第43話 追いかけっこ2
*
(……少し騒がしくなってきたな)
屋根の上を走りながら、下を見てみると、頭から足の先まで、全身を鎧で多い隠した兵士達がそこら辺を多数うろちょろしている。
──ギルドの騎士達とも、また違った感じだ。
恐らくは〝アーデルハイト王国〟の兵士だろう。
「お嬢様はどこだ!」
「アリスお嬢様! 出てきてください!」
「探せ! 黒髪にスイセン服の男が連れ去ったらしいぞ!」
あーあ、俺が連れ去ってる事になってるよ。
取り敢えず、目立つ屋根の上からは一度降りて、人通りの少ない路地を俺は進んで行く事にする。
「全く……ちゃんと書き置きも残して来たのに、あいつらは、字もまともに読めないのですか! あのスットコドッコイ共は!」
降りた先の路地の地面を、ビシバシと足で叩きながら、ぷんすことアリスは怒っている。
すると、その時……
「──ん、見つけたぞ! 食らえッ!!!!」
ビュン!!
パシッ!!
(……空からなんか降ってきたな)
俺の脳天を目掛けて空から踵落としが降ってきた。
ついでに〝魔力〟での強化のおまけ付きだ。
で、その踵落としを、俺はバシッと片手で掴みとったわけ何だが……
それに関しては、こいつも予想外だったらしく……
「……!! やるな? それとも、そんなに私の足に触りたかったのか?」
などと、踵落としの襲撃者は驚いた表情を見せた後「意外とむっつりだな?」とか言ってくる。
「綺麗な足なのは認めるが、俺は別に足に対して変な性癖は無い。それに、再開の挨拶に踵落としはあまりお勧めはしないぞ? ──クシェリ?」
今しがた〝脳天踵落とし〟を仕掛けてきたのは、先ほどの〝ロリコン紳士〟のクシェラの双子の妹である──クシェリ・ドラグライトであった。
「ふむ。でも、そのお陰でその私の綺麗な足に触れられたんだ。それで許せ。それに、私はそこのお姫様に用事がある」
「何なのです? この女は?」
不機嫌そうな顔でクシェリを睨むアリス。
「さっきの金髪の男の、双子の妹のクシェリだ。ちなみに、ギルドの副マスからは〝ショタコン淑女〟とか呼ばれてたぞ?」
「ん、そう誉めるな……? 調子が狂うだろ?」
本当に嬉しかったのか、クシェリは顔を赤くして視線をそらす……誉めたつもりは無いんだけどな。
(まあ、感想は自由だ。放っておこう……)
「つーか。何でお前がアリスを狙うんだよ? 〝アーデルハイト王国〟とやらに雇われたか?」
「雇われてはいないが……今、ギルドでは、そこの〝行方不明の王女様の捜索〟に〝アーデルハイト王国〟から賞金が出ている──そして私はその賞金で、孤児院の皆に〝大猪の肉〟を振る舞いたいのだ」
なるほど。王女様が行方不明ともなれば、賞金ぐらい簡単に出るか。この後は〝賞金稼ぎ〟みたいな仕事柄の連中にも、気を付けなきゃだな。
「随分、具体的だな? ……てか〝大猪の肉〟って〝料理屋ハラゴシラエ〟の店か?」
「ん、情報が早いな? ああ、どうやら昨日と一昨日に入荷したらしい。しかも、品質は最高ランクなのに、破格で仕入れられたからと、今なら相場の半額以下で〝大猪の肉〟を食えるらしくてな」
(あの店……安く置いていったとはいえ、相場の半額以下で販売してたのか? そりゃ混むわけだな? 店主の料理の腕も確かだったしな)
「あー、クシェリ? 孤児院分の〝大猪の肉〟なら俺が分けてやるから、ここは引いてくれないか?」
「何? どういう意味だ?」
クシェリは怪訝に眉を動かす。
「そのまんまの意味だ。その破格とやらで〝大猪の肉〟を卸したのは俺だ。それでその肉は、まだ残ってるから、それでどうだ?」
「……それで私に引けと?」
「だな。嫌なら断ってくれていい。ただ、どちらにしろ、俺はアリスを渡す気は無い。散歩に付き合うって約束したんでな?」
「ふむ、お前も物好きだな?」
「最後はちゃんとギルドに送るから心配すんな?」
「……分かった。それで手を打ってやろう。そもそも、ヒュドラの変異種を単独で倒すような奴に、私も挑む気は無いからな? 願ったり叶ったりだ」
と、クシェリは警戒していた力をスッと抜く。
「そうか。なら、交渉成立だな? 肉は明日にでも届ける。それでいいか?」
「分かった。サービスで居場所は黙っておいてやる」
「そりゃ破格だな? 助かる。それじゃあ、俺達はもう行くぞ? じゃあな!」
と、俺とアリスは再び路地を進む。
*
クシェリと別れた後──俺はアリスと路地を走り、ある程度の所で、今度は通りの違う屋根の上に上がり、更に屋根を走って露天街から距離を取る。
「上手く巻いたのですか?」
「一先ずは、だな。それにあの〝妖怪世話焼き爺〟が諦めるとは思えないしな?」
だが、あれから〝妖怪世話焼き爺〟が追ってくる気配は無い。
(クシェラの奴、よく時間を稼いだな?)
こう言っちゃ悪いが、クシェラが、あの〝妖怪世話焼き爺〟に勝つことは、まず無理だろう。
爺さんも手加減するって言ってたから任せてきたが、あの爺さんが本気で──それこそ、殺す気で向かって来ていたら、あの場は任せていなかった。
これはクシェラが弱いのではない。あの、爺さんが……つまりは〝妖怪世話焼き爺〟が強いのだ。
自分では、老骨とか言ってたが、あんな老骨がそうそういて堪るか! ……ってぐらいには強い。
──!!
────ッ、何か来る! 今度は何だ!!
「──〝光戦閃鎌〟!!」
──ピカッ! ビュンッ!!
(これは、魔法かッ!?)
俺が、妖怪世話焼き爺が追って来る気配は無いな……とか考えていた矢先に、俺とアリスは真上からビームみたいな〝魔法〟で襲撃を受ける。
「──ふひゃあ!!」
瞬時に俺は左手で『ふひゃあ!』と驚くアリスを庇うように抱え、同時に右手には〝月夜〟を構える。
そして、剣に〝魔力〟を込め……
後は半ば力業で、飛んできた魔法を吹き飛ばす!!
「クソ、何だ、今度は!!」
と、魔法の放たれた方を俺は睨み付ける。
すると、その場所……というか、空中には、桃色のサイドテールの髪に、大きくゴツめな大鎌を片手で持って、こちらを見下ろす女性の姿がある。
「〝老いぼれ小僧〟が、まだ、お嬢を保護できて無いって聞くから、昼間だってのに折角出てきて見れば、随分と楽しそうだな? あたしも混ぜてくれよ?」
アリスを〝お嬢〟と呼び──恐らくは、妖怪世話焼き爺の事を〝老いぼれ小僧〟と呼ぶ──
この空中に浮かんでる。桃色の髪の20代ぐらいの見た目の女は、眠たげな様子で軽くあくびをしながら、挑発的な笑みを浮かべて話しかけてくる。
そして、その挑発的な笑みの最中、チラりと見えた口の中には、牙の用な物が生えている。
「うげ……まさか……この時間帯に、コイツが出てくるとは予想外なのです……」
「──よう、お嬢? 元気そうで安心したぞ?」
「気を付けるのです! コイツは実力だけなら、あの妖怪爺をも凌駕するのです! 通り名は〝桃色の鬼〟──そして、見ての通り、吸血鬼なのです!」
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