表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/858

第33話 夕飯



 *


 ──〝大都市エルクステン〟

       ギルド・ギルドマスター室──


「フォルタニアさん! 一体どういう事ですか!!」


 〝大都市エルクステン〟のギルドのギルドマスターである──ロキ・ラピスラズリは、珍しく本気で悔しがっていた。


「そ……そう言われましても……」


 珍しいロキの子供のような(なげ)きに、困惑しているのは、副ギルドマスターのフォルタニアだ。


「な、何故、私も呼んでくれなかったのですか!? 私もユキマサさんとは、じっくり話をしてみたかったのですよ……!!」


 ロキはガックリと肩を落とす。


(どうやら、(わたくし)が思っているよりも、ギルドマスターは、ユキマサさんを気に入っていたみたいですね……)


 ──事の発端は、フォルタニアが午前中、ロキの不在中に、例のヒュドラの〝変異種(ヴァルタリス)〟を倒した例の少年と、第8隊の子達と一緒にお茶をしながら、少し話し込んでいた事を、どこからか耳にしたらしいロキが、ギルドに帰ってくるや否や……『ズルいです! 私もお話したかった!』と()ね始めたのだ。


「ギルドマスターは〝アーデルハイト王国〟の王女様の、護衛と出迎えという、重要なお仕事があったでしょう……」

「……そう言われますと、返す言葉もありませんが。それで、どうでしたか? 彼は?」


「そうですね……一言で言いますと、とても不思議な方でした──でも、少なくとも悪い方でもありません。ましてや〝魔王信仰〟の者でも無いですね。ただ……」


 フォルタニアは少し考え込む仕草をする。


「ただ……?」

「いえ、何でもありません」


(でも、本当に、あの知識の無さは何なのだろうか? 〝魔王〟〝天聖〟〝八柱の大結界〟〝魔王信仰〟──この世界で生きていれば、嫌でも、それなりの知識として知る事ばかりだ。それこそ、山奥の村の、小さな子供でも普通に知っているような話だ……)


 でも、彼は本当にその常識を知らなかった。


 フォルタニアは、失礼と分かっていながらも、話している間は、常に、相手の話している事が嘘かどうか分かる自身の持つスキル──〝審判(ジャッジ)〟を使用していたが、彼に嘘の気配は無かった。


 第8隊を壊滅させる程の、ヒュドラの〝変異種(ヴァルタリス)〟を単独で討伐し……そして人類でもトップクラスの実力者である、()()()()の1人〝剣斎(けんさい)〟──エルルカ・アーレヤストが、その実力を認める少年。


 何故、そんな人物が、今まで名も知れず……

 ()()()にすらならなかったのか? 


 考えれば考えるほど『本当に謎である』と、フォルタニアは頭を悩ます。


 ただ、確実なのは、彼は悪い人間では無かった。

 

 ──フォルタニアは自身のスキル〝審判(ジャッジ)〟にて、幼い頃から、嫌と言う程に、人類の汚い部分の多くを、その目で見て来た。


 世界には居るのだ。平気で嘘を付き、騙し、裏切り、自身の欲望を満たす為に、何の罪もない人を傷つけ、汚すような、そんな薄汚い人間達が……


 だが、少なくとも彼は、気持ちの悪い薄ら笑いを浮かべ、聞こえだけは良い言葉を列のように並べ、あわよくば、甘い汁を(すす)ろうとするような、下卑た輩では無い。


「──どうしました? もしかして、彼に惚れたりでもしましたか?」


 ロキはニヤリと笑い……本気で言っているのか、冗談なのか、分かりづらい表情で聞いてくる。


「……何を言い出すかと思えば……私が誰かに惚れたとしても、()()()()だけです。仮にもし結ばれたとしても、その相手に迷惑がかかるだけですからね」

「エルフの国も、本当に困ったものですね……」


「ロキ。私は、こう見えて、貴方には本当に感謝しています。このギルドに来てから、素敵な友人達もできましたから──っと、そろそろ、お腹も空いてきましたので、私は失礼いたしますね」


 最後には、取って付けたような理由で、部屋を去るフォルタニアをロキは無言で見送る。


(……さて。お茶を頼みたかったのですが、頼みそびれてしまいましたね。仕方ありません、今日は自分で煎れますか)


 フォルタニアが去り、ギルドマスター室で1人になったロキは『ふぅ』と息を吐きながら立ち上がり、よそよそと、今日は自分でお茶を煎れるのだった──。



「──お待たせしました! と~っても美味しそうですよ!」


 ジュ~ッ! と音をさせ、熱々の鉄板に乗った〝大猪(おおしし)肉のステーキ〟を、アトラと亜人のウェイトレスが、元気良く運んでくる。


「あ、こちらはミリアさんの2キロです!」


 と、ミリアの前には2キロの肉が運ばれてくる。


(あ……ミリアの『いつもの』って言ってた時の〝Vサイン〟の()の意味は『2つください』って意味じゃなくて『2キロください』って意味だったのか?)


「あ……う……ご、ごめんなさい……! 私、まだ全然役にも立たなくて……ちんちくりんなのに、昔からお腹だけは人一倍に空いちゃって……いつも私が一番……ごはん……いっぱい食べちゃうんです……ふみゅ……」


 顔を赤くし、下を向きながら、ミリアが謝る。


「そ、そんなこと気にしなくていいわよ!」

「そうだよ!? 私はいつもご飯を、美味そうにいっぱい食べてるミリアが大好きだよ!」

「そうだそ! いつもそんな事を考えていたのか? ミリア、私達に遠慮なんてしなくていいんだぞ!?」


 そんなミリアの声を聞き……エメレア、クレハ、システィアは、慌てながら、驚いたようにミリアの発言を全力で否定する。


「ハハハ。いいんじゃないか? 俺は食べれる時に、食べれるだけ食えばいいと思うぞ?」


 何を言い出すかと思えば……


 ミリアも色々と気にしすぎだな。


 ──俺はそんなミリアの姿を見て、小さい頃に家に来たばかりの理沙を思い出して、少し笑ってしまう。


「少なくとも俺は、少しの飯すら理由も無く残しちまうような奴よりも、残さず元気に、いっぱい食事を美味しく食べる奴のが俺は好きだぞ? ──ほら、飯が冷めちまう。早く食うぞ?」


 俺は、折角の熱い肉や、米が冷めてしまう前に早く食べるぞ? と、軽くミリアを急かす。


「は、はぁ、はぁい! いただきます!」


 お……『いただきます』は噛まずに言えたな?


「み、ミリアにまで……このキザッ(たら)しは……まあ、でも、たまには良いこと言うじゃない! あ、やっぱダメ、今の無し。このキザ男の女(たら)し! それにミリアは私のミリアよ!」


「あ、ほら。エメレアちゃんも! 早く熱い内に食べよ、お肉! お肉だよ!」


 何やら、いつもの如く俺に対しぶつぶつと言うエメレアに、クレハが何やらテンション高めで話す。


「そうね。熱い内に食べましょ!」

「お前ホントにクレハの言うことは聞くな?」


「何よ? 私はちゃんと、システィアさんや、ミリアや、お婆ちゃんの言うことも聞くわよ!」


「そうかよ。いただきます──」


 ただ単に俺の言う事は聞かないだけだったな。


 それはそうと、本当に飯が冷めてしまうので、俺は『いただきます』を言い、そそくさと食べ始める。


「あ、ズルい! 私も、いただきます!」

「では、私も、いただきます」


 と、クレハ、システィアも肉を食べ始める。


「いただきます……もう少しぐらい構いなさいよ」


 何故かムクれるエメレア。


「そういや。もしかしてエメレアは、肉はあんまり好きじゃなかったりするのか?」

「何よそれ? クレハ達が好きな食べ物は、私も大好きよ!」

 

 そう言いながら、あむっとエメレアは肉を食べ始める。


「その理由はどうなんだよ……?」

「──ッ! 何これ! 凄く美味しいじゃない!」


 食べるや否や『ん~!』と、幸せそうなエメレア。


 ……ったく。いつも、その半分でいいから、そんな感じの顔でいてくれればいいのにな。


「本当に美味しいよね!」


 そんなエメレアを見て、クレハも嬉しそうだ。

 後、よく見ると、いつの間にかクレハは、上手に肉を全部、ナイフで一口サイズにカットしていた。


「そういや、クレハは肉が好物なのか? 昨日もやけにテンションが高かったが?」


「──ッ!? えっと、うん、大好物だよ! それにお米もお肉に凄く合って美味しいね!」

「そりゃ良かった。通りで美味そうに食うわけだな」


「クレハは顔に出やすいからな」

  

 と、軽く笑うシスティアの皿を見ると、もう半分ぐらい肉を食べ終えている──食うの早いな?


「か、顔に出やすいですか……? 私って……?」


(自覚無しか……)


 『嘘……色々と気を付けよう……』


 と、クレハは何やら反省している。


「クレハは素直だからな。それに、普段生活する時は、そのまんまでいいと私は思うぞ?」

「……け、検討します」


 少し悩むクレハだが、再び肉を食べ始めると『ん~』と可愛らしく頬が緩んでいる。


 そして、ふと、俺は視線を変えると、そこには……


(──ッ!? うお、眩しッ!)


 目をキラキラと輝かせて、お行儀よく、尚且つ上手に可愛らしく、両手でナイフとフォークを使い、夢中でリスみたいに頬を膨らませながら……


 もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ


 と、肉と米を幸せそうに頬張るミリアがいた。


「えーと、どうだ、ミリア? 美味いか?」


 見れば分かるが、俺は一応聞いてみると……


 コクコク、コクコク、とミリアはたくさん頷きながら、一心不乱に、幸せそうに食事を続ける。


 もしミリアに、亜人のような尻尾があれば、ぶんぶんと、それはそれはご機嫌に尻尾を振っていたのではないだろうか?


「み、ミリアが今まで見たこと無い笑顔だわ! 待って、待って、可ッ愛い! ちょっと……じゃなくて、気が済むまで抱き締めてもいい!?」


 初めて見るらしいミリアの表情に、興奮を隠せないエメレアは『どうしよ、どうしよ』と食事中のミリアに抱きつくか否か、本気で悩んでいる。


(本当に美味い物を食べると、人は無口になるって言うけど……あれって、本当なんだな……)


「凄く美味しいです……!」


 お、今度は噛まずに言えたな?


「皆さん! お冷やのおかわりはいかがですか!」


 パタパタと、お冷やを持って来たアトラは、空になっていたり、残り少なくなっていたお冷やを、補充していく。


「──って、おわぁ! ミリアさん、凄く幸せそうな顔してますね! かわいいです! え? ちょっと、気が済むまで抱き締めていいですか?」


 ミリアのお冷やを補充したアトラは、今まだに頬をリスみたいに膨らませ、幸せいっぱい! といったミリアを見て、エメレアと同じく『気が済むまで抱き締めていいですか?』と言い始める。


 それはそうと〝気が済むまで抱き締めてもいい?〟と内容は二人とも同じ感じだが、エメレアとアトラでは、何故こんなに、ミリアへの危険度が、天と地ほど違うように見えるのだろうか?


 ちなみに先程のエメレアは「あ、こら。食事中だぞ」と言うナイスなシスティアのお叱りで、ガックリと肩を落としながら、凄くしぶしぶと、ミリア抱き締めるのを諦めたようだ。


 アトラに関しては、冗談と受け取ってるのかシスティアは特に何も言わなかった。アトラ自身も仕事中なので『気が済むまで抱き締めていいですか!?』とは言ってはいても、別に行動に移そうとはしていない。


「そういやアトラ? 今日は、お前の夕飯に〝大猪(おおしし)の肉〟は並びそうなのか?」

「うぅ……そ、それが……かなり微妙なんですよ!」


 涙目のアトラが指差す店内を見ると……

 ──いつの間にか、店は満席になっていた。


「〝大猪(おおしし)の肉〟をくれ! 大至急だ!!」

「あ、店員さん! 私にも貰えるかしら!」

「こっちにも大猪(おおしし)をくれ! 昨日は食べ損なった!」

「おかわりー!!」


 と、大盛況のようだ……見ると身なりの綺麗な、如何(いか)にもお金持ちといった人間もちらほらといる。


店主(おじさん)は肉料理に関しては有名人ですからね。お金持ちのお客さんも多いんですよ、お店が盛況なのは私も嬉しいですが……でも、今回ばかりは、本当に私の晩ごはんに関わる大問題なので、凄く複雑です……」


 確かに肉の焼き加減も絶妙だったしな。料理中に靴を無くす店主らしいが、腕は確かなようだ。


 いや、ひょっとしたら。料理中に靴を無くすってのに、何か肉を美味しく焼く秘訣が──!?


 ……あるわけ無いか。

 

 そんなバカな事を考えながら、俺はアトラに、


「あー、何だ、アトラ? 一口いるか?」

 と、肉を刺したフォークを突き出してみると……

「い、いいんですか! 食べます! 絶対に食べます! いえ、食べさせてください!」


 目をキラキラと輝かせて、即答するアトラは『あーん』と髪をかきあげて、女の子らしく上品に口を開けてくる。


「あ、待って、それユキマサ君のフォーク……」


 ──ヒュン! パッ! パクッ!


 と、隣に座っていたクレハが〝空間移動〟し、アトラにあげる予定のだった〝大猪(おおしし)〟のステーキを食べる。


「ふみゃあッ! クレハさん! ひ……ひどいですよ……私のステーキに何て事を……!」


 まさかのクレハの行動に、ガックリ肩を落とし、涙目のアトラ。その目からは、今にも涙が(こぼ)れてしまいそうだ。


「す、すいません! 変わりに私のステーキを一口あげるので!(こ、これって……ユキマサ君と……か……間接キスだよねッ……///)」


「……ほ、ほんとですか!?」


 わりと本気で泣いていたアトラは『ひっく、ひっく』と手で涙を拭っている。


「……はい。本当にごめんなさい。どうぞ」


 今度は、クレハが、自身のフォークで、ステーキをアトラに食べさせようとする。


 あーん


 シュッ!


 ぱくり


 もぐもぐ


「いや、何でエメレアが食ってんだよ?」


 いつの間にか、颯爽(さっそう)と現れたエメレアが、アトラが食べようとしていたステーキを食べてしまう。


「クレハと間接キ……じゃなくて……ついよ……つい」

 

 もぐもぐと、ステーキを幸せそうに食べるエメレアは、満足気な様子だ。


「み、皆さん……私のことからかってますよね!? 酷いです……酷いですよ……! 私そろそろ本気でグレますよ……?」


 しくしくと、泣きながら怒るアトラ。


「ご、ごめんなさい。大丈夫よ! まだ私のお肉が残ってるから! それ食べていいですから……ね?」


 流石のエメレアも、これには本当に申し訳なさそうな感じだ……


「……わ、分かりました……信じます……」

 

 エメレアは自身の座っていた席にアトラを座らせ『一口と言わず三口ぐらいどうぞ?』と言っている。


「あ、ありがとうございます! いただきます!!」


 手を合わせたアトラは〝いざ、実食!〟と言った感じで、肉を食べようとナイフとフォークを握る。


「ア ト ラ ? この忙しいのに、何をサボってるのかしら?」


 するりと、音もなく現れ〝凄まじい殺気〟を放ちながらアトラの頭に、そっと手を乗せる女将さん。


「──ひぃッ!!!!!!!!」


 この世の終わりを迎えたのでは無いか?

 と、そう思う程に、アトラは絶望的な表情をする。


「を、を、を、おびゃびしゃん! 何故ここに!」


 ぷるぷるぷるぷるぷる! ──と、まるで、生まれたての小鹿のように震えるアトラが、発した言葉は、ミリアを越えるくらいの(すさ)まじい噛みっぷりだ。


 可哀想に……よほど、怖かったのだろう。


「そ れ はこちらの台詞よね?」


「そ、そうでしたぁぁぁぁぁ!!」

「早く仕事に戻りなさい!」


 ピシャリと言い放つ女将さん。


「待ってください! せめて、せめて、一口だけ、一口だけ食べさせてください! じゃないと私グレますよ! それはもう〝魔王か!〟ってぐらいにグレちゃいますよ!」


 女将さんに首の襟を捕まれて、ホールへと引きずられるアトラが、必死の抵抗をする。


「ほう……? それじゃ私は身内からグレる子が出る前に、しっかりと教育してあげなくちゃいけないわね? ──それも、家族としての私の義務よ?」


 ギロリと睨まれたアトラは、再び『ひぃぃぃ!』と怯えながら、女将さんに、ズルズルと引きずられて行く最中──『や、やめます! 私、グレるのやめますから! 女将(おば)さん、許してください~~!』とアトラの断末魔が聞こえる。


 この世界の魔王がどうなのかは知らないが……

 別に、魔王はグレてるわけじゃ無いと思うぞ?




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ