第189話 過去編・花蓮ノ子守唄20
──翌朝。
「ユキマサ! 何で床で寝てるのよ!」
俺は床で朝を向かえた。
あまり熟睡はできなかった気がする。
「……理沙か、おはよう、ゆっくり寝れたか?」
「だから何で床で寝てるのよ! これじゃ、私が夫婦喧嘩した時の奥さんみたいじゃない! ……ていうか、誰と誰が夫婦よ! ──ま、まだ付き合ってないも無いでしょ! バカ! ユキマサなんて風邪引いて寝込め!」
寝ぼけてたのか、理沙は謎の夫婦ワードと、ノリ突っ込みと──〝風邪引いて寝込め!〟と言う、あまり聞かない捨て台詞と共に台所へと走り去っていった。
確か、今週は理沙が食事当番で──そのままキッチンへ走り去る辺り、根は凄く真面目なんだよな。
*
「で、何で俺だけオムライスなんだ?」
その日の朝食、他の皆は和食で、俺だけ何故かオムライスが用意されていた。
いや、嫌いじゃないけどさ? オムライス。
「つーか何だよ、風邪って!」
「スゴいよ、スゴいよ倖兄芸術だよ!」
パシャ、パシャと凉華がケチャップでオムライスに書かれた〝風邪〟の文字をスマホのカメラで撮る。
まあ、ホントよく綺麗に漢字で書いたよな?
「つーん、知りません」
そっぽを向く理沙。
「おやおや、いいのかな? 理沙姉がいいなら倖兄は私が本気で貰いに行っちゃうよ?」
「ちょっと! 凉華!!」
「ふーんだ、正直、本気で倖兄なら抱かれてもいいし、奥手な理沙姉よりは可能性あると思うよ!」
「抱か、抱かれ……凉華!」
面白いようにからかわれる理沙を横目に俺はオムライスを食べる。からかいだよな? うん、多分そうな筈だ。凉華のことだから分からないけど。
「倖兄、倖兄、ロック画面の待ち受けにした」
ぐいっと、理沙は自身のスマホのロック画面を見せてくる。ケチャップで風邪と書かれたオムライスの画面を。
「どう反応すればいいんだよ? つーか、理沙、なんの真似だ」
俺は改めて理沙の俺だけオムライスの件について追求する。
「知ーらない、風邪でも引けば?」
「あいにく、風邪は引いたこと無いんでね」
「え、そうなの! 流石倖兄!」
流石と反応したのは理沙ではなく凉華だ。俺が手にできなかった朝食のおにぎり片手に口を開く。
「凉~華~!」
「わー、怖いな、怖いな」
睨む理沙に対し、凉華はあっけらかんと笑う。
それを横目にいただきますをし、オムライスを食べ始める──うん、普通に美味いな。
「あ、倖兄勿体ない!」
「食わなきゃ、もっと勿体ないだろ?」
「そりゃそうだけど……」
そのまま朝食を取ってると理沙が神妙な顔で話しかけてきた。
「さっき六法全書読んでた牧野さんに話しかけたら『今いい所なんだ火急でなければ後にしてくれ』っていわれた……もしかしなくても、私牧野さんに嫌われてる?」
「あいつは朝から何読んでんだ? それに別に気にすること無いと思うぞ? 多分俺が話しかけても同じ対応だ」
「ならいいけど……」
「──あ、おい、牧野! 朝っぱらから六法全書は辞めろ? 理沙が困ってるだろうが!」
「ん? そうかそれはすまなかった」
あっさりと謝る牧野に俺は拍子抜けする。
牧野は最近は毎日孤児院の様子を見に来る。
心配症なのかねぇ……
*
そんなある日──
「クソ、後少し何だがな。今日もちょっとでかけてくるぞ」
「ユキマサ何処行くの?」
「病院だよ、病院」
「病院!? ユキマサが? 頭でも打った?」
「俺のじゃねぇよ、強いて言うなら見舞いだ」
「お見舞い? 誰の?」
バタン!
「て、ちょ、ユキマサ! 何倒れてるのよ!」
「何だこの疲労感は……治癒能力使いすぎたか? 理沙、飯をくれ……」
「いいけど……こんな時間に?」
時刻は午後3時。飯の時間からは程遠い時間だ。
「もう! ある物でいいよね?」
「ああ、助かる」
するとタッタかと台所へ理沙は歩いて行き、ものの数分で食事を持ってきてくれる。
「和食じゃないとか文句言ったらぶちのめすからね」
「分かってるよ、サンキュ」
理沙の持ってきてくれたのはサンドウィッチにカップ麺、唐揚げにパスタだった。
カップ麺にパスタという麺と麺なのはさておき、本当に急いで作ってくれたらしい。後は昼の残りだな。
いただきますをし、食事を取る。
「ユキマサが倒れるなんてどんな天変地異?」
「天変地異じゃねぇよ? ちょっと治しづらい奴にあってな?」
「で、それは男?女? いや、女でしょ?」
「なんの話だ? まあ、女だが……」
「うわ、やっぱり」
「治してやりたいんだ、あんな横顔みるのはごめんだ」
「誰だか知らないけど、まあいいよ」
そう呆れたように理沙は告げるのだった──
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