第35話 お泊まり会
*
「──ただいま。お婆ちゃん帰って来てる?」
クレハの家に着くと、元気よく扉を開けたクレハが、まず婆さんが帰宅してるかを確認する。
「……留守だな」
と、俺が呟く。残念ながら婆さんはまだ帰ってきていないようだ。
「そっか……クレハ、今日泊まっていいの?」
ミリアは、早く婆さんと会いたいのか、話し方からでも、そわそわとしてるのが良く分かる。
最初に婆さんと会った時は〝この状態で生きてられるのか不思議〟ってぐらいに、衰弱していたからな……
そして俺が治した後は別人なぐらい元気になった。顔色は勿論、声もハッキリ喋っていたし。衰弱しきっていた体も、健康と言って良いレベルになったろう。
「──勿論だよ。ミリアも泊まってってね! あ、良かったらシスティア隊長も泊まってきませんか?」
「私もか? 私は構わないがいいのか?」
「もちろんですよ。お泊まり会ですね!」
楽しそうなクレハだが、婆さんも合わせて、
全員で6人。実質問題……どこで寝るんだ?
まあ、俺は別に床で寝てもいいんだがな。
「あ、順番でシャワー浴びちゃおっか?」
と、クレハが提案する。
「そうね、少し汗も掻いちゃったし借りても良いかしら? ……それとユキマサ。覗いたら燃やすわよ?」
「覗かねぇよ。さっさと入って来い……!」
「さーて、どうだか? あ、ミリア、一緒に入りましょ! 髪の毛、洗ってあげるわ!」
べー、とこちらに舌を出しながら、エメレアはミリアを連れてシャワーを浴びに行く。
「あはは……何かごめんね……」
いつの間にか持ってきた、温かいお茶を配りながら、クレハが謝ってくる。
「クレハが謝ることじゃないだろ? それに別に気にして無い。つーか、もう慣れた……」
「それは……それでどうなの……?」
クレハは少し呆れ気味に笑い、隣に腰かける。
「私は皆が仲良くしてくれたら嬉しいと思っている。それとユキマサ、少し落ち着いた場で話せたので、改めて礼を言わせてくれ──昨日は私やクレハや隊の皆の命、そして聞いた話だと、マリア殿の病気を治してくれて本当にありがとう。君にはどんなに感謝しても感謝しきれない!」
ガバッと、大きなポニーテールを揺らしながら、システィアは深々と頭を下げてくる。
「どういたしまして。でも、昨日も言ったが、元々俺はクレハに貰ったおにぎりの礼を言うつもりで、偶然に駆け付けただけだからな。むしろ、クレハに礼を言っておけ?」
と、俺はシスティアに伝えるが……
「いや、私にお礼を言われても困るからね?」
クレハに冷静にツッコまれる。
「し、しかし……」
あー、こいつも生真面目な性格だったな。
「システィア隊長。ユキマサ君は何度言っても『気にし無くていい』ばかりなので、何か機会があれば、別の形で何か贈ったりとかのが良いと思いますよ?」
──ッ……。
確かに、そう言われてみると、さっきの女将さんの時もそうだが……流れで渡されると、受け取っちまうな。エルルカの剣の時もそうだったしな。
うーん、これからは少し気を付けるか。
「なるほど。クレハはユキマサの事に詳しいんだな? 分かった贈り物か、ふむ、何か考えておこう」
「べ、別に詳しくないです……///」
「……まあ、期待せずに待ってるよ」
「ああ、期待せずに待っててくれ」
システィアはイタズラ染みた表情で笑う。
そして、クレハの煎れてくれたお茶を飲みながら、他愛の無い話をあーだのこーだの話していると……
「──ふぅ、さっぱり! ミリアのお肌ぷにぷにー」
と、言いながら、ラフ目な格好の寝巻きに着替えた、ご機嫌なエメレアとミリアが、タオルで髪を拭きながら出てくる。
幸せそうなエメレアは、クレハにお茶を貰い更にご機嫌になる。
風呂上がりだからだろうか? クレハは、エメレアとミリアには冷たいお茶を煎れている。
──その後。システィア、クレハ、俺と言う順番でシャワーを浴びる。
ちなみにだが、エメレアとミリアは勿論、システィアも、わりと高頻度でクレハの家に泊まりに来るらしく、着替えやパジャマは常備されていた。
*
全員、シャワーを浴び終わり、適当に話しているとクレハの婆さんが帰ってくる。
「──おや? 皆お揃いかい?」
「………!!」
「ま、マリア殿! 本当に病気が治ったのだな!」
「お婆ちゃん、お帰りなさい!」
「お婆ちゃんお帰り、お邪魔してるわ」
「悪いな俺も邪魔してるぞ?」
と、帰ってきた婆さんを迎える。
「ミリア、システィア。心配かけたねぇ、お陰さまで完治したよ。それにいつもお見舞いをありがとう──後、ユキマサさんの家に住む件も、実は昨日からクレハから聞いてるよ。ふふ。無事に口説けたようで安心したわ。大歓迎ですから、好きなだけいてくださいな」
と、無事に婆さんからの許可も下り。しばらくは、クレハの家に泊まらせて貰うことになりそうだ。
「ありがとう。お世話になります──」
と、言い俺は軽く頭を下げる。
すると、先程から何も言わずにクレハの婆さんをじっと見つめていたミリアが……
「……ふ……ぇ……」
と、急に涙声になり……
スタタタタタタタッ!! と、走りだして
──ふぎゅッ!!
と、婆さんに抱きつき、離れなくなってしまった。
「おやおや、ミリア、ありがとうね」
婆さんは、抱きついてきたミリアを優しく抱き締めながら、頭を撫でる。
「…………」
ミリアはコクコクと頷いてはいるが……何も喋らず、抱きついたまま、全く離れる気配が無い。
「あー。これは当分離れないわね……」
「どういうことだ?」
「そのまんまの意味よ。多分、気が済むまでは、お婆ちゃんからミリアは離れないわよ? ──嬉しいのよ。いいなぁ、私もまたミリアの〝くっつき〟されたいわ……」
エメレアは最後に本音を漏らす。
「じゃあ、ミリアは今日は私と一緒に寝ようかね?」
と、婆さんが聞くとミリアがコクコクと頷く。
「そういや、この人数、寝れるのか?」
「多分ギリギリかな? お婆ちゃんの部屋でミリアが寝て、後もう1人お婆ちゃんの部屋で──そ、それと、私とユキマサ君と、後1人が同じ部屋な感じかな」
まあ、俺は床で寝るとしても……
これで、婆さんの部屋で婆さんとミリアがベッドで寝て──俺が、婆さんの部屋の床で寝てたら、かなりシュールだからな……? この部屋分けは、正直助かる。
「じゃあ、システィア? 私の部屋に来るかい?」
「あ、では、お邪魔します」
「教官時代じゃないんだから。もっと昔みたいに気軽に呼んでおくれ、敬語も要らないよ」
「──ッ……! じゃ、じゃあ、お、お邪魔……する」
と、システィアは、今までの隊長だとか、上司や部下とかの、大人としての顔から、少しだけ子供のような表情になる。
でも、言った後に、やはり照れ臭かったのか、少し顔を赤くして目を反らしている。
「じゃあ、エメレアちゃんはこっちだね!」
「ええ、よろしくね! クレハ」
エメレアは、俺がいるの忘れてないよな?
まあ『出てけ』って言われれば、この椅子の上でも、その下の床でも、俺は寝れるからいいけどさ。雨風が防げるってだけで、十分にありがたい。
「ミリアもこの調子だから。少し早いが私たちはもう休もうと思うがいいだろうか?」
よく見ると、ミリアは最初は嬉しくて泣いてるようだったが──今は、ふみゅ~と、まるで温泉にでも浸かってるみたいに、頬を緩め、凄く幸せそうな顔をしている。
……でも、相変わらず離れる気配は無い。
「はい、お休みなさい!」
「お休み。てか、ミリア、風邪引くなよ?」
「お休みなさい。お婆ちゃん、システィアさん、ミリアをよろしくね!」
「ええ、任せなさい」
「ああ、任せておけ」
「……」
と、婆さんとシスティア返事をする。でも、ミリアも、ちゃんと話にはコクコクと頷いている。
そして、3人は婆さんの部屋に入っていった。
「私たちも寝よっか?」
「そうね……ただ、ユキマサが居るのが、私は身の危険を感じるわ……」
あ、忘れられてなかった。
「ユキマサ君は私が何とかするから大丈夫だよ」
「いや、何とかって、どう何とかするんだよ?」
俺は一体どう何とかされるのか、ピンと来ず、クレハに素で聞き返してしまう。
「ほら、二人とも行くよ!」
「ちょ、ちょっとクレハッ!」
俺とエメレアは、クレハにえいえいと、背中を押されて、クレハの部屋に入る。
「あー。エメレア。俺は床で寝るから安心しろ?」
壁もあれば屋根もあるし、俺は男だからな。
床どころか、地面で寝るでも何ともない──。
「何よそれ! 私は別に構わないけど、それじゃクレハが気を使うじゃない! 貴方はベッドで私の隣で寝なさい!」
と、これは予想外の反応。エメレアのことだから『貴方は床の下で寝なさい!』ぐらい言われるかと思ってたんだが……
「ゆ、ユキマサ君は私の隣で……寝てほしいかな?」
「く、クレハ危険よ! ここは私に任せて!!」
「え、エメレアちゃんこそ、あ、危ないよ! それに私はユキマサ君のこと信じてるし。それにユキマサ君なら、わ、私は少しぐらい危なくても良いから……だから、エメレアちゃん、お、お願い……!」
あれ、何か、クレハにまで危ないって言われたぞ?
つーか、信じてるのか危ないのか、クレハはどっちなんだ?
(あ、でも、確かに──朝起きたら、いつの間にか俺はクレハを抱き締めて寝てたからな……だから、信じてるけど危ないって……そういうことか……あー、これは返す言葉も無いな……)
「く……クレハ……それは一体どういう意味なの……ゆ、ユキマサの毒牙に、わ、私のクレハが……」
俺は、殺意たっぷりの目でエメレアに睨まれる。
「う……じゃ、じゃあ、これならどうかしら──?」
……と、この後。エメレアから第三の案が提出されるのだが、そして、何故か、それが採用される事になるのはこれからすぐの出来事であった──。
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