第425話 銀雪祭16
「「「「──乾杯ッ!」」」」
俺とアリシアはビール、チャッチャラーは銀雪酒なる、この街の特産の酒、クレハはオレンジジュースで乾杯した。
「くぅぅぅ~、美味いッスね!」
「お酒なんて7年ぶりだわ」
「アリシアは酒も飲んでなかったのか?」
「ええ、目が見えなくなってからは、必要最低限の食事と水かお茶で生活してたわ。まあ、一番は目が見えなくなって、人生に絶望してたから、お酒なんて飲む気にすらならなかったのが理由ね。そんな精神状態で飲んでも美味しくないし、きっと身体を壊すだけね」
そう言うと、また一口クピっと酒を呷る。
ツチノコの唐揚げを食べてみると、これがやたら美味い──この世界ではツチノコは一般的な食材で、蛇では無く鳥らしいが。うん、美味いな。
俺たちは食事の箸を進め、飲み、笑い、語りあった。4杯目の酒を木樽に注いだ辺りだった──
「ひぐっ……ぐす……びぇぇ……」
チャッチャラーが泣き始めた。
「どうした? 酒で泣く癖でもあるのか?」
「……無いっスよ……俺……チャラ男ッスから……」
ひっく。と、しゃっくりをし、鼻水を垂らし、嗚咽を漏らしながらチャッチャラーはぎこちなく笑った。
てか、チャラ男は関係ないだろ、別に。
そんな様子をアリシアは黙って酒を飲みながら見つめ、クレハは美味しそうに食べていた鴨と牛タンのサンドウィッチを食べる手を一瞬だけ止めた。
「アリシアさんと……こうして……一緒に酒が飲める日が来るなんて……思いやせんでした……」
ガッ、と、立ち上がり残りの木樽に入った酒をチャッチャラーは一気に飲み干した。
「……ユキマサさん、アリシアさんの目を治してくれて、本当に本当にありがとうございましたっ!」
礼を言ってきた雪積もる地面に土下座で。
「少し前にも聞いた気がするな。どういたしまして」
「何度言っても足りないッス! 必ず、俺、この借りは返すッス! 立場を押してでもユキマっさんのピンチには駆けつけるっス!」
「ん、期待しとく。アリシア、幸せにしてやれよ」
「それは言われなくても当たり前ッスよ!」
今日イチの笑顔、更新されたかな?
それぐらい良い顔でチャッチャラーは笑った。
「──俺、正義のヒーローに成りたかったんス」
またもや唐突な切り出しだった。
「悪い奴を懲らしめて、子供たちから、街の皆からたっくさん頼られちゃうような。そんなヒーローッス」
今度は明るく酒を飲むチャッチャラー。
「でも、俺はチャラ男です。ヒーローとは似ても似つかない姿ッスよね」
「チャッチャラー君がチャラ男になったのは私のせいね」
「アリシアのせい? チャラ男が?」
思いがけないチャラ男の発症の原因に俺は首を傾げるのだった。
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