第373話 提案
シナノは、それはそれは、よく食べ、よく飲んだ。
つまみで出した果物も一通り半分以上食べてたよ。
まあ、前置きで「本当に遠慮しませんからね?」と言われていたから全然気にしないが。
別に前置きで言われてなくても気にしないけど。
「ゆ、ユキマザさぁ~ん!」
「オイ、飲みすぎだ。水飲め、水!」
「はい、お水! シナノさん、飲んで!」
クレハに介護されながら、シナノが水を飲んでいく。つーか、一升瓶(安いやつ)空けたなコイツ。
フラッフラじゃねぇか! 酒2回目で一升瓶だぞ?
「ふふ、クレハさん優しい。ありがとぅございます」
「いえ、何かあったらまた呼んでくださいね」
クレハは長年クレハの婆さんの病気の世話をしていたからだろうか、介護の仕方が様になっている。
人当たりも優しいしな、看護士向いてそうだな。
布団に寝かせ、ぎゅっと掛け布団の端を可愛らしく摘まむと、酔っぱらってるらしい頭で小さく呟く。
「……夢が叶った気分です」
「まだ、そんなんじゃねぇだろ?」
「そうですね。まともな職もお金もありませんし」
あー、いい気分です。と、シナノは息を吐く。
そんなシナノにお水のおかわりを持ってくクレハ。
「ねぇ、ユキマサさん、クレハさん。貴方たちはいつまでここに居てくれますか? 食事やお金が欲しくないと言えば嘘になりますが、私はそれ抜きでも貴方たちと一緒に居るのが楽しいんです。こんな気持ちは初めてです。私は母が死んでから家族も無くボッチでしたから。私が誰かと居たい何て変な気持ちです」
上半身をお越し、水の入ったコップを両手で持つシナノは何処か寂し気な表情だ。
「……俺たちは明日にでもこの街をたとうと思ってる」
「……そうですか……う、少し酔いが回ってきたみたいです……私はもう寝ますね。最後のお布団も噛み締めたいので」
そう言うと直ぐに寝てしまった。
寝顔は優しいものだったが右目には一粒だけ、うっすらと涙が浮かんでいたが見なかったことにしよう。
俺はもう少し飲んでいた。クレハが酒を注いでくれたのが、何だかやたらに嬉しかった。
つーか、連日で飲むとは。酒飲みってのはこうやって始まるのかねぇ。呑まれないように気を付けよう。
「というか、ユキマサ君、明日出立するの?」
「話してなかったな、悪い。長居する理由も無いしな」
「うん、それはいいんだけど。そっか、明日出立か」
虹ブドウを一粒摘まみ口に運ぶクレハは名残惜しそうだ。この街にってよりはシナノにかな? これは。
「なあ、提案があるんだが。聞いてくれるか?」
「え、うん。勿論、何かな?」
──
────
クレハに俺は提案を話した。
すると拍子抜けするぐらいあっさりとクレハは「いいね、それ、私も賛成だよ」と、乗ってきてくれた。
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