第40話 痛いスープ
「やっぱ、気が向いた。そのスープを2つ貰えるか?」
俺は先程の辛いスープの店の〝食べきったら賞金・小金貨1枚〟という……所謂、激辛系のチャレンジメニューである──〝爆弾唐辛子とサソリ海老の激辛スープ〟を2つ注文する。
「おお、さっきの兄ちゃんか! 本当に気が向いて戻ってきた奴は兄ちゃんが初だぜ? ……て、おいおい、もしかして1つは、その小さい嬢ちゃんが食べるってわけじゃねぇよな?」
『正気か?』みたいな顔で、店の親父は俺とゴスロリロリッ子を交互に見てくる。
「そのまさかだ。本人が食いたいらしいんでな?」
「悪いことは言わないからやめときな……ウチのスープの辛さは半端じゃねぇんだぞ?」
「俺もそう言ったんだが、どうも〝辛い物〟が好物らしい。責任は俺が取るからそこを何とか頼むよ? それに、もし食べてみてダメで〝ポーション〟でも〝魔法〟でも何を使ったとしても〝賞金チャレンジ〟とやらが無くなるだけだろ?」
このチャレンジメニューは〝ポーション〟や〝回復魔法〟と〝痛覚麻痺系の魔法〟は、食べてる途中に使ったら即失格らしい。
だが、逆を言えば〝賞金のチャンス〟は無くなるが、最悪……俺の〝回復魔法〟を使えば激辛ぐらいはどうにでもなる筈だ。
「まあ、確かにそうだが……どうなっても知らんぞ? それと、スープの代金の銀貨2枚は前払いだ!」
「悪いな、助かる」
俺は銀貨2枚を〝アイテムストレージ〟から取り出し、店の親父に渡す。
「毎度、すぐ用意するからちょっと待っててくれ」
と、言われスープが来るのを待つ。
すると、何やら後ろからは……
「何だあの〝スイセン服〟を着た黒い男と、隣の黒いチビは? まさか、バイスさんの所の〝激辛スープ〟を食うつもりか?」
「まさか! 見てるだけだろ? 俺の友達は、あれ一口食ったら辛さで失神していたぞ?」
「あ、相棒ッ! おい、しっかりしろ! ど、どいてくれ、その店の激辛スープを食べた俺の相棒が、辛さで死にそうなんだ! み、道を、道を開けてくれ!」
「おい、あれ〝幼女虐待〟じゃないのか? だとしたら、あいつ〝ロリコン紳士〟のクシェラさんに〝馬の骨〟にされるぜ?」
(……何か、聞いた事のある名前が出てきた気がするな?)
てか、本当に〝ロリコン紳士〟で通ってるのか?
後、だから『馬の骨にされる』って何だよっ!?
「何やら、ピーピーピーピーうるさい輩がいるのですね? 後で〝リッチ〟で蹴散らしてやるのです!」
「何だ? リッチって?」
ロキの事か? いや、あいつはまた違うか?
「〝リッチ〟は〝リッチ〟なのです。お前の目は節穴なのですか?」
と、俺の目の前に、ゴスロリロリッ子は〝熊のぬいぐるみ〟をどーん! と〝ドヤ顔〟で見せてくる。
(〝熊のぬいぐるみ〟の名前かよ? リッチって言うのかそれ? てか、これ──いや、まあいいか……)
そんなこんなで待っていると……
「──へい、お待ちッ! 〝爆弾唐辛子とサソリ海老の激辛スープ〟だ! 見事に食べきったら、小金貨1枚をプレゼントするぜ!!」
店の親父が〝激辛スープ〟を渡してくる。
これ、まだ食べてないのに匂いで、もう辛いぞ?
これホントに大丈夫か? と、隣にいる〝ゴスロリロリッ子〟を見てみると……
「ふっ、ひゃあ! これ、これなのです! ジャンの奴は、私がどんなに頼んでも、これ程の〝辛い物〟を食べさせてはくれなかったですからね! さあ、冷めてしまう前に早く食べるのです!」
その瞳をキラキラさせ──この馬鹿みたいに辛そうなスープを前に、テンションはMAXだった。
「まあ、嬉しそうで何よりだ。──それとゴスロリロリッ子? 本当に無理そうなら無理って言えよ?」
「……? 何の話しです?」
どうやら〝辛くて食べれない〟という発想はそもそも無いらしい。少し気を使ってみたら素で〝?〟という顔をされた……。
いや、大丈夫ならいいんだけどさ?
「……ぬいぐるみはどうすんだ? 邪魔だろ?」
「ふっふっふ。心配は無用なのです!」
そう言うと〝ゴスロリロリッ子〟の持っていた、熊のぬいぐるみが──パッと消える。
(ん、今のはアイテムストレージか?)
「む。やはり、あまり驚かないのですね? ……まあそんな事より今はこの〝激辛スープ〟なのです!」
『まあいいか』と、すぐに意識を〝激辛スープ〟に集中するゴスロリロリッ子……。
〝アイテムストレージ〟って、意外と持ってる奴いるんだな? レノンの反応からだと、結構珍しい〝スキル〟だと思っていたが……
あー、でも、確か〝アイテムストレージ〟と言っても〝大中小〟の違いがあるみたいだから〝中や小〟は意外と持ってるやついるのかもな?
「いただきます……」
まあ、取り敢えず俺は冷めないうちに〝激辛スープ〟をズズッと少し飲んでみる……
「──ッ……!!」
ぶッ……! な、何だこれ……!?
(あぶね、吹き出す所だったぞ?)
思ったより辛いスープに、思わず少し噎せそうになるのを、とっさの所で反射的に耐える。
か、辛ッれえぇ…………
いや……辛いというより痛いぞ……これ……?
それに確か〝辛さ〟ってのは〝味覚〟では無くて、生物学的には〝痛覚〟に分類される筈だから、痛いってのは間違っていない筈だ。
……ちなみにだが、辛い物を食べて〝辛いから〟といって水を飲んでもあまり効果は無い。
むしろ、コーヒーとか〝ポリフェノール〟の多い物のが辛さを収える効果がある。
それか氷でも舐めて口の中を冷やした方がいい。
辛さは〝痛覚〟だと考えれば〝氷で冷やす〟というの行動は分かりやすいかもしれない。簡単に言えば〝アイシング〟の要領だ。
で、ゴスロリロリッ子はというと……
はむッ!
パクッ!
ズズズ……ぷはぁ……!!
(いい飲みッぷりだな? おい!?)
「ふむ、これは中々の辛さなのです! サソリ海老の、この痺れるような独特な辛さも、スープのアクセントになっているのですね! 誉めてやるのです!」
美味しそうに激辛スープに入った〝サソリ海老〟を、もぐもぐと食べながら、食リポまでしてる。
「あー、美味いか?」
「美味いのです。手が止まってますが、お前は食べないのですか? 早く食べないと、折角の最高のスープが冷めてしまうのですよ?」
「ああ、食うよ、食う。少しボーッとしてただけだ」
〝サソリ海老〟だったか?
パッと見は海老だが、尻尾の方がサソリのようになっている。見慣れないせいか……少し不気味だな。まあ、珍しい海老だと思えば食えない訳でもないが。
俺は〝サソリ海老〟の殻と足を取り〝サソリ海老〟の身にガブリとかぶりつく。
……う……これも辛いというより痛いな。
それに確かに痺れるような辛さ(痛さ?)もあるが、ゴスロリロリッ子の言う、アクセントは俺には良く分からない。
……好みの違いだろうか?
で、次はこれか? 爆弾唐辛子……?
嫌な予感しかしないな。
しかし、横を見ると、
はーむッ! もぐもぐ……!
「ん~、どっかーん! なのです! やはり〝爆弾唐辛子〟は、こう爆発的なのが癖になるのですよッ!」
(もう、こいつは心配しないで大丈夫そうだな?)
バリ……もぐ……ズズッ……(ヒリヒリするぞ……)
俺はひたすらに無心にスープを食べていく。
別に食えなくは無いが……辛くて他の味が良くわからん。スープからはじんわりと海老の香りはするけど。
まあ、残すほどでも無い──。
もぐ……ズズズズズ……! と、俺は胃にスープを掻き込み〝激辛スープ〟を完食する。
「ご馳走さま。食った事の無い味だったよ」
当たり障り無い感想の俺が完食するとほぼ同時に、
「ぷはあッ! ご馳走さまなのです!」
ゴスロリロリッ子も完食。そして、俺と違い──
この〝激辛料理〟に大変ご満悦なようだ。
まあ、嬉しそうで何よりだ。
それに俺も何だかんだで、異世界の〝独自料理〟を食べれたし良しとするか。少なくとも〝サソリ海老〟も〝爆弾唐辛子〟も元いた世界では聞いた事も無いからな。
「「「…………」」」
いつの間にか、あれほど騒がしかったギャラリーが静かになっている。
「……ま、マジかよ……兄ちゃん達……何者だ……」
空いた口が塞がらず、若干引いてる店の親父。
「俺は新米の冒険者だ」
店の親父に俺は適当に冒険者と伝えておく。
「それにしてもお前、中々、イケる口だったのですね?」
「お前程じゃない、それに普通以上に辛かったぞ? よく食ったな? 驚いたぞ?」
何度も思うが……どちらかというと、このスープは辛いというより痛いだった。
「兄ちゃん、賞金の小金貨2枚だ! 受け取れ!」
賞金を渡してきた、店の親父から、俺は〝小金貨2枚〟を受け取り。
「ああ、悪いな。……ほら、これはお前の分だ」
と〝小金貨〟1枚をゴスロリロリッ子に渡す。
「いいのです。そもそも、スープの金を出したのはお前なのですから、それはお前の物なのです」
「元より奢ったつもりだ。それに、無一文で帰るよりは、小金貨の1枚ぐらいは持ってた方が安心じゃないのか? ……違うか? ロリッコ迷子?」
「む……」
と、少し押され気味で、特に反論しない〝ゴスロリロリッ子〟の手に小金貨を握らせる。
「そういや、自己紹介がまだだったな? 俺はユキマサだ。お前は名前なんて言うんだ?」
俺は軽く魔力を込めた指をスライドし、異世界お馴染みの〝ステータス画面〟見せながら名を名乗る。
―ステータス―
【名前】 ユキマサ
【種族】 人間
【年齢】 16
【性別】 男
「巧妙に話を逸らすんじゃないのです。ふん、まあ……私は今機嫌が良いので、特別に名を教えてやるのです。アリス……私の名前はアリスなのです!」
「へぇ、アリスって言うのか? 綺麗な名前だな」
そーいや、本人の名前よりも先に、ぬいぐるみの名前を聞いたのは初めてだな。ぬいぐるみの方の名前は〝リッチ〟だったか?
「というか……さっきから私の事を〝ゴスロリロリッ子〟と呼んでますが、誰が〝ゴスロリロリッ子〟なのですか!」
「悪い、悪い。名前が分からなかったんでな? まあ、よろしく頼むよ──アリス。それに、その服とても似合ってるぞ?」
「当然なのです、中々見る目があるようですね?」
ふふん! とドヤ顔でご機嫌になるアリス。
「──!!」
すると、次の瞬間──アリスの背後から、素早い動きで、アリスを捕まえようとする人影が現れる。
「アリスッ!!」
俺は瞬時に、ぐいッと俺の方にアリスを引き寄せ、その人影からアリスを守るような体制を取る。
「ふ、ひゃっ!!」
(──ッ……!? 何だコイツは……?)
どうみても素人の動きじゃないが、でも、殺気は無かったな? 誘拐犯か何かか? いや、それにしては身なりが良い……
(というか、コイツ……どうみても……)
「なんと!? 避けられてしまいましたか? いやはや、この老骨もついに焼きが回ってきてしまいましたかな?」
「うげっ……!!!!」
あからさまにアリスは凄く嫌そうな顔をする。
「知り合いか……?」
と、俺がアリスに問いかけた質問の答えが、アリスから返って来るよりも先に、目の前の〝老骨誘拐犯?〟の口ぶりから答えられる事になる──
「ほほほ。やっと見つけましたぞ? ──アリスお嬢様。さあ、早くお戻りになられてください。皆も一様に心配しておりますぞ?」
★★★★★★作者からのお願い★★★★★★
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