第450話 新たな旅の仲間2
*
クレハと黒芒が風呂に行った。
一緒に風呂に入ろうと言い出したのはクレハだ。
日本には風呂での裸の付き合いが親密度を増すと言う古い時代からの文化がある。
異世界でどうなのかは知らないが、悪い結果にはならないだろう。それにクレハのコミュ力は凄いからな、まさにコミュ力お化け。
──数十分後。
「ざ、惨敗……」
ヘナヘナと腰を折り、座り込むクレハは白旗だ。
「ど、どうした? 風呂、気持ちよくなかったか?」
「気持ちよかったよ! でも、惨敗! 黒芒さん何者! お肌艶々の真っ白だし、む、胸も大きいし、綺麗過ぎるよ! これじゃ、私に勝ち目はないよ……」
おおう……何の話だ?
「おい、黒芒、何がどうした?」
「はて、妾は風呂に入っただけだが? 湯船と言ったか、面妖な発想もあったもんじゃな。気に入ったぞ」
相変わらず、余裕の黒芒と、
「ちょっと頭冷やしてくるー!!」
半泣きで去っていくクレハ。
「主様よ、夜はクレハでは手に余る魔物が出るぞ?」
「!? あのバカ、クレハは時々よく分からん行動に出るのは何でだ? いつもは賢いのに!!」
「恋は盲目、よく言ったものじゃの。妾が見てこよう、今日から妾も旅の一員なのじゃからの」
綺麗な黒髪を靡かせながら、ぷかぷかと宙に浮かぶ黒芒がシュッと移動しクレハを追う。
(まあ、任せてみるか)
*
もう何で何で、何でこんなに胸がしくしくするの?
クレハは夜の山をパジャマ姿で走っていた。
これはとても危険だ。無防備にも程がある。頭を冷やす所の話ではない。
夜行性の魔物はレベルが高い傾向にある。クレハには〝空間移動〟のスキルがあるが、黙視の圏内しか移動ができない。日の落ちる夜はクレハの敵と言っても過言ではない。
(ユキマサ君のことになると頭が冷静じゃなくなる)
気持ちには整理を付けたけど、気持ちの制御はどうしてもできなかった。
(あーもう! 私のバカ! 自分勝手!)
と、その時だ──
「ウワォォーン!」
「!? ギガントウルフ!?」
武器、武器と、手探りをするが、今はパジャマ、武器は置いてきてしまっていた。
(まずい、死ぬ! ユキマサ君!)
──ザザザザザザザザン!
ギガントウルフがバラバラに斬れた。
「クレハ、主様が心配するじゃろう、早く家に戻れ」
「黒芒さん……あ、ありがとうございます」
黒芒には扇が左右両手に1本ずつ、合わせて2本が握られていた。これが彼女の武器なのだろうとクレハは確信した。
「無謀過ぎる。主様に怒られても知らぬぞ」
「う、あ、はい。すいません」
ぐうの音も出ない正論だ。
クレハは猛省する。
「帰るぞ。主様の家へ」
「はい。帰ります」
「じゃがまあ主様はクレハを相当気に入っておられるぞ」
「ほ、本当ですか!」
「まあ、妾が手を抜く理由にはならんがの」
そんな話をしながら家に付いた。
今日はユキマサ君に限界まで身を寄せて寝よう。そう私は小さく心で決めた。
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