第407話 チャッチャラー・グットクール2
その昔、チャッチャラーは〝大都市エルクステン〟の〝聖教会〟を訪れていた。
『──お願いします。アリシアさんの目を治してくださいッス。俺に出来ることならなんでもします!』
対応するのは〝聖女〟ジューリア・クーロー。
〝聖教会〟の中でも指折りの実力者だ。
『魔王ユガリガから受けた呪いですね。カースのレベルは全部で6段階──1~6で高くなれば高くなるほど治療が難しく、レベル5に至っては私共では手に追えません。そして残念ながらアリシアさんの呪いレベルは5です。申し訳ありません。レベル5は末期です』
告げられた言葉は予想していた中では最悪の部類の言葉だった。
『そんな、何とか、何とかならないっスか!』
『聖水をお渡し致します。1%にも可能性はありませんが、もしかしたら聖水ならば回復する可能性が微粒子レベルですが、あります』
くそ、ダメなんスか。アリシアさんはこのまま一生、目を見ることが出来ずに過ごすんスか……
そんなのあんまりだ。俺が必ず治して見せるっス。
(治る可能性は0じゃない。微粒子レベルもあるんだ。治せない筈がない、治せない筈が……)
『クソっ!』
彼にしては珍しく感情を露にし地面を蹴った。
『チャッチャラー君〝聖教会〟にまで連れてきてくれてありがとう〝聖女様〟の話だと難しいみたいね』
『大丈夫っス、俺が必ず治すっスから。時間はかかっちゃうかもっスけど、絶対です。約束っス!』
手を握り、チャッチャラーは真剣な声で言った。
必ず、必ず──と。
その後、チャッチャラーは自分の持てる全てのコネクション、金、時間を可能な限り使い〝大聖女〟ノア・フォールトューナへと何とか取り繋いだ。
ノアは人類最高峰の回復術の持ち主である。
そんなノアに治せないとしたらアリシアの治療は更に難しくなる。後は医者に頼らず自分で何とかしなければいけないと言うことだ。
ちなみにだが、チャッチャラーには医学的にも呪いにも最低限の知識しかない。
『──ごめんなさい。私には治せない』
告げられた言葉は絶望であった。
『そ、そんな、大聖女様、あなただけが頼りなんス』
『残念だけど私の力は全能じゃない。正直心苦しい。魔王の呪いは時間が経てば経つほど効果がます。少し遅かった。レベル5の呪いはもう末期なの、私にできることはせめて命には届かないように進行を止めるだけ。レベル6になれば、それは死を意味する──』
ノアは淡々と告げた。
『チャッチャラー君、大丈夫だよ。私、生きてるもん。生きてればきっと楽しいこともあるよ。連れてきてくれてありがとう。私は幸せ者だよ』
『アリシアさん……ひぐっ……』
項垂れるチャッチャラーは膝を付いた。
『チャッチャラーさん。今は無理かもしれないけど、未来にはね、いつだって希望が残ってるんだ。だから、諦めないで。私もまだまだ強くも、万能にもなる。未来にあなたを救えることを私は及ばすながら願ってるよ。折角来てくれたのにごめんね』
この頃のノアはまだ幼い。できることは現代のノアの半分と言った所だ。それでも凄まじい強者であることは確かだが、それでも一歩、力が足りなかった。
ノアの言葉に一度だけ深く頭を下げると、チャッチャラーはアリシアの車イスを押し去っていく。
いつかの未来の僅かな希望を切に信じて──
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