表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/859

第44話 桃色の鬼



 *


「ぐふッ……まだだ……まだ私は倒れる事は無い……」


「ふむ、まだ立ち上がりますかな?」

「当たり前だ! この世界に守るべき幼女がいる限り私が倒れることはない!」


 剣を支えにしながらクシェラは立ち上がる。


 だが、クシェラの身体はもう限界だ。


 クシェラは〝千撃(せんげき)〟に()()()()()()()()とはいえ、身体のあちらこちらに確実なダメージがある。顎にも一発喰らっていて、脳震盪を起こしており、立つ事もやっとだ。


 相手はアーデルハイト王国の執事長。二つ名は〝千撃(せんげき)〟──レベルは90を越える古強者(ふるつわもの)だ。


 そして、勝負の行方は圧倒的であった。


 ──クシェラの完敗だ。


 力、スピード、技、経験、魔力、魔法、レベルの全てがクシェラよりも遥かに〝千撃〟が上回っていた。


 でも、クシェラは立ち上がる。


「はて、おかしいですな? もう2回程、意識を狩り取ったつもりでしたが?」


「ふん……幼女のいる世界で、意識を失うなど笑止千万! そんな無駄な時間を過ごすつもりは無い!」


「何か強い決意を感じますが、そろそろ決着を付けさせて貰いますぞ?」


「まあ、待て。これを見ろッ!」


 クシェラは胸ポケットからある物を取り出す。


「ただのポーションに見えますな?」


「──愚か者めッ! これはただのポーションでは無い! 我が孤児院にいる幼女の皆に貰った、大切なポーションだ! これがあれば、まだ私は貴様とだって戦える。私は一人では無いのだ! この世界に守るべき幼女がいる限り、私は永久に不滅だ!」


「……70年という年月を生きて来ましたが、貴殿のようなお方は初めて見ましたぞ? ならば、私も少し本気で参りましょう。引くのでしたら今でございますが……どうなされますかな?」


 〝千撃〟は今までに無い殺気を込める。


 その瞬間、辺りの空気が変わるような、ゾクッとする感覚をクシェラは感じる。


 ──でも、クシェラは下がらない。


 この世界に守るべき幼女がいる限り……

 クシェラの頭に撤退と言う文字は無い!!


「言った筈だ! 幼女は永久に不滅だとな!」


 と、その時──


 そう改めて宣言するクシェラの上空から、クシェラの聞きなれた女性の声が聞こえてきた。


「《走れ・水の波・数多の龍》──〝水龍の波(ドラコ・ウーダ)〟」


 ──ドバン! ズドン!


 魔法で作られた二匹の水の龍がクシェラを襲う。


 そして、この攻撃は上空からの()()であった。


「ぐふぁ!」


 既に、千撃との戦いで意識が朦朧としていたクシェラは、この攻撃をまともに喰らってしまう。


 ──シュタ……と、


 この攻撃の放った張本人が地面に降りてくる。


「き、貴様ッ! 何故だッ!?」


 クシェラはその人物を睨むが、そんな事はお構い無しに、その奇襲を仕掛けた女性は口を開く。


「すまない、私の愚兄(ぐけい)が迷惑をかけたな!」


 と、奇襲を仕掛けた犯人こと──クシェリ・ドラグライトは〝千撃〟に向け謝罪する。


「──愚兄と申されますと、ご兄弟ですかな?」

「ああ、不本意ながらこれは双子の兄だ。──ん? まだ息があったのか? 喰らえ! トドメだ!!」


 魔力を込めた踵落としを、クシェリはクシェラの鳩尾(みぞおち)へ容赦無く叩き込む!


「ゴファッ!! き、貴様、な、何をする……」

「く、まだ息があるか。仕方ない《響け──》」


 と、クシェリは魔法の詠唱を始めるが……


「待ちなされ、お嬢さん。トドメは必要ないですぞ」


 それを〝千撃〟により止められる。


「ん? そうか? 別に私は構わんが?」

「失礼……本当にご兄弟ですかな?」


「残念ながらな。それにこれは、私が責任を持って回収する──後、貴様に伝言だ『ちゃんとギルドに送るから心配すんな』だそうだぞ?」


「その伝言は()()()()()の彼からですかな?」


「他に誰がいる? それとお姫様も元気そうだったぞ? 誘拐だなんて(はなは)だしい」


「……かも、知れませんな? ですが、私は立場上、お嬢様を保護しなければなりませんので、先を急がせてもらいますぞ?」


「勝手にしろ。場所は言えんが、追う者の足止めをする約束はしていない」


「……? ちなみに、そちらのご兄弟を倒す事は、お約束されていたのですかな?」


「いいや。私は基本、この愚兄が騒いでいたら止めるようにしている。(やかま)しいからな?」


 そう、あっけらかんな態度で言うクシェリに、

「さ、左様でございますか……では、失礼致します」

 と、これまでは優雅に話していた言葉を少し詰まらせながら〝千撃(せんげき)〟は、音も無くその場を去る。



「──へぇ、あれが吸血鬼か?」


 先程、いきなり上空から魔法をぶっ放して来た、桃色の長めな髪をサイドテールにした女を観察する。


(〝桃色の鬼(ロサラルフ)〟……これもシスティアが少し話していた奴だな──それとコイツはアリスが言うには〝妖怪世話焼き爺〟よりも実力が上らしい)


「何故、まず()()なのですか? フィップは、レベルは90越えの(ウチ)の国の()()()()なのですッ!」


 いつの間にか、両手で〝リッチ(熊のぬいぐるみ)〟を持っているアリスは、少し慌てている様子だ。


「おい、そこのスイセン服の男? 早速だが、お嬢を返して貰うぞ? あたしはまだ眠いんだ……早く帰りたい」


 そういうと桃色吸血鬼は、一瞬で間を詰めて、


 ──ビュンッ!!


 と、ごっつい大鎌を縦に振りかざしてくる。


 俺は、アリスを片手で抱え、──バン! と、バックステップで後ろに下がり、その攻撃を避ける。


 ──ドガンッ!!!!

 

 桃色吸血鬼の大鎌が、俺が今さっきまで居た場所の地面を、粉々に割る。


「お、避けたな?」


 すると、直ぐに桃色吸血鬼は、ドンッ! と、地面を蹴り、大鎌を持ち直して、追撃してくる。


「そりゃ避けるだろ? てか、最初の魔法……アリスもいたんだぞ、躊躇無く打ってきたよな?」


 ──キンッ! ガキン! キン!


 俺は〝(月夜)〟で──桃色吸血鬼の攻撃を捌きながら、問いかける。


「何を言うかと思えば、そんな事か? ──お前、あの程度の魔法でどうにかなるような奴じゃないだろ? こないだのヒュドラの〝変異種(ヴァルタリス)〟を倒したってのはお前だな?」


 ニヤリと桃色吸血鬼は交戦的な笑みを浮かべる。


「な、お前がそうだったのですか!?」


 と、驚くのは、熊ぬいぐるみのリッチを両手に抱えた状態で、更に俺に抱えられてるアリスだ。


 さっき、チラッとクシェリも言ってたんだがな? アリスはその話しはよく聞いてなかったみたいだ。


「……」

 と、無言の俺に……

「沈黙は()なりだぞ? 少年ッ! ──まあ、吹っ飛びなッ! ──〝爆鎌(ブラスト)〟!」


 ──ッ!?


 ドカァーンッ!!!!


 桃色吸血鬼が大鎌を横薙ぎに振るい、それに合わせて、発動して来た魔法により、俺はアリスを抱えたまま吹っ飛ばされる! 


「──たくッ、服が破れちまうじゃねぇか!? 寝間着以外は、これしか着るもん無いんだぞッ!」


 魔力を込め、俺はアリスを守るようにしながら、受け身を取るが……思いの(ほか)、後方へと吹っ飛ばされる。


「まったくなのです。アイツは減給なのです!」


 俺に抱えられたまま、ぷんすこ怒るアリスも、どうやらゴスロリ服が、切れたり、汚れるのはお気に召さないらしい。


「まだまだ本気じゃねぇな? 少し遊ぼうぜ?」

 

 好戦的な笑みのまま『遊ぼうぜ?』と言いながら、桃色吸血鬼が──パチンッ! と軽く指を鳴らすと……


「──ッ!?」


 上空、正面、左右の、あちらこちらに──まあ、如何(いか)にも『魔法を撃ちますが、何か?』と言わんばかりの、沢山の()()()が俺とアリスを取り囲んでいた。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ