第193話 炊き出し
ジューリアとノアが加わって、治療スピードが格段に上がったことで、怪我人を粗方片付けた数時間後──
「魔物の残党は一応ですが、片付け終わりました」
「まあ、殆どの魔物は魔王が倒されると、皆どっかに逃げたみたいだから、そこまでは追ってないけどね」
ギルドに入ってきたのは赤紫のロングの髪の軍服姿の少女──シラセ・アヤセと、ピンクの髪に左右の目の色が違う男か女か分からない子供のような人物──パンプキック・ジャックが現れる。
「シラセにパンプキックか! 無事だったか!」
「ユキマサさんこそよく魔王を! 感激しました」
「ナイス、ユキマサ! というか、お腹空いたな」
「──そりゃどうも、よし、炊き出しでもやるか!」
「炊き出し? 今から?」
俺の発言を聞いたクレハが問いかける。
そしてよく見るとクレハの婆さんもちょうど合流したみたいだ。その隣には第2騎士隊長のリーゼスもいる。
「おう、こんなこともあろうかと、バカデカイ鍋も買っておいたしな?」
と、ひょいっと俺は風呂釜ぐらいある鍋を〝アイテムストレージ〟から取り出す。アリスたちとの買い物で買った物だ。
売り物じゃないと店の店主は言っていたんだが、異世界には炊き出しが、炊き出しにはバカデカイ鍋が必要だろうと無理を言って買った一品だ。少し多めに金を置いてくると店主はえらく喜んでいた。
「ちょ、今どこから出したの!?」
驚く理沙。
「〝アイテムストレージ〟だ」
「〝アイテムストレージ〟って、いつの間に……」
「私は賛成、お腹も空いてきたし、ユキマサ君の料理なら魔力の回復もできるしね」
俺のスキル〝料理師〟には作った料理に怪我や傷の治療効果と、俺の〝ユニークスキル〟の〝異能〟の追加効果で魔力回復を与える効果がある。
「よし、なら豚汁だな」
「豚汁?」
「豚汁もねぇのか、異世界には?」
「うん、聞いたこと無いかな?」
「あ、私手伝うよ」
はーい、と手をあげるのは理沙だ。
「食器はギルドの食堂から出しましょう。でも、足りますかね?」
そうロキが言うと、
「そういうことなら私らの食器も出しましょうか」
「女将さん?」
現れたのは料理屋ハラゴシラエの女将さんだ。姿はいつもと異なる武装モードだが、食器を貸してくれるらしい。
「お兄さんがまさか魔王を倒すなんて驚いたよ」
「そりゃどうも、武装中の女将さんもレアだな?」
「魔王戦争中に武装しない、元とは言え冒険者がどこにいるのかしら?」
「違いねぇ、食器提供感謝するぜ」
そうして俺は豚汁を作り始める。
こないだアリスと一緒に街を回って買っておいた、ゴボウ、ニンジン、蒟蒻、豚肉、豆腐を煮る。
出汁は以前に取っておいた鰹出汁だ。
「ユキマサ、ごはん炊く?」
「お、行けるなら是非頼む! 米ならここだ」
理沙の発言に俺は歓喜をあげる。
*
「うっまー!! 何これ!」
豚汁を口にしたパンプキックが叫ぶ。
「だろ? 炊き出しと言えばやっぱ豚汁だよな」
「というか、この魔力の回復はどういう原理?」
「それは俺のスキルの料理師ってやつだ」
「美味っしいです! 何ですか、これ!?」
「アトラ、いつの間に?」
いつの間にか現れたアトラに俺は困惑する。
「美味しい場所にアトラ有りですよ、ユキマサさん!」
ふふん! と、何故かドヤ顔のアトラ。
「これは豚汁と言うのですか? 美味しいですね、身体も温まります」
ゆっくり食材を噛みながら話すシラセも満足そうだ。
「美味い! 何だこれは!」
「味噌の汁に肉が入ってるのか!?」
「これはただ味噌をお湯に溶いただけじゃないぞ!」
「これを無料で貰えるのか!?」
「はーい、はい、並んでくださーい!」
実家の和菓子屋の長蛇の列の接客をしていた理沙にとっては、これぐらいの行列なんぞ、お手のもんさ。
「美味しい!」
ノアも満足な様子だ。
「あ、あの、おかわりいいですか?」
「ああ、たんまりあるからいっばい食べな」
おかわりを求めるミリアに俺は笑顔で返事をする。
「わ、ありがとうございます!」
「で、エメレア、お前もか?」
「……おかわり」
「はいよ、器寄越しな?」
「ありがと」
「システィア、ジューリア、お前たちはどうする?」
「では、私もいただこう」
「私もいただきたいです」
そしてクレハと理沙とハラゴシラエの女将とギルドの食堂のおばちゃん達がおにぎりを作っている。
ナチュラルに混ざるクレハと理沙に違和感は無い。
つーか、理沙は豚汁配ったり、おにぎり握ったり忙しいな?
「おい、パンプキック、豚汁はおにぎりにスゴく合うんだぜ?」
「そうなの? なら、おにぎりも貰おうかな」
「あ、私も食べたいかな。勿論、豚汁もおかわり!」
「今回の功労者はノアだしな、いっぱい食べな」
「ユキマサ君のが功労者っぽいけどね、炊き出しまでやっちゃってるし、頭が下がるよ」
「ユキマサ様、代わりますよ。ユキマサ様も食事を取ってください」
と、最後はフォルタニアが配膳を代わってくれた。
俺はお言葉に甘え、配膳を代わって貰い、豚汁とおにぎりを受けとる。
いいねぇ、疲れが取れそうだ。
「ん、エルルカ、食わねぇのか?」
「貴方を待ってたのよ、一緒に食べましょ」
「何だ、待っててくれたのか? そりゃ嬉しいな」
「当たり前よ」
「エルルカ様、こちらどうぞ」
フォルタニアが料理を運んでくる。
ということで、俺はエルルカと食事をする。
「豚汁と言うのね」
「おう、俺の故郷の一般的な料理だ」
「「いただきます」」
「あら、美味し」
「そりゃよかった、いっぱい食えよ」
と、俺も豚汁とおにぎりを口に運び、魔王戦争後の一時の安らかな時間が過ぎていくのだった──
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