第311話 エメラルドの約束10
屋敷の中では兵士たちが倒れていた。
兄さんがやったのだろう、私の所に駆け付けた時に既に血だらけだった兄さん。怪我は兵士との戦いで負った物の筈だ……私の為に。
屋敷を出ると少し行った茂みに身を隠す。
「エメレア、ちょっとじっとしていてね」
まだ泣いている私にそう告げ、兄さんが取り出したのは、小さいけど豪華な瓶に入った緑色の液体だ。
これは知ってる〝上回復薬〟だ。
家にとって大変貴重な品物だ。
兄さんに言われるがまま、私はそれを口にする。
「少しは良くなればいいんだけど……ごめんね。エメレア、兄さんがバカでどうしようもないばかりに」
抱き締めてくれる兄さん。兄さんの体温を感じると張り積めていた気が抜けて私は声をあげて泣いてしまった。
「帰ろう、エメレア、追手が来る前に」
──追手が来る。そんな兄さんの言葉に顔を青ざめさせた。帰りたい、早く、早くいつもの日常に。
兄さんは私を背負って走った。
水にでも浸したかのように血がベッタリと付いている兄さんの服を見て、私はまた泣きそうになる。
「……リョク兄さん……ありがとう……」
小さく私は呟く。兄さんからは「むしろ私が謝る方だね」と、切なそうに返事が返ってきた。
帰った頃には、すっかり日も傾いていた。
「エメレア、もう1つ飲んでおきなさい」
ガサゴソと兄さんは家の奥から〝上回復薬〟を出して来る。
「兄さんが飲んで、私はさっき飲んだから」
だが、兄さんは頑なに首を横に振った。
結局は半分ずつ飲むということで話はついた。
「──エメレア、大切な話しをするよ。万が一、私に何かあった時はこれを持って、ここから逃げるんだ」
待って、万が一? 何の話し?
兄さんが隠し扉となっていた壁から取り出したのは、金貨が8枚、小金貨が20枚、私が生まれてからは、見たこともない大金だ。
「お父さんとお母さんが私たちにって、残してくれた物だよ、これはエメレアが使いなさい」
「ちょっと待ってよ、リョク兄さん、全然頭が追い付かない、どういうこと!?」
分からない、分からないよ。
兄さんは何を言ってるの?
「早ければ明日になれば分かるよ」
兄さんは金貨と小金貨を茶色の布で包み、私のリュックに仕舞う。
「今話して!」
兄さんは少し考える仕草をした後、堪忍したように、話をし出す。
「今日、エメレアを誘拐したのは、エルフの国の創設者の末裔である、人類でもトップクラスの権力を持つ──最高貴族のハンジ家の人間だ。私は理由はどうであれ、彼らに手を出した私は罰せられるだろう」
それを受け入れると言った様子の兄さん。
「兄さんは悪くない! 全部あいつが悪いんじゃない! 兄さんは私を助けてくれただけ!」
何で兄さんが悪者になる? 何のための法律だ!
「兄さん逃げよう! これだけお金があれば何処か他の国で暮らしていける! 仕事もまたそこで探せばいい!」
そうだ、逃げればいい。
カッコ悪くても、卑怯でもいい。
今は逃げる! 逃げるんだ!
兄さんがいれば私はそれでいい!
そんな時、家に女性の声が響き渡った。
「──夜分に失礼します。私はベガ・アルルカント。貴方はリョク・エルラルドですね。さて本題ですが、貴方を殺人未遂及び国家反逆罪の容疑で拘束します」
私の頭の中が真っ白になったのは言う迄もない。
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