第23話 異世界事情と天聖
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──その後、ファルタニアに『少し休憩をと思ってるのですが、ご一緒にお茶でもいかがですか?』と、お茶を誘われ、俺とクレハとエメレアとミリアは、フォルタニアにギルドマスター室へと案内されていた。
クシェラとクシェリ、それと〝モフっ子幼女〟のココットも呼ばれたが、用事があるとの事で不参加だ。
ココットは凄く行きたそうで残念がっていたが、ファルタニアに『また呼ぶので、次は是非とも来てくださいね』と言われて、最後は明るい表情になり『うんッ!』と元気に返事をして帰っていった。
そして、人生で二度目となる、ギルドマスター室に案内されると──そこに、いるであろうと思っていた、人物の姿が無いことに気づく。
「ロキは不在なのか? 〝アーデルハイト王国〟の王族が来るとか来ないとか聞いたが──その件か?」
「はい。それもございますが、今は色々ごたごたしておりまして、あちこち回ってるかと思われます」
まあ、ギルドマスターなら何かと忙しいか。
「ユキマサ様。お茶は何かご希望はございますか?」
「なら、緑茶はあるか?」
と、この世界に紅茶があるなら、緑茶があってもおかしくは無いだろうと考え、リクエストする。
紅茶や緑茶は、確か、発酵度合いが違うだけで、元々は同じ茶の樹から作られてる筈だ。
まあ、この〝異世界〟の茶葉が〝元いた世界〟と同じ製法なのかは、知らないんだけどさ……同じシャンプーでも〝異世界〟だと──原材料は〝妖精の花〟とか言う、エルフの国の植物が原材料らしいしな。
(異世界2日目とはいえ、まだまだ本当に知らない事だらけだ。もし、図書館でもあれば情報収集がてら行ってみるか……)
「緑茶ですね。承りました。皆さんはどうしますか?」
ファルタニアは、クレハとエメレアとミリアにもリクエストを聞く。
「では、私も緑茶でお願いします」
「私も同じ物をお願いします」
「わ……私も、同じもにょッ……のでお願いします……」
クレハ、エメレア、ミリアも同じく緑茶を頼む。
「──はい、では少しお待ちください」
せっせと、フォルタニアはお茶の準備をする。
「……で、ユキマサ。いつの間にファルタニアさんとまで仲良くなったのよ? この女誑しッ!」
エメレアが質問……いや、罵倒してくる。
「つーか、誰が誑しだ? 誰がッ!」
ここに来て、ようやく、俺はエメレアの〝女誑し〟発言に対し、突っ込む事ができた。
「……ユキマサ君は女誑しだよね。それと、さっきのエメレアちゃんがタイプだって件──どういう事なのか……まだ、私、返事聞いてないよ?」
隣に座るクレハは、目を細めて俺をジト目で見ながら、低めの声で聞いて来る。そして、その表情から察するに、何やらご立腹な様子だ。
「あれは例えだ。まあ、美人なのは認めるが……」
後はエメレアへの、ささやかな嫌がらせのつもりだったんだが、何故かこれは失敗に終わっている。
「ふーん。例えなら別にいいけど。それに確かに、エメレアちゃんは美人だし……可愛いもんね……」
ムスッとするクレハは、相変わらずジト目で俺を見てくるのだが、エメレアには優しい表情で、何か羨まし気な感じで見つめている。
てか、俺クレハにムスられること多くないか?
これで、クレハにまで嫌われたら流石に凹むぞ?
「……こ……この……誑し……ッ……///」
と、少し顔を赤くしながらプイッと、そっぽを向きながらも、隣に座るミリアの頭を撫でるエメレアだが、何故かいつもの俺への罵倒と、ミリアへの撫でにキレが無い。
(どうした? コイツ……具合でも悪いのか? あ、ギルドマスター室だから緊張してるのか?)
「エメレアどうしたの? 顔赤いよ? もしかして、か、風邪とか!? ぐ、具合悪いの?」
頭を撫でられているミリアも、いつもと何処か違うエメレアを察して、心配しているようだ。
(それにしても、罵倒にキレの無いエメレアか……何か逆に調子狂うな……?)
黙ってれば、本当に美少女だしな?
綺麗なサラサラの長い金髪に、白い肌と整った顔立ち──更におまけに、女の子らしい身体の凹凸も、ハッキリとしていて、スタイルも良いからな。
……って、これじゃ、今後エメレアに〝黒い変態〟とか言われても、反論できなくなるな。
じー………………
(何か、隣からクレハの視線を感じる気がする)
じー………………
「今度は何だ……?」
「別に……エメレアちゃん可愛いもんねー」
クレハは『つーん』とし、ずっと不機嫌だ。
するとエメレアがバーンッと立ち上がり──
「クレハのが100倍可愛いわよ! 私、命を賭けるわ!」
と、自信たっぷりの表情で、エメレアは何故かこのタイミングで、自らの命を賭け始める。
「あ、ありがとう。でも、エメレアちゃんもミリアも凄く可愛いし、それに私は二人とも大好きだよ──」
そう言いながら微笑むクレハは、心からの本心なのだろう。
クレハの婆さんと一緒に居た時みたいな、とても優しい表情だ。
それを聞いたエメレアはパタリと座り込み──
『こ、こんなのニヤけちゃう……/// 反則よ……』
と、呟き、片手で口を必死に押さえて震えている。
少し顔を赤くして、モジモジしたミリアも嬉しそうに「うん、わ、私もだよ!」と言っている。
エメレアだけ、何か違う気がするが……
まあ、幸せそうだし、放っておこう。
すると──
「お待たせしました」
フォルタニアが、温かいお茶と饅頭を運んでくる。
「悪いな。いただきます──」
俺は、礼を言い、お茶と饅頭を受け取る。
運ばれてきたお茶は凄く良い香りがする。
クレハやエメレアやミリアも『ありがとうございます』と言いながら、お茶を受け取っている
「どうぞ、粗茶ですが。これはエルフの国で取れた茶葉で、私のお気に入りなんです──」
「へぇ。そうなのか? そりゃ楽しみだ」
(じゃあ〝エルフの国のお茶〟ってことか?)
冷める前にと……早速、俺はお茶をいただく。
──!!
──もう一口!!
(何だこれ……! めっちゃ美味いな!)
味が深いし、香りや喉ごしが凄く良い──
お茶を口に含むと、口いっぱいに、身体にも良さそうな優しく深いお茶の味が広がり──そしてそれを飲み込むと、1秒……2秒……3秒と、口に残ったお茶の美味さが、更に強みを増して、広がっていく。
〝元いた世界〟でも、結構高めの高級茶を飲んだことがあるが……
それでも、これ程のお茶は飲んだこと無いぞ?
(──お、恐るべし、エルフ茶葉……)
「いかがですか?」
と、フォルタニアが聞いてくるので、
「驚いた。今まで飲んだお茶の中で、一番美味い」
俺は惜しみ無い称賛を送る。
「本当ですか? それは良かったです。実はこのお茶だけは、ちょっと自信があったんですよ!」
嬉しそうなファルタニアは、仕事の作り笑いとかでは無く──今、初めて本心で笑ってくれた気がする。
「あ、美味しい!」
クレハも美味しそうにお茶を飲んでいる。
「嘘、これエルフの国でも最高級の茶葉ですよね? あの──エルフ王室も御用達の……」
何やらエメレアはこの茶葉を知っている様子だ。
(つーか、粗茶じゃねぇじゃねぇか……)
「そ、そうなの!?」
と、驚くクレハ。その向かいに座るミリアも、お茶を飲んでいたが値段を聞くと「こ、高級……なんだね……」と呟き、それからは恐る恐る飲んでいる。
「いえいえ、これは私の個人的な貰い物ですのでお気になさらないでください。おかわりもありますよ」
「太っ腹だな? で、太っ腹ついでに、いくつか少し聞きたいことがあるんだがいいか?」
クレハに聞こうかと思ってたが、副ギルドマスターのフォルタニアもいるなら、情報の幅も広がるし、ちょうどいい。
もう、この際この世界から見て、俺が〝異世界〟から来たって話す事になっても、この面子なら多分問題ないだろう。
──と、それぐらいの覚悟で質問をする。
「はい、何でしょうか?」
「魔王について詳しく聞きたいんだがいいか?」
「──ちょ、ちょっと、ユ、ユキマサ君ッ!?」
少し慌てた様子のクレハは俺に耳打ちしてくる。
『いいの? フォルタニアさんもいるのに?』
『少し悩んだが、アルテナの事とかを意図的に言うつもりは無いしな。それに最悪この面子ならバレても問題無いだろ?』
『ユキマサ君がいいなら、いいけど……』
と、クレハは納得してくれる。
「大丈夫ですか? よければ、席を外しますが?」
「いや、大丈夫だ。悪いな」
気を使って、少席を外そうとするフォルタニアを、俺は軽く制止する。
「分かりました。それで〝魔王〟でしたか? その〝魔王〟の、何が聞きたいのでしょうか?」
「基本的な事から全部だ。それに、何で魔王は3人いる? 確かフォルタニアは、嘘が分かるんだよな? だから先に言っておくが、俺はかなり遠くから来ていてな──正直な話〝魔王〟とか〝魔族〟とか、それこそ〝魔物〟の一般的知識ですら、よく知らないんだ」
俺は、予め、フォルタニアにそう伝えておく。
〝異世界〟だって、遠くって言えば遠くだろうし、嘘は吐いて無い筈だ。
「わ、分かりました……」
俺の無知さに、心底ビックリしているのだろうか。
フォルタニアは軽く目を見開いて驚いている。
うーん、そう考えると何か複雑だな?
「ゆ……ユキマサ……貴方……本当に……本物の馬鹿だったのね……ごめんなさい……色々言いすぎたわ……」
エメレアに至っては、口に手を当てながら、物凄く可哀想な人を見る目で俺を見てくる。
(こいつ……煽るの上手いじゃねぇか……)
「いくら遠くから来ていても、魔王や魔族の話ぐらい、この世界にいれば嫌でも耳にする筈よ? それでも知らないなんて……可哀想に……本当に物覚えが……いえ……記憶力が悪……いえ、頭が悪いのかしらね」
『ぐすん……』と──それはそれは、わざとらしく、手で涙を拭う動作をし、エメレアは嘘泣きをする。
「悪意100%の解釈をどうも……てか、エメレア? お前……もはや清々しいな……?」
こんな〝心の籠った悪意〟は初めてだ。
「エメレアちゃん……」
クレハは自分の額に手を当てながら『はぁ……』と軽くため息をついている。
「エメレア、ユキマサさん馬鹿じゃないよ?」
クイクイと、エメレアの服の袖を引っ張りながら『違うよ?』と純粋な目で話すミリア。
……ホントいい子だな?
今度、何か奢ってあげよう。
「え、えっと……これはね……」
予想外の所から、凄く純粋な目で『違うよ?』と真剣に否定され、言葉に詰まるエメレア。
(いいぞ、ミリア頑張れ……!)
すると、その様子を黙って聞いていたフォルタニアが、軽く咳払いをしながら口を開く──
「んッ、んッ、失礼。話を戻しますよ? ユキマサ様の話は分かりました。少しだけ、何かを濁してる部分があるようですが……嘘はありません。濁した部分にも何か理由があるのでしょう。私の知る範囲でよろしければお話いたします」
(凄いな、今のでも濁したってのが分かるのか……)
「助かる」
(やっと聞けるか、3人いるという〝魔王〟の話を)
てか、女神様……もう少し教えといて欲しかったぞ。
「では、まず──魔王は正確には4人おりましたが、〝7年前の魔王戦争〟で1人減り、現在は残り3人です」
「らしいな? そこまでは、クレハに聞いた」
確か、その魔王戦争で〝魔王ユガリガ〟とかいうのが倒されたらしい。
「では、ここからですね。
現存する残りの魔王は3名──
1人目は〝魔王ラフィメストス〟
2人目は〝魔王イヴリス〟
3人目は〝魔王ガリアペスト〟
この魔王達により、今人類は絶滅の危機に立たされております──」
「ん? 魔王が現れたのは、結構最近なのか?」
今人類はの、今に何か含みがあるように感じた俺は、そこを聞き返す。
「ユキマサ様〝天聖〟と言う人物はご存じですか?」
「いや、聞いたことは無いな? 二つ名か?」
〝天聖〟で本名ってのは無さそうだからな。
「……はい、そうなりますね。本名は知られていません〝人類の英雄〟とも呼ばれていますが、何せ、1000年以上も前の人物ですので──」
『では、そこから話さねばなりませんね』
そう言うと、フォルタニアは話を続ける──
★★★★★★作者からのお願い★★★★★★
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