第379話 虎の威を借る狐
*
本当に短い私の旅が終わりを告げた。
この後私は盗賊に好き放題されたあげく、最後は奴隷として売られるのだろう。
「へへへ、大人しくしな?」
「ズリィぞ。若い女は2人しかいねぇんだからな」
「俺が最初だ。この作戦は俺が考えたんだぞ!」
私と夫婦で乗車していた奥さんを見る盗賊。
ゲスの極み。最低です。
「お嬢さん、逃げなさいッ!」
お婆ちゃんが飛び出す。
盗賊に体当たりを繰り出しました。
「お婆ちゃんッ!」
「お嬢さん、逃げて! 早く!」
盗賊たちに必死に掴みかかり私を逃がそうとしてくれるお婆ちゃん。
「何だこのババア! ぶっ殺せ!」
パンチや蹴りがお婆ちゃんを襲う。
「お婆ちゃん! やめ、やめろ! クズ共!」
袋叩きに合う、お婆ちゃんを私は庇う。
ああ、バカです私は。さっさと逃げてしまえばよかったのに。どうせ皆助かりません。ならば私だけでも逃げた方がお得という物ではないでしょうか?
……いいえ。嘘です。私はこのお婆ちゃんを見捨てられません。情が湧いた。そうです情が湧いたのです。
そうです。戦いましょう。
追い詰められた鼠は怖いことを教えてあげます。
──ヒラリ。
立ち上がった私の懐から紙が落ちます。
「あ、何だ?」
「待て、これは正式な物事に用いられる魔道具の書状だ。一応、差出人を確認しろ──」
空気が変わる。その一枚の紙に注目が集まります。
「……差出人は……稗月倖真……」
「ま、まさか、魔王討伐の、く、黒い変態……」
「誰だ? 知っているのか?」
「オイ、知らねぇのかよ! 今噂の〝シルフディート〟を攻め落とした〝国狩り〟だ! 前は黒い変態と呼ばれていたと聞いてる。懸賞金は金貨1万枚……」
「い、1万……って、何だよ? それに国狩りって、黒い変態って、意味わかんねぇよ!」
盗賊が慌て始める。
「──撤退だ。そいつには手を出すな」
「お頭! おいおい、ビビってんですか!」
坊主頭がお頭と呼ばれた強そうな人物に口をきく。おっと、仲間割れですか? ええ、大歓迎ですとも。願わくばそのまま潰しあって死んでしまえ。
「黙れ! 噂じゃ、そいつはたった一人の仲間の女の為に大国を一つ敵に回す変態だ。そもそも金貨1万枚もの賞金首の化物だ──俺たち何かがそんな奴に勝てると思うか? エルフの国には〝星艦〟も〝剣鬼〟もいたんだぞ! 俺は昔、奴らに地獄を見せられた……」
ざわざわと盗賊がざわつき始める。
「撤退だ。魔王討伐の黒い変態何て相手にできるか」
その言葉と共に盗賊は去っていきました。
「た、助かったんですか……」
ヘナヘナと私は力が抜ける。
乗客からも歓声が上がる。
「お婆ちゃん、大丈夫ですか!?」
「お嬢さん、凄い、盗賊共を追っ払っちゃったわね」
「私の功績ではありませんよ」
一度は思い立った、窮鼠猫を噛む作戦が、これでは虎の威を借る狐です。まあ、結果オーライですけど。
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