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第39話 ゴスロリの迷子



 *


 ──〝大都市エルクステン〟

         武器屋・プレーナ──


「邪魔するぞ?」


 俺はクレハの家で朝食をご馳走になり「ご馳走さまでした」とクレハとクレハの婆さんに礼を言って家を出た後、先日クレハと訪れた〝武器屋〟に来ていた。


 クレハ達は、騎士隊の仕事があるとの事で、ギルドに向かった。クレハには『私も仕事終わったらすぐ帰るから、ユキマサ君も、夕御飯までには帰ってきてね!』と言われた。


(何となく、孤児院にいた頃を思い出すな……)


 孤児院にいた頃は、牧野に連れられたり、連れられなかったりで、俺はあちこちを回っていた。


 主な理由としては、

 牧野が引っ張ってきた()()()()()()()とかだ。


 別に金に困ってた訳でも、孤児院の経営が危うかったとかでもないが、暇に任せて、牧野経由で少し仕事を引き受けていた。


 仕事の内容は〝地震や噴火の被災地の大岩や瓦礫の除去〟や〝調子に乗った迷惑な馬鹿共の掃討〟だとか〝イエティ探し〟などホント様々だった。


 ちなみにイエティは実際に居た。だが、仕事内容は捕獲では無く、探すのが目的だったので、牧野を通して依頼主には『居たぞ』とだけ報告しておいた。


 そうやって出掛ける度、理沙に『今度は何探し?』とか『夕飯はどうするの?』だとか『美人な牧野さんが一緒だからって、二人旅の途中、変なことしないでよ?』とか余計な事まで言われたな。


 牧野は女性だ。基本スーツを着ており、髪は長く、少し紫がかった黒色で、前髪を片目が少し隠れる感じのアシメにしている。年齢不詳だが、見た目は20代半ばぐらいだ。


 元は親父達の知り合いらしいが、両親が亡くなった後も、孤児院や俺や理沙の面倒を見てくれた。

 牧野本人は〝牧野グループ〟なる、大きめの会社をいくつも運営しているエリートだ。


 そういや、牧野にも何も言わず〝異世界〟に来ちまったが……もしかして、心配してたりしてな?

 

(まあ、次に会う時があれば、あいつの好きな〝栗モナカ〟でも差し入れてやるか──)


「いらっしゃいませ。あら、本日はお一人ですか?」


 店に入ると、この武器屋の娘のレノンが、綺麗な水色ロングの髪を少し揺らしながら、出迎えてくれる。


「ああ、今日は一人で買い物だ。レノン、早速で悪いが、ダガーを見せてもらえるか? そんなに高いやつじゃなくていい」


 〝ダガー〟……つまりは短剣だ。


 なぜ、短剣が欲しいのかというと……


 エルルカに貰った剣──〝月夜(かぐや)〟だと、切れ味とかスゴいのは良いんだが……

 それはそれで使いづらい場面がある。


 あれは、強めの相手に使おうと思っている。


 それに動物である〝大猪(おおしし)の肉〟は、アルテナに貰った()()()()(さば)いたが……エルルカに貰った剣は、最低でも〝名刀〟とか〝業物〟だとか、そういうレベルの代物だろうしな。


 まさか、今度また動物の肉を解体する機会があった時に、それでザクザクと解体するのも、何となくあれだからな。


(まあ、それに()()()()とはいえ──〝神様〟から直々に貰った剣で〝大猪(おおしし)の肉〟を解体したのも、それはそれで罰当たりな気もしなくも無いが……)


 しかも、最終的にヒュドラ戦で碎けちまったしな。


 そんな感じの理由で、やっぱ普通ぐらいの武器も欲しいと思ったので買いに来た。


 それに剣はあるので、次は〝短剣(ダガー)〟でも買おうかと思い、今に至るのである。


「はい〝短剣(ダガー)〟でしたらこちらはどうですか?」


 早速、俺はレノンに〝赤い短剣(ダガー)〟を渡される。 


 短剣にしては少し長めの物だなこれは。

 それに持ってみると見た目の割に重さが軽い。


「悪い。もう少し小さくて、重めの物はあるか?」

「そうですね……それだと、少しお値段上がってしまいますがよろしいですか?」


「構わん。色々言って悪いな?」


「とんでもございません。こちらはいかがですか?」

 

 次は〝青紫の短剣(ダガー)〟を渡される。


 持ってみると、俺の注文通り、先程より少し小さめで、見た目よりも重く──個人的には扱いやすくて丁度いい。それにデザインも気に入った。


(よし、決まりだな。これにしよう!)


「レノン、これをくれ。いくらだ?」


 俺はこの短剣(ダガー)即決する。


「ありがとうございます。こちらだと〝小金貨5枚〟になりますがよろしいですか?」


 日本円換算にすると50000円ぐらいか。


 あと、この世界って〝お釣り〟とか出るよな?


 〝元の世界〟で牧野と海外に行った時、海外とかだと、お釣りとかでない所とかあったりしたしな?


「ああ。それと悪い。この額だと〝金貨〟しか持って無いんだが、それで払ってもいいか?」

「勿論大丈夫ですよ。すぐにお釣りお持ちしますね」


 何事もなく、レノンはあっさり承諾してくれる。

 それに普通にお釣りも出るようだ。


 俺はレノンに金貨を1枚渡し、

 お釣りを取りに行ったレノンをしばし待つ。


「──お待たせしました。代金が〝小金貨5枚〟で〝金貨1枚〟のお預かりですので〝小金貨5枚〟のお釣りになりますね。ご確認ください。それとこちらがお品物ですが、このままでよろしいですか?」


 レノンがお釣りと〝短剣(ダガー)〟を渡してくる。


「ああ〝アイテムストレージ〟にしまうしな?」


 俺はレノンからお釣りと〝短剣(ダガー)〟を受け取り、そのまま〝アイテムストレージ〟にしまう。


「そういえば〝アイテムストレージ〟をお持ちでしたね。師匠以外だと、実際に見るのは初めてでしたので驚きました。しかも〝アイテムストレージ(大)〟は、世界的に見ても、存命(ぞんめい)してる方は、ユキマサさんぐらいだと思いますよ?」


「昔は持ってる奴がいたのか?」

「はい。その方は()()()になったらしいですよ」


(ああ……確かに、商人向きだよな──〝アイテムストレージ〟って。そういえば、料理屋の女将さんにも、何かそんなような事を言われた気がする)


「それに、昨日も一昨日も師匠はユキマサさんの話ばかりでしたよ。その……プロポーズの件とかで。そういえば、お返事とかも、まだされてないみたいですね──あ、すいません。私が聞くような事ではありませんでしたね。失礼しました。出すぎた真似を」


「いや、別に謝る事は無いが。というか、エルルカは今は不在なのか?」

「はい。ちょうど行き違いでして、師匠はギルドへ向かったみたいです。何をしに行ったかまでは、伺ってはおりませんが……」


「そうか。それに、後で俺もギルドに行こうと思ってたから、タイミングが合えば、そこで会うかもな?」


 じー……

 

 何やらレノンが俺の全身を興味津々に見てくる。


「……何だ?」

「あ……失礼しました。な、何でもありません!」


 目が合うと、少し顔を赤くしながら、慌てた様子でペコペコと謝ってくる。


「まあ、ならいい。それと武器ありがとな」

「い、いえ。とんでもありません!」


 レノンはパタパタと手を振ってくる。


「そっか。それじゃ、そろそろ俺は失礼するぞ?」

「はい。ありがとうございました。またいつでもお越しくださいね!」


 まだ顔がほんのり赤いレノンに見送られ、俺は武器屋を後にする。



 さて、次はギルドにでも行って〝クエスト〟でもやってみるか……? 

 武器も買ったし冒険者登録も昨日済ませたからな。


 と、考えながら異世界の街を歩いていると、露店の店の方から、何とも食欲を刺激する、美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。


(あー。ずるいな……露店とかの食べ物って、何でこうも食欲を刺激するんだろうな? それに露店で買った食べ物を食べながら、また別の露店の食べ物を探すってのが、乙な所なんだよな……)


 露店や、祭りの夜店とかの食べ物は、衛生面がどうとか考える奴もいるが……別に多少なら、それもまた1つの露店の醍醐味だと俺は思う。


(まあ、如何(いか)にも過ぎて……『流石にこの店はやめとこう』ってなる店も、あったりはするが……)


 そして俺は「少しだけ……」と露店の連なる〝異世界の露店通り〟に足を運ぶ。恐らく、異世界独自の食材や料理もあるだろうし──ちょっと楽しみだな!


 トコトコと俺は一人で露店街を歩いていくと……何の肉かは分からない〝串焼き〟や、見たこと無い形の果物──それにあれはもしかして〝骨付き肉〟かッ!?


 ……あ、でも残念だ。


 漫画で見るような〝骨付き肉〟が馬鹿みたいなサイズで焼いて売られているが──移動販売車(キッチンカー)の〝ケバブ〟とかみたいに、焼いたデカイ肉を削いで、一人前のサイズに切って売っており〝骨付き肉〟としては売ってないみたいだ。


(くッ……〝骨付き肉〟は、例えどんなに食べづらかろうと、骨付き肉のままで食べたいんだ……!)


 あの店には悪いが〝骨付き肉〟の肉を削いで、肉だけで販売しているのは、それはもう……俺や親父が憧れた〝骨付き肉〟じゃないんだ。


 そうなってしまえば、それはもうどこにでもある〝骨の付いてた肉〟に過ぎないんだ。悪いな。


 俺はそんな〝骨付き肉の削ぎ落とし肉店〟を、残念そうに見ながら、引き続き露店通りを歩いて行く。


 ──すると、何やら叫び声が聞こえてくる。


「ギャアァァ!! 痛てぇぇ!!」

「水! いや、ポーションをくれ! ギブだ!」

「お……俺は……まだ……行けるぞ………(パタリ)」

「こんなもん、もう食いもんじゃねぇだろッ!」


(……何の騒ぎだ? これは?)


 すると俺の視界に〝真っ赤なスープ〟に、ラズベリーみたいな形の赤い木の実みたいな食べ物……


(周りの人間を見るに、恐らくは〝ハバネロ〟とか〝ジョロキア〟の(たぐ)いの〝辛い系〟の食物だろう)


 それと赤黒い海老みたいなのが入った、見るからに辛そうなスープを食べて、発狂したり、中には意識を失い倒れてる人々がいる。


 そして、その近くの店には……


 〝爆弾唐辛子とサソリ海老の激辛スープ!

    食べきったら賞金小金貨1枚!

     (注:ポーション、魔法使用不可)〟


 と、書かれた看板が立っている。


所謂(いわゆる)〝チャレンジメニュー〟か?)


 しかも、食べきったら賞金が出ると来た。よほどこの店は、()()()()()()()()に自信があるのだろう。


「よお、兄ちゃん! どうだ食べていかないか? 1杯〝銀貨1枚〟で俺の目の前で見事スープを食べきったら〝賞金〟として〝小金貨1枚〟だ! ──ポーションや〝回復魔法〟と〝痛覚無効系の魔法〟は使用禁止だ。もし使ったらその時点で失格だ!」


 俺は店の親父に話しかけられる。


「随分と辛そうだな? これは何が入ってんだ?」


「いい質問だな! 兄ちゃんには特別に教えてやろう! これは、すり潰した〝鬼唐辛子(おにとうがらし)〟をベースに作った辛いスープに〝悪魔(デビル)唐辛子(とうがらし)〟を入れて、辛さを更に+(プラス)した後──身からハサミまで驚くほど辛いと有名な、あの〝サソリ海老〟を煮込んだ激辛スープだ!」


 『兄ちゃんには特別』とか言ってくれているが、

 声がでかいので、周りの人間にも筒抜けだ。


「そのスープに一見(いっけん)、可愛らしく、プカプカと浮いてる〝赤い木の実〟みたいなのも〝唐辛子〟か?」

「おうともよ! これは〝爆弾唐辛子(ばくだんとうがらし)〟だ! その名の通り、食べると──まるで、口を爆破されたような辛さが襲う、魅惑の唐辛子だ!」


「魅惑なのか……?」


(てか、こいつ……良く考えたら〝唐辛子〟に〝唐辛子〟を入れて〝唐辛子〟を浮かべやがったのか?)


「説明して貰ったのに悪いが、俺はやめとくよ。辛いのはあまり得意じゃないしな……?」


 別に辛いも物は嫌いじゃないが、辛さで人が店の前で倒れてるようなレベルの店で、辛い物を食べたいと思うほど、辛い物は好きじゃない。


「そうか、気にすんな! 気が向いたら来てくれ!」


 がははッ! と豪快に笑う。

 ……まあ、気は良さそうな店の親父だな。


 俺は再び露店街を進もうとすると、


 その時──


 さっきの〝激辛スープの店〟を、まるで、甘いケーキ屋でも見るかのように、キラキラとした目で羨ましそうに凝視する7、8歳ぐらいの小さな女の子がいた。


「くっ……しまったのです……この私とした事が、お金を持たずに出てきてしまったのです。それに取りに戻るにも、少し道が分からなくなったのです。何故、この街はもっと分かりやすい道を作らないのですか!」


(何やら随分とご立腹みたいだ……)


 その少女はサラサラの黒髪ロングなストレートで、パッと見はよく分からなかったが、よく見るとサイドら辺の髪の一部を、少しだけ三つ編みにしている。


 服装は全体的に黒色で、所謂〝ゴスロリ服〟に黒のニーソ。頭には黒い頭巾(ずきん)を被っており、その両手には、少女自身の半分のサイズはあるんじゃないか? というぐらいの〝熊のぬいぐるみ〟を持っている。


(何だこの〝ゴスロリロリッ子〟は……迷子か?)


 俺は流石に少し様子が気になったので、


「おい、そこのゴスロリロリッ子? どうした、迷子か?」


 黒頭巾(くろずきん)のゴスロリロリッ子に話しかけてみる。


「ひゃあッ!! ……な、何なのですかッ! お前は! そんな急に話しかけて来るんじゃ無いのです! ビックリして、心臓が外に飛び出たら、一体どう責任を取るつもりなのですかッ!!」


 俺が急に話しかけたので、どうやらビックリしたらしい、ゴスロリロリッ子に俺は普通に怒られる。


 ちなみに心臓は飛び出ていない。責任は取らなくて済みそうだな? よかった、よかった。


「悪いな『道が分からなくなった』って独り言が耳に入ったんでな? 迷子かと思って声かけたんだよ?」


「だ、誰が迷子なのですか! 迷子と言う方が迷子なのです! それに、私は偶然にも、道が分からなくなってしまっただけなのです!」


(うん。やっぱ、こいつ迷子だな?)


「それを迷子って言うんだよ。少なくとも俺の故郷ではな? ギルドぐらいまでなら案内してやる。信用できないなら、離れてでいいから後ろに付いて来い」

「結構なのです。それに、私にはまだ使命があるのです」


 そして、また先程の〝激辛スープの店〟を、まじまじと見つめるゴスロリロリッ子。


「お前、まさか〝あのスープ〟食いたいのか? めちゃくちゃ辛いらしいぞ?」


(唐辛子に唐辛子を入れて、唐辛子を浮かべるぐらいだからな。少なくとも、これぐらいの年の子が食べるような食べ物じゃ無いだろう?)


「お前は本当に馬鹿なのですか? 辛いからこそ良いのです! 料理は辛ければ辛いほど美味なのです!」


 そう言い終わるのと同時に、ゴスロリロリッ子のお腹が〝ぐうぅぅ~〟と鳴り響く。


 そして、そこはやはり女の子なのか……顔をかあぁぁ~と真っ赤にしたゴスロリロリッ子は、恥ずかしそうな様子で、その場で硬直するのだった──。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!

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