第306話 エメラルドの約束5
地主さんの家に着いた。
ちょっと古いけど……私の家よりは全然新しい、大きな立派な家だ。何度か兄さんとこうして野菜を運びに来たことがある。
ノックをすると、数十秒後、ひょろっとした、髭の生えたエルフのおじさんが出てくる。
「こんにちは、リョクです。収穫した野菜を届けに来ました」
「ああ、リョクか。いつものね。そこ置いといて」
気だるそうに地主は話す。
私はこの人が嫌いだ。
というか、リョク兄さんを見下す奴は嫌いだ。
「もうちょっと、生産量増やせないの? このままだと少し土地代を上げないといけなくなるよ?」
──なっ……!? これ以上、土地代をあげられたら私たちはやっていけない。今でもギリギリなのに。
「すいません。努力はしてみますが、厳しいかと」
「人でも雇えば? そうすれば生産量はあがるでしょ? そうしなよ?」
このっ……! それじゃ赤字だ。
畑をやらない方がマシになって来る。
(何も知らないくせに……)
「ま、味は多少はいいけどね」
地主はトマトを無造作に一口噛り、噛った半分以上残ってるトマトをポイッと捨てた。捨てたのだ。
カチンと来た。
「このっ──
がし。
兄さんに止められた。
「では、私たちはこの辺で失礼します」
んー、んー! と、
暴れる私を兄さんはまだ離さない。
地主が見えなくなった辺りで、兄さんが漸く私を離す。
「兄さん! あいつ、兄さんのトマトを捨てた!」
「そうだね。捨てたね」
「そうだねって……兄さんだって食べたかった筈なのに、兄さんは我慢したのに。それを──それを!」
悔しい、ムカつく、悲しい……
私の中でそんな感情が蠢く。
「ありがとう。エメレア、私の代わりに怒ってくれたんだね。でもね、エメレア、私のことで感情的にならないでおくれ、怪我でもしたら大変だ」
兄さんは優しく私を咜りつける。
「……考えとく」
私は兄さんにバレないように泣いていた。
悔しくてだ。目には大粒の涙が溜まっている。
「大事なことだから少しだけ私の話を聞いておくれ。エメレアお願いだから危険なことはしないで欲しい」
「……」
「私のことになるとエメレアは少し感情的になり過ぎる所があるからね。嬉しいけど、ダメだよ。小さな事でも事件に発展する可能性だってある。そういう可能性も頭で考えながら、エメレアは自分の身を守ることを第一に考えて行動しなさい──いいね?」
優しい目の兄さん。兄さんだって辛い筈なのに。
「…………うん。分かった」
私は渋々ながらに納得する。
あの悪徳闇地主め、リョク兄さんに感謝しろ。
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