第429話 銀雪祭20
お焚き上げの炎と月明かりが照らす雪の祭りの会場をイカプリオが舞う。
イカとは思えないキレッキレな躍りだ。最早神々しさまである。白いイカの王子様とはきっと奴のことを言うのだろう。実際そうなのだし。イカプリめ。
ポルケッタのパニーノを食べ終えたリナちゃんもヒロイン役、そして正式な〝イカソムリエ〟として、イカプリオと華麗なdanceを披露している。
ワインには〝ワインソムリエ〟が、野菜には〝野菜ソムリエ〟が、そしてイカには〝イカソムリエ〟が──この世界では然も当然のように浸透している。
ソムリエとは元々、アルコール飲料を提供する飲料サービス業従事者の意味の他に──〝荷物を運ぶため動物を扱うひと〟を指して使われた言葉だった筈だ。
『動物を扱うひと』と言う言葉だけ見れば、イカを扱うリナちゃんをイカソムリエと呼んでもあまり不思議ではないのだろうか──と、少しだけ思えてくる。
(確かフランスやイタリアではソムリエは国家資格だった筈だが、この異世界ではどんな扱いなのかね?)
履歴書の資格項目に〝イカソムリエ〟と書いた人物が面接に来たら100人中95人は『これは何ですか?』と質問することだろう。
ふと、横を見ると、膝の上からリナちゃんが居なくなり、ちょっぴり寂し気な様子のクレハはオレンジジュースを口に運ぶ。
「ウェーイ! 今日はとことん飲むっスよ! 年に一度の大雪祭り──テンアゲでいきやしょう!」
大人数で盛り上る会場、踊る人々とイカ、流れる音楽、燃えるお焚き上げ、そんな夜空に浮かぶ月──
酒や物も飛ぶように売れた。この日だけは上司も部下も猫も杓子もイカも神でさえも無礼講の雪の祭り。
そんな光景を一人だけ、ツーっと涙を流し、ゴシゴシと涙を拭きながら見る人物がいた──アリシアだ。
「どうした? 迷子にでもなったか?」
俺はアリシアに背中から声をかける。
「ふふ、そうかも。幸せな世界に迷い込んできちゃったみたい。目が見えるの、皆が笑ってて、踊ってて、ご飯が美味しくて、お酒が進んで、楽しくて──」
そんな全てが嬉しいの、幸せなの──と、アリシアは、また泣き出した。
「……ユキマサ君、モテるでしょ?」
「何でそんな話になる。生憎モテた記憶は無いな」
「鈍感なんだね。更に天然ジゴロだ。話しかけてくるタイミング、結構よかったよ。チャッチャラー君が居なかったら少しだけ危なかったかも。なんてね☆」
泣き止んだアリシアは立ち上がると「クレハちゃん、どうにかしてあげなよ? 泣かせたらお姉さん許さないからね?」と優しい声で耳打ちしてきた。
「──ユキマっさん、アリシアさん!」
「ユキマサ君、アリシアさん、皆でごはん早く食べちゃいませんか? 寒いから食事が冷めてきちゃって」
「おう、まだまだ食えるぜ!」
「私も、あともう少し飲んじゃおうかしら?」
そんなどうってこと無い話だが、俺たちはバカみたいに盛り上る。この後、チャッチャラーと俺は飲み比べ、食べ比べをした。見届け人はクレハとアリシア。
──どんだけ飲んで食べたか覚えてない。
ただただ楽しかったのを覚えている。
イカプリオとリナちゃんの躍りを見ながら、曲を聞いて、お焚き上げを見て、雪と月を見た。
クレハもアリシアも手を叩き、時に俺とチャッチャラーのお酌をし、それはそれは楽しそうに笑ってた。
そんな楽しい雪祭りが終わりに向かう──
お焚き火が終わると同時に今日イチの拍手喝采が起きたのを酔った頭でもハッキリと俺は覚えていた。
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