第17話 クレハ・アートハイム
昔、寝る前にお母さんがよく絵本を読んでくれた。
それは、何処にでもあるような、お伽噺で──
悪い魔王に拐われたお姫様を、突然現れた勇者様が、その魔王を倒して助け出してくれて、お姫様がその勇者様に恋をして、そしてその勇者様と結婚して、幸せになるお話だったり。
〝魔法の鏡〟を持っていた、何処かの国のお姫様が、毒の入ったリンゴを食べてしまい、一度は息絶えてしまうけど、それを憧れの王子様に救われるお話だったり。
いじめられていた女の子が〝魔法使い〟に貰った、綺麗なドレスやカボチャの竜車で、素敵な王子様に会い行って恋をする物語など様々だった。
小さい頃の私は、寝る前にそうやって本を読んでもらったり、お母さんやお父さん──そして、お婆ちゃんとお話するのが、私は大好きだった。
『──ねぇ、お母さん、恋ってなぁに?』
『そうね。まだ、クレハには難しいかしら? でも、とっても素敵なことよ』
『お母さんは、お父さんに恋をしたの?』
『そうよ。お母さんはお父さんに。それとお婆ちゃんはお爺ちゃんに恋をしたのよ』
『お母さんはお父さんのどこが好きなの?』
『優しい所や、思いやりのある所や、その他にも全部よ。それにお婆ちゃんも、クレハが生まれる前に亡くなってしまった、お爺ちゃんの優しくてカッコいい所とか、全部が大好きだったのよ!』
『いいなぁ! 私も恋ってできるかな?』
『勿論! クレハなら、きっと素敵な人が見つかるわ! でもね、恋はしたいからするんじゃないのよ?』
『どうゆうこと?』
『恋はね、探すんじゃなくて見つかるの──いつの間にかその人の事を好きになってるのよ? 何かこう……ビビッと! そう、ビビッと来るのよ!』
『び、ビビッと!?』
『そうよ。それは会ったその瞬間かもしれないし、会ってから少しずつ好きになっていって、気づいたら恋をしてるかもしれないわ。それは人それぞれね』
『む、難しい話? でも、いつか私にも好きな人ができたらいいな』
『あと、ちゃんと見極めなきゃダメよ! 恋は生涯で1人だけ! 人生と同じで1人1回までなのよ! これは本当に幸せになるお母さんの秘訣よ──例え50年でも、100年かかっても良いから、クレハが一番に大切な人で、クレハを一番に大切にしてくれる人を見つけなさい! そんな人が見つかるまでは、恋は憧れるだけで十分よ』
『うん! それは分かったけど……でも、一番大切な人って事は、お母さんやお父さんや、お婆ちゃんよりもってこと?』
『そうよ。じゃなきゃ恋じゃないわ』
『うーん。何か急に見つかる気が無くなって来ちゃったな……わふッ!』
──私は、突然勢いよく抱きついてきた、お母さんによって声を遮られた。
『あ~。もぉ! 可愛すぎよ~! 流石私の娘ね!』
『く、苦しいよ……お母さん』
『ふっふっふ! まだまだ本気じゃないわよ。私のプリティキュートな娘への〝母親スキンシップ〟のフルコースは始まったばかりなのよ!!』
すりすり、なでなで、ぎゅッ、もふもふ、ぷにぷに、クンカクンカ、むぎゅ~っと、される私──
『もぉ! 嬉しいけど限度があるよ。死んじゃう!』
ぷはッ! と何とか私は〝母親スキンシップ〟なる、フルコースから抜け出す。
『あら、ごめんなさい。お母さん、少しはしゃぎ過ぎちゃったわ』
『本当だよ。でも……嫌ってわけじゃ無かったよ』
『………ハッ! 危ない危ない、落ち着け私……娘をハグ殺してしまう所だったわ……』
『それは本当に落ち着いて。というか、ハグ殺すって何?』
『とにかく、恋を見つけるのは焦らなくていいのよ! でも『ああ、この人だッ!』って分かったら本気で頑張るのよ! 後、それとね──』
*
……んッ……z……何か凄く……温かい……z……それに……何だか……凄く懐かしい夢を見てた気がする……
(──夢!? ユキマサ君! お婆ちゃん!)
私は昨日の事を思い出し、一気に目を開けるが……
「……ふ……ぇ……ッ……///」
気づくと、私は──今まさに、探そうとしていた、ユキマサ君の胴体に、思いっきり抱きついていた。
ななななッ何で!! こんなことに……///
それに、何か温かいなと思ったら、抱きついてる私を更に包むように、ユキマサ君の腕が私の身体を抱き締めている。
(ど、どうしよう……と、取り敢えず、退かなきゃ……)
そして良く見ると、ベッドを半分こして、私が左半分で、ユキマサ君が右半分って言ったのに……
──今、私はベッドの右半分の場所にいる。
これ、私から抱きついたことになっちゃうよね?
(あ、でも……もう少しだけこうしてたい……かも……)
──って待って待って待って!
何を考えてるの私! ユキマサ君と、まだそういう関係じゃないしダメだよ!!
私は昔、お母さんに言われた
『〝ああ、この人だッ!〟って分かったら本気で頑張るのよ!! 後、それとね──』
という言葉を思い出すが……
「──ッ……///」
ちょ、ちょっと待った!!
それに恋とかまだよく分からないし!
でも……ビビッと来たか? って、聞かれたら……
(──多分……来た……かな……うん……)
そ、それでも……!
ま、まだ恋と確実に決まったわけじゃ……///
あ、ダメ、何かよく分からないけど身体が悶える
でも、嫌じゃない。けど、何か凄くもどかしい!
な、何? 何なのこれッ……!?
──でも、これだけは分かる。
もし、これがそういう気持ちで……所謂、そういう関係……私の大切な人達──お母さんやお父さん、お婆ちゃんやエメレアちゃん、ミリアやシスティアお姉ちゃんを越える……
私の人生で一番の大切な人になってくれる人。
もし、そんな人が私にもできるなら……
そんな相手は……
私は、ユキマサ君がいいな──
そ、その……絶対……!!
──って、待って待って! だから待って?
こういうのは、じっくり、しっくり、しっぽりと考えなきゃダメな事なのッ!!
わーわー! と、私の頭が結構大パニック!
(落ち着け……私……深呼吸だ……すぅ~。はぁ~)
「──!!」
ここで、私は重大なミスに漸く気づく。
今、私は寝てるユキマサ君の胴体に抱きつき、ユキマサ君の腕に抱き締められている。
そこで、深呼吸をすると、どうなるのか?
答えは簡単……
──ユキマサ君の匂いがする。
しかも、寝てる異性の匂いを
『すぅ~。はぁ~。』と嗅ぐ形で……。
これでは、ただの変態だ……
は、早く、退かなければ……!
(あ、でも、この匂い好きかも? 凄く落ち着く……)
て、そうじゃなくて! 早く退かないと!
寝てる男の子に抱きついて、深呼吸をするように匂い嗅いでる何て……変態だと思われちゃうよ!
あ、でも、後……少し……もうちょっとだけ……
せめて、ユキマサ君が起きるまで……
そ、それに、ユキマサ君の腕に抱き締められて、動けないんだから……
わ、私だけが悪いわけじゃ無いし……
(それに……やっぱり、すごく温かい……)
そんな事を考えていると、何だが、うとうと……としてきてしまい……私は不覚にも、普段はまずしない筈の二度寝をこのタイミングでしてしまうのだった──。
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