第360話 シナノの家9
「私の夢は──都会に住むことです。こんなまともな就職先も無いド田舎な街は出ていくんです。都会に住んで良い就職先を見つけて、衣食住を人並みには整えたいです。柄じゃないのは分かってますが、できることなら素敵な恋もしてみたい。優しい人がいいです」
シナノのこれは典型的なあれだな。
山はあるが海の無い県の人が海に憧れたり、逆に海はあるが山の無い県の人が山に憧れたりする奴だ。
他にも田舎っ子が都会に憧れたり、都会っ子が田舎に憧れたりする──人間とはそういうもんだ。
無い物や無理だと思うと無性に欲しくなる
「いいんじゃねぇか? 都会となると〝大都市エルクステン〟とか〝中央連合王国アルカディア〟とかか? エルフの国は王宮は盛ってたが、他は田舎っぽかったぞ? 自然の中と言うか」
「王宮はユキマサ君が壊したでしょ?」
「そうだったな。エルフの国は今復旧作業で、てんやわんやだろうから止めとけ」
「おかしい。おかしい言葉が聞こえてきました。これも聞かなかったことにします……あー、ダメです。王宮壊したって何ですか……!?」
聞かなかったことにするっと言った後に我慢できず聞きたかった本音を呟いているシナノは、話を紛らわすようにエルフ酒を飲む。
高いと聞いてたからか、胃に流し込む飲み方ではなく、ちゃんと味わって飲んでる。偉いな。
「その内に分かるさ」
「む、話を戻します。ホント逸れますね。ユキマサさんのが私より酒の肴をお持ちなんではないですか?」
「聞きたいなら話すぞ?」
「いえ、結構です。共謀罪とか嫌なので」
キッパリと両手を突きだし断りを入れる。
「で、私の話しです。私の夢にはお金も立場も全く足りないんですよ」
「時間があるじゃねぇか。時は金なり、いやそれ以上だ。時間は宝だぜ」
「時間だけあっても何もなりません。世の中の7割はお金です。それに時間を欲しがるのは最低限の充実があってこそですよ」
羨まし気な目でシナノが微笑む。
「例え話をしましょう」
シナノが人差し指を立て、ゆっくりと口を開く。
「私が今、この場所を飛び出して夢に見た都会に──〝大都市エルクステン〟へ移り住んだとします」
黙って俺は話を聞く。
クレハも黙って耳を傾けている。
「ですが、貯金も仕事も宿も食料も水すらない私は3日と持たずに野垂れ死ぬでしょう。悲しいかな、決して私に優しいとは言えない、この街ならば食パンの耳と湧水とボロ小屋は私の手にあるんです。貧しいながら生きていく事は可能でしょう。ですから私はこの街からでられません。きっと一生ズルズルとこのまま」
田舎ではできなくても都会だとできる事があるように、その逆に田舎ではできても都会じゃできないことも多々あるんだ。
一見、便利に見える都会の落とし穴だ。
シナノはクイっと残りの酒を仰ぐ。
初めての酒だというのに随分とサマになっていた。
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