第307話 エメラルドの約束6
その後、私と兄さんは残った野菜を売りに行った。
いつも、契約してるお店だ。
「こ、これだけですか……? すいません。いつもの30%減だったのでつい……」
悲痛な兄さんの声が聞こえる。
「文句があるなら、もう持ってこなくていいよ。こっちも色々と不景気でね。これでも買ってやってんだからありがたいと思って貰いたいものだね」
皮肉気味にピシャリと言われ、ドアを閉められる兄さんの背中を私は黙ってみていた。
「兄さん、他に買い取ってくれる所ないの?」
「地主さんから売るのはこの店だけにって言われててね、他の店には持っていけないんだ」
そんな……そんなの酷い。
いくらでも値段を決められるではないか。
「さ、エメレア。気を取り直して、ちょっと遅いお昼にしよう。まあ、いつものパン屋さんだけどね」
それでも明るく振る舞う兄さんは凄いと思った。
──パン屋さんに着くと、パン屋のおばさんが出てくる。
「いつものと、この子にチーズパンをお願いします」
「りょ、リョク兄さん!?」
いつものとは、家がいつも買っている──焦げたり、欠けたり、潰れたりしたパンのセットだ。
数は区々で大体5~8個で銅貨1枚。それでいて今リョク兄さんが頼んだチーズパンは1つで銅貨1枚だ。
私にとっては贅沢品だ。
「はい、お待たせ、銅貨2枚よ」
支払いを済ませ、店内の椅子に座り、パンを食べる。
当たり前のようにチーズパンを私にくれる兄さん。対する兄さんは訳あり品のパンのできるだけ状態の悪い物を手にし、残りの半分を私に渡す。
「兄さん半分こ」
私はチーズパンを半分に割り、兄さんに渡す。
「そんな気を使わなくていいんだよ。それはエメレアがお食べ」
「やだ! じゃあ、私も食べない。飾っとく!」
「そ、それは斬新だね……分かった。じゃあ、お言葉に甘えて半分いただこうかな──」
「うん、はい!」
兄さんにチーズパンの半分を渡す。
「うん、美味い! 美味しいよ、エメレア!」
受け取ったチーズパンを直ぐに平らげる兄さん。
少しオーバーなリアクションに私は笑う。
やっぱ美味しい物は皆で食べた方が美味しい。
残りのパンも全部食べ終わる頃には、夕方よりも少し前、人によってはおやつの時間と呼ぶらしい時間だった。おやつの時間、私には無縁の時間だ。
「エメレア、少し集落のお店を見て回ろうか、何か買ってあげたりはできないのが心苦しいけどね」
「うん、見ていきたい!」
普段は働き詰めの兄さんと出掛けられる時間はそんなに多くない。私は「行きたい」と即答する。
「ま、何も買わないで店を回るのは冷やかしみたいだから、少しだけね?」
そうして私は兄さんと集落を見て回った。ぐるぐると店を見て回るだけなのだけど、それが狂おしいまでに楽しかった。お昼を食べたばかりだと言うのに料理屋さんに目がいってしまったのは少し反省だ。
★★★★★★作者からのお願い★★★★★★
作品を読んで下さり本当にありがとうございます!
・面白い
・続きが気になる
・異世界が好きだ
などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!
(また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)
★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!
長々と失礼しました!
何卒よろしくお願いします!




