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第28話 二つ名は要らない



 ──にしても、本当に美味いなこのお茶? エメレアが言うには、エルフの国の高級茶葉だったか?


(後、昨日クレハから聞いた〝エルフの国〟の〝エルフ米〟ってのも凄く気になる! それに、今度〝エルフの国〟には、是非とも行ってみたいな!)


 それに〝エルフの国〟って、異世界感半端ないしな。やっぱ、異世界に来たら〝エルフの国〟には行かないとだよな!


 異世界に来て〝エルフの国〟に行かないなんて、ラーメン屋来て、ラーメン食わずに帰るようなもんだ。

 ……まあ、炒飯や餃子だけ食って帰る〝通〟も中にはいるだろうけどさ?


 ──と、そんな事を考えながら、俺はフォルタニアの煎れてくれたお茶を、ちびちびと冷めないうちに飲みながら勝手に一息ついてると……


「それで、その〝剣斎(けんさい)〟がレベル88で、告白(プロポーズ)されたとなると──ユキマサのレベルはそれ以上って事なのかしら? それとも何か特別な〝スキル〟とか〝ユニークスキル〟でも持ってるの?」


 隣に座るヴィエラが、クレハ達とはまた違った女性らしい良い匂いを(ただよ)わせながら、興味津々に聞いてくる。


「……ご想像にお任せするよ」


 実際のレベルは表示上限の100↑で〝ユニークスキル〟もあるんだが、まだ、この世界の事があまりよく分からないうちは公表する気は無い。


 特に、これと言ったメリットもなさそうだしな?


 俺のユニークスキルは〝異能〟と後1つ

 ──〝不明(unknown)〟と言うのがあるのだが……


 この〝不明(Unknown)〟ってのが、何故か使()()()()があるみたいで、現状では全く使えていない。


 しかも、その使用条件すら分からない。


 スキルを獲得してるのに使えず、使用条件も不明と言う──軽いパラドックスなスキルだ。


 まあ、存在しているなら、何かしらの使い道も、使い方もあるのだろうが……

 残念ながら、今は何もできないな。


「──なら、お任せされるわね?」

「どういう意味だ?」


「ヒュドラの〝変異種(ヴァルタリス)〟の単独討伐に『自分より強い男にしか興味ない』という〝六魔導士〟のレベル88の〝剣斎〟からの告白(プロポーズ)。この2つを考えると、ユキマサは恐らく、レベルは70を越えているのでしょう? ──だから〝二つ名〟つけて貰ったら? ()()()があると、ギルドからの依頼も受けやすくなるし、他の国や都市に行っても、入国とかスムーズになるわよ?」


 ──ん……何か急に話がズレたな……?


 てか〝二つ名〟にそんな使い方(メリット)があったのか!


「そうですね。ギルドの規定では〝レベル70〟を越えてる方や──もしくは、何らかの偉業を成し遂げた方には〝二つ名〟を正式に付ける事が可能ですので、確認ができれば勿論可能ですよ──ちなみに、本来はこちらで決めさせて貰うのですが、もし何か希望があれば、それとなく私の方から伝えておきますよ?」


 これを簡単に直訳すると……

 〝二つ名の希望はありますか?〟って事か?


 ここは〝異世界〟だし、神様もいて、魔法もあるんだから〝二つ名〟だとかは、別にいいんだけどさ……


 でも、話の流れで、直接聞かれたからとはいえ……自分の二つ名の希望を、自分で出すってのは、流石に()()過ぎる気がするぞ──?


「はい、はーい!〝黒い変態〟がいいと思います!」


 勿論、この声の主はエメレアだ。


「却下だ。てか、二つ名は遠慮したいんだが?」

「ご本人様が要らないと言うのであれば、勿論、無理にとは言いませんのでご安心ください」


 そりゃよかった。それとフォルタニアが副ギルドマスターで、本当によかった。


 もしも、エメレアが副ギルドマスターだったら、今頃は〝黒い変態〟か、それ以上の物が、この〝大都市エルクステン〟を中心に轟いていた事だろう。


 だが、諦めの悪いエメレアはというと……


「黒い女誑し!」


 まだ言ってやがる……


「却下だ」


「ありえない変態!」


「却下だ」


「変態女誑し!」


「却下だ」


「変態ヴァルタリス!」


「却下だ。てか、何だ、最後のは?」


「変態の変異種よ。ユキマサにピッタリじゃない!」


 ああ、ヴァルタリスって確か〝特別変異種指定魔獣〟とか言うのだったか?


 つまり、変異種って言いたいのか? それに変態を付けてそれで〝変態の変異種(ヴァルタリス)〟って事かよ──?


「誰が〝変態の変異種(ヴァルタリス)〟だ……つーか、お前の中では俺はどんだけ変態なんだよ!?」


(いや、考え方によっては〝変態の変異種〟って、逆に変態じゃ無いんじゃないか?)


「何が気に入らないのよ! それに貴方は変態でしょ! わ、私の胸も2回も触って来たし………!」


 顔を赤くし、プイッとそっぽを向くエメレア。


「あれは、お前が腕掴む時に当ててきたんだろッ! ……とにかく〝二つ名〟は要らない!」


 ……痛ッ。今度は何だ? ──と、痛みの走った、自分の左手の甲を見るとクレハにつねられている。


「クレハ……何しやがる?」

「別ッに……」


 と、クレハまで、プイっとする。


 ──もう、お前ら何なんだよ……?


「ふふ。あら、ホントにモテるのね!」


 そんな様子を、ヴィエラは楽しそうに見ている。


「お前、目には自信があるんじゃないのか?」


 これが何でモテるとか言う話しになるんだ?


 エメレアに至っては、悪意90%と被害妄想10%の黄金比率で、果敢(かかん)に攻めてきてんじゃねぇか!


「ええ、目には自信あるわよ。それに元々鳥人族(ハルピュリア)は、種族的に目がいいのよ?」


「そういや、それで思い出したが……さっき〝魔王信仰〟がどうのとか言っていたが、何だそれは?」


 まあ、何となくは予想はつくが──


「あら? ご存じ無いの?」


 『え……?』とヴィエラは目をパチクリさせ、心底不思議そうな表情になる。


 あ、まずい……。

 こりゃ踏んだな、異世界の常識地雷──


「大丈夫ですよ。私からお話いたします」


 すると、ナイスなフォローをしてくれるフォルタニア。


「〝魔王信仰〟は残念ながら、魔王や魔族の味方といいますか……崇拝をする人類の方々ですね。彼らは人類の情報を魔王側に漏らしたり、人を人とも思わず殺し、挙げ句の果てには──その身体から、()()()()()()()()いきます」


「心臓? 何でそんな事? 悪趣味にしては、悪趣味過ぎるぞ……?」


「魔王は魔力を持った人類の()()を喰らう事で、(おのれ)の力を高める事ができるのですよ。ですから〝魔王信仰〟の者は、殺した人の身体から心臓を抜き去り〝魔王軍〟に心臓を生肝(いきぎも)として献上(けんじょう)しているのです」


「そりゃ傍迷惑な話だな……」


(この手のどうしようも無い馬鹿は、どこにでもいるんだな……)


「ええ、全くもってその通りです。それに〝魔王信仰〟は〝魔王〟のみならず〝魔族〟にも、忠誠を誓っております」

「というか、可笑しな話だな? それじゃ、魔王や魔族が、人間と──結果的には手を組んでるようなものだろ? 話が通じるような奴なのか?」


 よく考えると、魔王って喋るのかすら俺は知らない。追い詰めたら〝世界の半分を──〟的な事を言い出したりして来たりしてな?


「魔王側から見れば。勝手に人類の情報を教えてくれ、尚且つ〝心臓(生き肝)〟まで運んできてくれるのですから、得はあっても損は無いのでしょう。それに手を組むというよりも──大体は使い捨ての道具や、駒程度にしか見ていないように思われます」


 確かに、魔王側に損は無いな……


「実際に〝魔王信仰〟の者を見たこともありますが……正直〝魔王信仰〟の者は何がしたいのか〝魔王様の為に!〟と狂気地味た表情で叫びを挙げ、罪の無い人々を(おとしい)れ……殺す事に、一体どれ程の意味があるのか私には到底……理解ができませんでした……」


「随分と物好きな人類もいるんだな?」


「ええ、そんな物好きに巻き込まれた人は、(たま)ったもんじゃありませんね。各国も総力をあげ〝魔王信仰〟の撲滅(ぼくめつ)に当たっていますが、思いの(ほか)、根が深いようで……手を焼いております──もし見つけましたら、ユキマサ様にも是非に倒して貰えると助かります」


「……分かった。見つけたら倒すようには心がけておくよ。まあ、あまり期待されても困るけどな?」

「ありがとうございます。それは本当に心強いです。──後、他に何か聞きたいことはございますか?」


 ……まあ、無くは無いんだが。


「〝残り3人の魔王達〟に〝魔王信仰〟それと人類の英雄の〝天聖〟と〝八柱の大結界〟ある程度の聞きたい情報は聞けたからな。取り敢えず、今日は十分だ──ありがとう。今度、何か礼をする」


 俺はフォルタニアに礼を言う。


「こんな事でお礼なんて気にしないでください──と、言いたい所ですが、でも、せっかくなのでちょっとだけ期待してますね?」


 と、可愛らしく微笑むフォルタニア。俺は『お礼なんていいです』みたいな感じで断られると思っていたので……最終的に『ちょっとだけ期待してますね』と茶目っ気な笑顔で返され、俺はこれには少し驚く。


「そろそろ。わしも仕事に戻ろうかのう? フォルタニアちゃんの煎れてくれた、美味しいお茶もいただけた事だしの?」

 と、立ち上がるリーゼスに続き、

「私も行かなくちゃ。ちょっと長居しすぎたわね」

 同じくヴィエラも立ち上がる。


「申し訳ありません。引き留めてしまいましたね」


「気を使い過ぎじゃ。わしらは好きでおったんじゃ」

「そうですよ。美味しいお茶をご馳走様でした──クレハちゃん達も、お話付き合ってくれてありがとう!」


「いえ、とんでもないです。こちらこそ心配していただき本当にありがとうございました!」


 軽く立ち上がり、頭を下げるクレハに続き、「「ありがとうございました!」」とエメレアとミリアが頭を下げる。


 お、珍しくミリアが噛んで無いな?


「ユキマサも──またね。今度、食事でもいきましょ。あ、クレハちゃん達も一緒にね? 聞いた話だと〝エルクステン〟は初めてなんでしょ? 誘ったのは私だから、食事も奢るし、色々と案内するわよ?」


 俺は、最後にヴィエラに耳打ちされる。


「そりゃ楽しみだ。それと〝魔王信仰〟だったか? 俺が言うのもなんだが、ヴィエラも気を付けろよ?」

「ええ。ありがとう」


(なるほどな?)


 次に、俺も立ち上がり──


「ちょっと失礼するぞ?」


 と、ヴィエラの首の後ろにそっと手を触れる。


 急な俺の行動で「え、ちょっと、な、何かしら?」と慌てる様子のヴィエラに「他意は無い。ただの餞別(せんべつ)だ」と言いながら、俺は──ボワァァ! っと、緑の光を放つ〝()()()()〟を使う。


 これは会って、途中から気づいたのだが……


 ヴィエラは、顔には極力出さないようにしていたみたいだが、時々……まるで、波のように押し寄せて来る身体の痛みを、耐えるような様子を見せていた。


 しかも、それは最近の怪我とかの痛みというより、()()といった感じの『ああ、またか……』というような。もう諦め、受け入れて、慣れてしまった感じの痛がり方だった。


(──にしても何だこれは? 怪我でも無いし、病気でも、毒でもない。知らないな。この感じは……)


「え……う……嘘……。痛みが来ない……? これは〝聖水〟でも、一時的に痛みを和らげるぐらいにしか効果が無かったのよ!?」


 ヴィエラは目をパチクリさせ『信じられない』と驚きながら、自身の身体を確かめるように全身を擦る。


「なんとッ!!」

「──!!」


 反応を見るに、リーゼスとフォルタニアは、ヴィエラのこの事を知っていたみたいだ。


「えっと……ユキマサ君? ど、どういうこと!?」


 クレハは知らなかったみたいで、戸惑った様子だ。エメレアとミリアも「「……!?」」と同じく知らなかったらしく、顔を見合わせて驚いている


「さあな? 経緯は本人から聞け。流石にそこまでは分からん──だが、これは何だ? 毒でも怪我でも病気でもないな?」


「わ、分からないのに治せたの……? ──これは〝7年前の魔王戦争〟で〝魔王ユガリガ〟から受けたもので〝聖教会〟では〝()()〟と呼ばれる物の、その中でも、極めて強力なものだった筈よ?」


「呪い?」


 ヴィエラは、まだ『嘘じゃないのよね』と言いながら、自分の身体を触ったり、軽くつねったりしている。


「システィア隊長から話は聞いていましたが……この一瞬でこの回復力とは……実際に見るのと、聞くのでは驚きが違いますね」


 目を見開いて驚くフォルタニアは、俺の〝回復魔法〟の事はシスティアから聞いていたみたいだ。


「ヴィエラさん……! き、聞いてませんよ?」


 怒った様子……いや、どちらかと言うと少し悲しげな様子のクレハ。

 どんな繋がりなのか何なのかは分からないが、それでも仲は良かったのは確かだろう。


 流石にシスティア程では無いが、それでもヴィエラとクレハ達は親しい事が伺える。


「ごめんなさい。心配かけたくなかったの……」

「そ、それでも私は話してほしかったです……すいません──でも、治ったのなら良かったです……!」


 まだ少し納得のいかない様子のクレハだが、最後は優しく微笑みながら『良かった』と言っている。


「ありがとう──で、それにしても、ユキマサ、これはどういう事かしら? しかも無詠唱みたいだし、聞きたい事が山ほどあるわよ……?」


「ヴィエラさん……ユキマサ(これ)はお婆ちゃんの〝病気〟まで〝回復魔法〟で治してましたから──普通に考えて色々とあり得ないんです。これのする事をイチイチ考えてると、日が暮れてしまいますよ……?」


 と、飽きれ顔で、軽く俺の説明をするエメレアが、サラッとクレハの婆さんの病気を治した件をゲロる。


「ま、魔法で病気を!?」


 それにいち早く食い付いたのはフォルタニアだ。


「それは秘密で頼むよ。悪いが、俺は誰でもわけ(へだ)て無く救う気は無いからな──」


 俺は〝聖人〟でも無ければ〝勇者〟でも……

 ──ましてや、金を貰い病を治す()()ですら無い。


 それに残念ながらいるのだ。


 世の中には救うべきではない人間が……


「冷たい奴だと思われるかも知れないが、俺は、誰でもわけ(へだ)て無く、この〝回復魔法〟で、人を救う事が正しいとは思わない。悪いが、救うべき人や、救いたい人は、俺の勝手な独断と偏見で選ばせて貰う」


 そんな俺の言葉に、直ぐ反応したのはクレハだ。

 

「ユキマサ君。じゃあ、私やシスティア隊長や、お婆ちゃんやヴィエラさんを助けてくれたのは何で……?」


 クレハが、じーっと俺の顔を真っ直ぐに見つめて、真剣に聞いてくる。


「俺が助けたかったからだ」


 他に理由はない。少なくとも、此処にいる奴が軽傷でも、重症でも、重体であったとしたら必要なら迷わずに俺は〝回復魔法〟を使うだろう。


「うん──知ってる! やっぱり、ユキマサ君はユキマサ君だね!」


 クレハは凄く嬉しそうに笑う。


「──ッ……、そりゃどうも……」


「ユキマサ。本当にありがとう。この恩はいつか必ず返すわ」


 するとヴィエラは最後に小声で『それにこれは本命はクレハちゃんかしら?』とぶつぶつ言っている。


(本命? 怪我のか?)

 ……()()()()()? 何の話だ?


「……どういたしまして。別に恩を売ったつもりは無いから、気にしなくていい。でも──さっきの食事の件は楽しみにしてる」


 こう見えて、食べ歩きだとかは好きなんだ。

 それも〝異世界〟なら尚更楽しみだな──


「飾らないのね。食事の件は任せてちょうだい。死ぬほど食べさせてあげるわ!」


「どうだろうな? まあ、死ぬ程は困るが、期待はしとく──それと、俺達もそろそろ行くか? フォルタニア、お茶もご馳走さま。今まで飲んだお茶の中で、一番に美味かったよ」


(意外と長居しちまったな?)


「そうだね、そろそろ行こっか。フォルタニアさんお茶ご馳走さまでした。美味しかったです!」

 と、クレハが立ち上がると、

「ご馳走さまです! それにだから何でユキマサが指揮ってんのよ!」

 不機嫌そうなエメレアも立ち上がり、

「ご、ごちです、あ、こ、これは、ち、違うんです! ご、ご馳走さまです!」

 と、続けてミリアも慌てて立ち上がる。


 あ、今回は噛んだな? でも、噛んだ『ごちです』でも意味は伝わるぞ? 頑張れ、ミリア──。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!

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