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第18話 腕の中の少女



 *


 温かい……それに凄く良い匂いがする……

 あと、何か身体に凄く柔らかい感触がある。


 そんな沢山の感覚と共に俺は重たい瞼を開ける。


 ……正直、朝は苦手だ。


 〝元いた世界〟の孤児院でも、俺が食事当番以外の日に俺が起床するのは……いつも最後だった。


 しかも、同じ孤児院の理沙に叩き起こされてやっと起きる形でだ──でも、毎朝わざわざ部屋まで、自分を起こしに来てくれる人がいるのっていうのは、我ながら凄く恵まれていた事だなと思う。


 ──で、それでだ……!


 起きたら腕の中に超が付く美少女が寝ていた。


 勿論、そういう変な事はしてない。


 そんな事を考えてる間にも、俺の腕の中で寝ている張本人のクレハは「すゃ……すゃ……」と、可愛らしい寝息を立てている。


 よく見てみると……クレハの提案で半分こした筈のベッドの、一応は()()()()である筈の右半分から俺は出ていない──という事は、これはクレハの寝相(ねぞう)で、クレハからこちら側へ来たんじゃないのだろうか?

 

 ただ、俺は元々──掛け布団とかを抱き締めるようにして寝るという……今だと理沙ぐらいしか知らない少し恥ずかしい寝る時の癖がある。


 その癖のせいで、俺はいつの間にかクレハの方を向いて、自分の腕でクレハを抱き締めるような形で寝てしまっている。


 その結果。クレハの良い匂いは勿論のこと……


 クレハのそれはそれは柔らかい身体の色々な部分が、俺の身体に当たっていて──それはもう何か言い逃れ出来ないぐらい、色んな意味でやばい……!


 すると……


「ん……っ……私……二度寝……しちゃったんだ……」


 と、寝ぼけ眼を擦りながらクレハが目を覚ます。


 もうここまで来ると寝た振りもできないので、


「おはよう……クレハ……」


 この際この状況は無視で俺は朝の挨拶を決行する。


「……うん、ユキマサ君……おはよう」


 まだ、この状況に気づいてないのか……クレハは普通に『おはよう』と朝の挨拶を返してくる。


「……あ! これは……違うの……私、寝相悪くて──それに何か温かくて気づいたら二度寝しちゃって……」


 クレハの顔がみるみると真っ赤くなっていく。


(──二度寝? そういや、さっきは普通に流したが起きた時に、二度寝がどうのとか言ってたな……)


 てことは、俺が起きる前にクレハは先に一度起きて、この体制には気づいてたけど、そのまま二度寝したって事か?


(よかった、取り敢えず、怒ってはなさそうだ……)


 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 

「そ、それに……ユキマサ君の腕……離れないし……」


 顔を真っ赤にしてクレハはそんな苦情を言って来るが、特に離れようとする様子も怒る様子もない。


「わ、悪い。癖でな……」

 と腕を離しながら俺は謝る。

「く、癖でって……? ユキマサ君……寝てる時に女の子を抱き締める事が……よくあるの?」


 『ふーん……?』と表情は穏やかだが、目は笑っておらず、クレハは何だか急に怒った感じになる。


「誤解だ。そうじゃない!」

「ふーん……そうなんだ……ふーん……」


 まだ絶賛ムスっと中のクレハ……てか〝寝てる時に女の子をよく抱き締める癖〟ってどんな癖だよ!?


 まあ、俺の言い方が悪かったのは認めるが……


「改めてだが、泊めてくれて助かったよ」


 少し話の方向性を変えるべく。俺はベッドから起き上がりながら、まずは泊めてくれた礼を言う。


「うん、どういたしまして。それに寝る前のお話とか凄く楽しかったよ」


 そう言いながらクレハもベッドから起き上がる。


「ならよかった。あと、夢じゃなかっただろ?」

「うん! 夢じゃなかった!」


 クレハは嬉しそうに深く頷きながら微笑む。

 それに、どうやら機嫌も直ってきたみたいだ。


 すると──コンコン! と扉を叩く音がする。


「クレハ、ユキマサさん、起きてるかい?」


 扉越しにクレハの婆さんの優しげな声がする。


 声も最初に会った時の病気で衰弱した声では無く、ゆっくりとした喋り方だが、覇気のある元気な声だ。


「うん! 私もユキマサ君も起きてるよ!」


 元気なお婆ちゃんに嬉しそうな様子で、クレハは返事をする。


「あ、朝ごはん作らなきゃ! ユキマサ君、何が良い?」


 俺は反射的に『和食』と言いかけるがやめる。


 ──和食? ってなりそうだし……


「えーと。じゃあ、米かな?」

「お米? おにぎりとか?」


「それだ!」


 それと味噌汁もあれば朝食としては最高なんだが……そもそも、()()的な食事文化があるのかが分からないこの世界では、味噌汁の所望(しょもう)は難しいかもしれない。


 なら、今度材料探して自力で作るしか無いな。


「うん、任せて!」


「ちなみにこの世界だと米は高かったりするのか?」

「うーん。別に高くはないよ? 〝エルフの国〟のエルフ米だと高いやつあるけど、他は特に珍しくも無く、高級な食材と言うわけでも無いよ」


 それは良かった。てか、エルフ米? 

 ──食べてみたいけど。異世界感が凄いな?


 和食ってよりは、異世界独自の食文化みたいだ。


 いや、勿論、今度探して食べるけど。


 そんなこと考えていると──

「ユキマサ君、行くよー?」

 と、クレハに言われて俺も部屋を出る。


「──お婆ちゃん、おはよう!」


 部屋を出ると元気な挨拶をするクレハ。


「おはよう。クレハ。ユキマサさんも」

「おはよう。婆さん、具合はどうだ?」


 見れば分かるが、念の為に聞いてみる。


「お陰さまで、すっかりよく成りました。本当にありがとうございます」


 ペコリと丁寧に頭を下げてくる。


 その隣でクレハは『こっちも夢じゃなかった。本当によかった……!』と喜んでる──心配性だな? でもまあ、この場合はどちらかと言うと、長所だな。


「そりゃ良かった。後、敬語はやめてくれ。普通に喋ってくれた方が楽だ。俺もこんな言葉遣いだしな?」

「そうかい? じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかね。ありがとう。ユキマサさん──」


 婆さんはクレハ似の優しい笑顔で微笑む。

 いや、この場合はクレハが婆さん似って事になるのか?


 あと〝さん〟は付けては来るが、そこは別に気にしないで好きに呼べばいいと思う。


 ちなみにエメレアの〝黒い変態〟は即却下だ。


「朝食を用意してあるから。クレハ、ユキマサさん一緒に食べましょ?」


 部屋を出た時には気づいていたが、テーブルに朝食が3人分用意されている。


「お婆ちゃんの朝ごはん! 懐かしい!」


 クレハは無邪気に『やったー!』と凄く喜んでる。


「あ……ユキマサ君……朝食のおにぎりは明日でもいい?」


 先程『クレハは俺に朝食何が良い?』と聞き、米と俺が答えて『任せて!』とクレハが言ってくれて、朝食におにぎりを作ってくれる様子だったが……既にお婆さんが朝食を用意してくれていたので、どうやらおにぎりは持ち越しのようだ。


 生真面目なクレハは、申し訳なさそうにお婆ちゃんには聞こえないぐらいの小声で俺に聞いてくる。


「ああ、勿論だ。楽しみにしてる」


 ん? てか、明日の朝食って事か? 


(でも、おにぎりなら弁当みたいにできるか。昨日、貰ったおにぎりも昼の弁当の残りだったらしいしな)


「あら、クレハ何か約束でもあったの? 邪魔しちゃったかしらね。ごめんなさいね」


 クレハの小声も虚しくバリバリ聞こえてた様子だ。


「ち、違うの! 私が勝手に朝ごはん作るつもりでユキマサ君に『朝食は何食べたい?』って聞いちゃったから悪いの! 私はお婆ちゃんの朝ごはん凄く嬉しいから! お婆ちゃんは悪くないよ! 私が悪いの!」


 早口で全力否定するクレハ。よく噛まなかったな。

 ミリアなら、ざっと10回は噛んだんじゃないか?


「いや、クレハも悪くないだろ? それにせっかく作ってくれた飯が冷めちまう。早く食べよう──」


 朝から落ち着きが無い、クレハの頭にポンッと手を置きながら、俺はクレハとテーブルに向かう。


「うん!」


 と、一言だけ返して来るクレハの頬は、ほんのりと赤くなっており、スゴく嬉しそうな様子だ。


「おやまあ。すっかり仲がいいのね」


 何だか知らないが、婆さんも嬉しそうだ。


 テーブルに付き、料理をみると──

 バターの乗った厚切りのトーストに、サラダとオムレツ。そして細かく刻んだ色んな野菜が入ったスープという、しっかりとした朝食だ。


「お婆ちゃんの野菜スープにオムレツだ! どうしよう、少し涙出てきちゃった……」


(笑ったり、泣いたり忙しそうだな……?)


 でも、その全部が嬉しそうなクレハ。

 所謂(いわゆる)、お婆ちゃんの味というやつだろうか?


 反応を見るに、病気の時は婆さんは料理ができなかったか、クレハが気遣ってさせなかったのだろう。


 もう食べられないと諦めていた──〝懐かしい思い出の料理をまた食べられる〟といった感じの喜び方だ。


 まあ、そりゃ嬉しいだろうな。よかったな。


 そういうお袋の味というか。小さい頃に食べた料理の味って、再現しようとして、自分で同じ食材や同じレシピで作っても、不思議と何かが足りなくてできないんだよな。


 なんつーか。作ってもこれじゃない感がある。


「昔はよく美味しいと言って食べてくれたねぇ。久しぶりの料理だったけど、た~んと食べておくれ!」


「うん、ユキマサ君も食べよ! いただきます!」

 ご機嫌のクレハは早速料理を食べ始める、

「ああ、いただきます」

 それに続き、俺も食事をいただく。


 まず、俺はスープを飲む。


(──うん、美味い!)


 細かく刻まれた野菜が噛むまでもなく舌でほぐれ、味付けは塩だけみたいだが、この塩がやたら美味い。

 それに玉ねぎや人参とかの野菜の旨味がスープに出て、この塩にも上手くマッチしている。


 好みの味だ。塩加減もちょうど良い。


 それに異世界でも本当に同じ野菜なんだな。

 普通に食べていたが、見た目も()()完全に人参と玉ねぎだ。


(まあ、米もあったしな。不思議じゃないか)


「お婆ちゃん、おかわり!」


 ──早いな!? 


 クレハは、満足気な表情であっという間に完食しスープをおかわりしている。


「あら、嬉しい。すぐ持って来るわね!」


 クレハの飲みっぷりに婆さんも嬉しそうだ。


「美味しい! それに本当に懐かしい!」


 もぐもぐとオムレツを食べながら、食事の感想を話すクレハは、まるで小さな子供みたいに(はしゃ)いでいる。


「よかったな? 婆さんも嬉しそうだし」


 俺はトーストを口へ運びつつクレハに話しかける。


「うん。もう食べる機会は無いかなって思ってた」

「そうか。なら、食えてよかったな」


「ユキマサ君のお陰だよ。本当にありがとう!」


「どういたしまして──まあ、治ったからって、無理して今度は怪我でもしないように言っておきな?」


 病気が治って無理して怪我でもしたら元も子もないしな。怪我ならまだいいが、変に頭でも打って死んだりしたらそれこそ元も子もない。


 まあ、この世界の人間が日常生活で頭打ったぐらいで簡単に死ぬかは知らないが……

 用心するに越したことはないだろう。



「──ご馳走さまでした!」


 朝食に大満足の様子のクレハ──何だかんだで、スープ3杯にオムレツも2つをおかわりしてた。


 本当に嬉しかったんだな。


「ご馳走さま」


 俺も朝食を食べ終わる。俺はおかわりはスープ1杯を頼んだ。普通にお世辞抜きで美味しかった。


「はい、お粗末様でした。クレハがいっぱい食べてくれて嬉しかったわ。ユキマサさんも、料理お口にあったかしら?」

「うん、美味しかった。大満足だよ!」


「俺も美味かった。ご馳走さま」

 と思った通りの感想を言うと、

「それはよかったわ。お粗末さまでした」

 クレハの婆さんは優しく笑う。


「あ、お婆ちゃん、片付けば私がやるよ」

 と、席を立つクレハだが、

「いいさね。せっかく昔みたいに体が動くんだから、家事はお婆ちゃんに任せなさい──」

 と、婆さんに止められている。


 怪我や病気をすると、普段の健康のありがたみが分かるというやつだろうか? むしろ、婆さんは嬉しそうに率先して食器の片付けをしてくれる。


「ユキマサさんも食器はそのままにしといておくれ」

 と、婆さんが言ってくれるので、

「ああ、ありがとう。ご馳走様でした」

 俺は食器をそのままにして立ち上がる。


「ユキマサ君、今日はどうするの?」

「取り敢えず、ギルドに行こうと思う。色々見てみたいしな? 時間があれば、依頼みたいなのも受けてみようと考えてる」


 つーか、ギルドで依頼を受けるって事は……

 扱い的には冒険者スタートになるのか?


「じゃ、じゃあ、一緒にギルド行こ? 私もギルドに行く予定だから」

「分かった。待ってるから準備して来い」


 ちなみに俺は〝アイテムストレージ〟があるので、持ち物の準備は実質ほぼ無しで行ける。


「いいなー。ユキマサ君は〝アイテムストレージ〟あるから便利だよね──じゃあ、私は支度してくるから、ちゃんと待っててね!」


 と、クレハは部屋に走って行く。


 そして手持ち無沙汰になった俺は、婆さんの方を手伝うか? とも思うが、元々3人分の食器の片付けなので、俺が行っても、逆にごたごたして邪魔だろうと考えてやめる。


 仕方ないので、〝アイテムストレージ〟を開いて適当に色々と確認する。取り敢えず──

 残金は〝金貨8枚〟〝銀貨20枚〟〝銅貨30枚〟だ。


 まあ、武器屋で使っただけだからな。

 日本円にすると残金は823000円か。


 これから毎日宿に泊まると考えると、数ヵ月で使い果たしてしまってもおかしくない金額だ。


 一度この世界での金銭感覚や、ギルドでの討伐報酬とかをしっかりと確認しておかないとだな。


 そんな事を考えていると──


 ──トントン!


 家の外から控えめなノックが聞こえる。


「クレハー!」


 次に聞き覚えのあるエルフの声が聞こえる。


(おぉ、マジか!?)


 俺は1人のエルフ少女の来訪に頭を抱える。


「行き違いかしら? クレハー? 入るわよー」


 パタンッとゆっくり扉を開け、そのエルフの少女は「お邪魔します」とクレハの家に入ってくる。


「──は………」


 ピシッ……


 家に入って来るなり、俺と目が合うと、長い金髪をルーズサイドテールに綺麗に纏めたエルフの少女──エメレア・エルラルドは、およそ1日ぶりとなる見事なフリーズを見せて固まる。


 目を見開き、口をあんぐりと開けた──その姿はまるで〝時が止まったのでは無いか?〟と思う程に綺麗に固り、ピクリとも動く気配の無いエメレアに俺は……


「よう、エメレア。おはよう?」


 と、声をかけてみるが……


「……」


「…………」


 ──返事が無い、まるで(しかばね)のようだ。


「……」


「…………」


 おい、まじで動かないぞ──


 〝回復魔法〟使うか!?


「──ハッ! ……なななななななななッんで、あんたがクレハの家に居るのよッ!!!!」


(おッ、生きてた! よかった──エルフの(しかばね)なんて此処には無かったんだな……)


 よし。取り敢えず、クレハを呼ぼう!


 じゃないと、俺が何を説明しても、このエルフのエメレアは、何も信じてはくれないだろうからな! ハハハ。


 そう考えた俺はクレハを呼ぶ為、

 クレハの部屋に向かおうとするのだが……


 ──しまった……まわりこまれてしまった。


 おい、まじか? お前こんな速く動けたのか?


 エメレアは俺がクレハを呼ぶ為に身体を(ひるがえ)すと、その動きに合わせて、シュッ──と半円を描くような感じで素早く移動し、回り込んでくる。


 まあ、流石にエルルカ程では無いが……さっきまで屍の如く動かなかった奴の動きとは思えんな。


 するとエメレアは悪魔のようなエルフの笑顔で……


「ユキマサ……どこに行くつもりかしら? ここから先は……クレハの部屋……一歩たりとも通さないわよ?」


 鋭く、冷たく、そして尚且つ、怒気の含んだ声音でそんな台詞を言い放ちながら……エメレアは、クレハの部屋を背にして、俺の前に立ち塞がるのだった──。




 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!

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