第344話 謝罪と御礼
*
──〝ルスサルペの街〟共同墓地──
「エメレアちゃん、ここよ。この場所」
〝リョク・エルラルド〟
そう書かれたお墓が確かにそこにあった。
「……兄さん……」
花束を抱えたまま私は膝を突く。
「エメレア、顔が真っ青だよ……ど、どうしよ……」
明らかに様子のおかしい私をミリアが必死に支えてくれる。
「ごめんなさい……兄さん……本当にごめんなさい」
堪らず私は大粒の涙をポロポロと流す。
ダメなのに、全く涙が止まってくれない。
(……兄さん……リョク兄さん……)
「うぇぐ……ひぐっ……」
嗚咽に混じり、吐き気が込み上げてくる。
何とか私は胃の中の物を戻さないようにした。
「ごめんミリア、少しだけこのままで居させて」
「うん、大丈夫だよ」
私はミリアに抱きついて泣いた。
悲しみと後悔を引っ提げて。
──
────
一頻り泣いた私は漸く少しだけ落ち着く。
「……お花……手向けなくちゃ……」
折角たくさん買った花が台無しだ。
お団子も供えなきゃ。
「エメレア、落ち着いた?」
「ええ……ええ……ごめんねミリア」
ううん、大丈夫だよ。
と、ミリアは優しく笑ってくれた。
「エメレアちゃん、私たちも──」
キサラギさんがそう言うと〝吟遊詩人〟の皆が、花を手向け、兄さんのお墓に手を合わせてくれる。
「私もエメレアのお兄さん会ってみたかったな」
「そうね、私も兄さんにミリア達を紹介したかったわ」
その時だ。小さな風が吹き抜ける。
(──っ……)
何かが頭の中を駆け巡った。
私はその事にやっと気づいた。
ああ、そっか、私兄さんのお陰でミリア達に出会えたんだ。
あの時、兄さんが私を守ってくれたから。
(『これからエメレアは何度も何度も傷ついて、何度も何度も泣くかもしれない、でも、必ず、必ずだ! その先には幸せがきっと待っている』)
あの日の兄さんの言葉を思い出す。
ダメだ。また涙が出てきた。
「エメレア、我慢しなくていいんだよ。泣きたい時は泣いた方がいいんだよ。溜め込むのは気持ちが参っちゃうから。エメレア、大丈夫、大丈夫だよ」
ミリアが抱き締めてくれた。
私は反射的に抱き締め返す。
また声を上げて泣いた。
カッコ悪い。私の方がお姉ちゃんなのにミリアに甘えてばかりだ。でも、今はこのままでいたい。
──兄さん。私、私ね。
友達ができたの……ううん、改まって言うと照れ臭いけど、正確には親友って言った方が私の気持ちには近いかな。
あと、お姉ちゃんとお婆ちゃんもできたんだ。
クレハにミリア、システィアお姉ちゃんにマリアお婆ちゃん。私の大切な人たち。
リョク兄さんが巡り合わせてくれたんだよ。
私が『ごめんなさい』って謝ってばかりじゃ、きっと優しい兄さんは逆に困っちゃうよね。
だから、言い方を変えます。
──ありがとう、兄さん。
私を助けてくれて、皆と巡り合わせてくれて。
今、私、幸せだよ。でも、兄さんが居てくれればもっと幸せだったけどね。
でもね、私は今幸せになる資格は無いの。
私、バカやったんだ。大きな失態。
私の大切な人を守ってくれた人を、私の身勝手な軽はずみな子供みたいな行動で陥れたの。
その人は今、指名手配で追われている。
ちゃんと仲直りできるかな? 昨日、謝ったんだけど、この指名手配の件が片付いたら、また改めて謝らなくちゃ、謝って、謝って、もし許しを貰えたら、私は胸張って今を幸せだと言える気がするんだ。
「ミリア、もう大丈夫よ、ありがとう」
「ほんと? 無理しちゃダメだよ?」
「大丈夫、無理もしてないわ」
立ち上がると私は次に〝吟遊詩人〟の皆に頭を下げる。
「皆さん、本当にありがとうございました。また兄さんに会わせてくれて──私、どうお返しをしたらいいかまだ分かりませんが、必ずこのご恩はいつか返させて貰います」
「いいよ、いいよ。気にしないで。エメレアちゃんが喜んでくれただけで、私たち十分だから」
パタパタとキサラギさんが手を振りながら言う。
──私たちは兄さんのお墓にもう一度だけ手を合わせてその場を後にした。
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