第375話 書状
──別れの時。
「お世話になりました。ユキマサさん、クレハさん」
「ん、こちらこそ」
「こちらこそです! シナノさん色々とありがとうございました! とても楽しかったです!」
「では、早く行ってください……道は分かりますね」
ぶっきらぼうな態度のシナノだが、その顔を見て俺は一瞬目を見開いた。シナノは泣いていたのだ。
目から大きな涙をポロポロと。溢しながら。
「シナノ」
「……何ですか?」
「お前の夢は変わらないか?」
「……別に変わっていません」
じゃあ、ほれ、と、俺は布袋に入った小金貨4枚と銀貨10枚、そして少し豪華な紙を渡す。
「何ですか、これ……お金と豪華な紙?」
「お前は前に『一生ズルズルと、きっと私はこのまま街からでれない』と言っていたな? だが、残念。お前はこれから街をでるんだ。就職紹介付きでな」
「……はい? すいません。理解が追い付きません。どういうことですか?」
「知り合いに〝大都市エルクステン〟で、店をやってる奴がいるんだ。そこの従業員が不足している。誰でも良いから紹介してくれと頼まれてたの思い出してな」
「そ、それで私に!?」
「ああ」
じー。っと、その紙を見つめているシナノ。
「いやらしい店じゃないですよね……?」
「なわけあるか! 何でこのタイミングでいやらしい店を紹介するんだよ!」
「ほっ……ですよね。ですが、仕事先が見つかっても住む所も貯金も無いんですよ」
「あー、そこ、住み込み可能で飯とシャワー付きだ。賃金も普通に働いてれば、それなりの生活が送れる筈だ。無駄遣いしなきゃ貯金もできるんじゃないか?」
「?? ッ!! ほ、本当ですかっ!? いや、でも、そんなホワイトな所、私が受かる気しませんよ」
「だからの紹介状だろ? まあ、少し豪華な紹介状だがな。魔道具の書状だ。ステータス画面の移しと血判を押してある。100%受かるとは言えないが受けてみる価値はある。その袋の金は〝大都市エルクステン〟への旅費だ。返さなくて良い。余ったら好きに使いな」
まあ日本円にして5万あれば、もし落ちたとしても足代を引いても生活費の穴埋めにはなるだろう。
ちなみに魔道具の書状の紙はクレハがくれた。騎士時代の名残らしい。騎士辞めてないけど。
へなへなへな。
シナノは腰が抜けたように膝をつく。
「……すか……」
「うん?」
「何で私の為にそこまでしてくれるんですか?」
「別に深い理由はねぇよ。でも、シナノが喜ぶかなって思ったら自然と行動に出てた。それだけだ」
「やっぱり変な人ですね。変人ですよユキマサさん」
涙を拭いながらシナノは笑う。
「返しませんからね。お金も書状も、もう私のものです!」
「返せなんて言わねぇよ」
「でも、いつか恩は返します。私の夢に追加します。貴方に恩を必ず返すことを」
「受かってからにしな」
「確かに落ちる確率のが高いというか十中八九落ちるでしょうね。でも、いいんです。私嬉しいですから」
そういいシナノは歯を見せて笑った。
それはそれは嬉しそうに。
ダメで元々か。頑張れよ、シナノ。
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