死ねぇぇぇ! 糞王女ッ!!!!」
★★★★★★作者からのお願い★★★★★★
作品を読んで下さり本当にありがとうございます!
・面白い
・続きが気になる
・異世界が好きだ
などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!
(また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)
★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!
長々と失礼しました!
何卒よろしくお願いします!