第178話 過去編・花蓮ノ子守唄9
学校に着くとドラマのワンシーンのような、転校生が来たの自己紹介が始まる──
「今日から転校生が来るぞ」
担任の教師がこれまたドラマのような台詞を吐くと、教室の扉から理沙が入ってきたので、俺は小さく手を振る。
「転校してきた、花蓮理沙です。よろしくお願いします」
クラスからは「うぉぉ、転校生だ」「初めて見た」とか、感想が上がっている。
「席は稗月の隣だ、分からないことがあれば稗月に聞くように」
とのことだ。
「よう、転校生?」
「ユキマサまで、やめてよ」
「悪い、悪い」
*
転校生と言うものは、転校初日は大いに人気者だ。理沙もその例外じゃないらしく先程の休み時間から、クラスの女子達に質問攻めを食らっている。
「え? 稗月君の家に住んでるの?」
「理沙ちゃん、髪キレー」
「うん、住まわせてもらってるよ」
「ねぇねぇ、実際どうなの稗月君て?」
「え? どうって?」
「だって、あの人〝学校の伝説〟じゃん──昼休み寝ぼけて校庭割ったり、校長先生の車に轢かれたけど車の方が損害大きかったり、素手で電柱壊したり、近道とか言って遠足の山の頂上から飛び降りたりとか……」
「あのバカ、何してるの!?」
「そのくせ、テストいつも満点だし、訳が分からないよ」
「ごめん、それは私も分からない」
……さっきから話し聞こえてんだよな。
まあ、俺の馬鹿話で理沙がクラスに溶け込めるなら安いもんだが……
*
──理沙が来て、一年が過ぎた。
何か長いようであっという間の時間だった。
「──そうです。本当に怖いのは人間だったのです」
母さんが理沙に絵本を読んでいる。
つーか、何の絵本だ? それ?
「……人間……怖い……」
ほらみろっ!?
理沙が人間に恐怖を覚えたじゃねぇか!
「母さん、なんつー絵本読んでるんだよ?」
「これはね〝人間怖い〟よ」
そのまんまかよ!
つーか、作者を出せ! 作者を!
「おかーさんの絵本はリアリティがあるよね」
「ふふ、ありがとう、書いた甲斐があるわ」
作者、母さんかよ……
「おーい、吹雪、店番代わってくれ」
「あ、はーい」
「おかーさん、私も手伝う!」
むぎゅっと母さんに抱きつく理沙。
ここ最近でわかったが、理沙は母さんと婆ちゃんにハグ癖がある。まあ、母さんも婆ちゃんも大歓迎みたいだから別にいいけど。
「あら、ありがとう、助かるわ」
「……と、ユキマサはこっちな?」
「あ、おい親父、引っ張るな!」
と、店番チームと仕込みチームに別れていく。
「そういや親父、今日は爺ちゃんと婆ちゃんは旅行だっけか?」
爺ちゃんと婆ちゃんは年に一度、こうして夫婦水入らずで旅行に行く。
「ああ、だから店番の人手がが足りなくて困ってたんだぞ? 客もこんな日に限ってわんさか来るしよ」
「嬉しい悲鳴じゃねぇか」
「まあな、あと、どら焼きが売り切れそうだから、仕込みはそこ優先な」
「了解」
意外に仕事には真面目な親父だ。
*
「あ~、売った、売った! 完売だ!」
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
「お疲れ」
本日分の和菓子、完売である。嬉しそうに親父が伸びをしながら、ぷはぁと口を開く。
それに続き、母さん、理沙、俺がお疲れと言う。
「なあ、吹雪、今日は外に何か食べに行かねぇか? 行きつけの美味い屋台の店があるんだ」
「あら、いいわね。賛成よ」
「理沙もユキマサもそれでいいかい?」
「うん」
「俺もだ」
ということで、俺達は店を閉めた後、ドラマであるような屋台の店へ足を運ぶ──
*
「よっ、女将、いつもの頼むぜ?」
暖簾をくぐると開口一番に親父が言う。
如何にも常連と言ったドヤ顔で。
「ごめんね、今日は売り切れだよ」
出鼻を挫かれるとはまさにこの事だろう。
後ろでは母さんと理沙が笑いを堪えている。
「そ、そんな……たまにゃ、俺にも親父の粋でカッコいい所を嫁や娘や息子に見させてくれよ……」
「他の物ならあるからそれで我慢しとくれよ」
ぐぅの音も出ない、正論の返しである。
「さ、理沙ちゃん、お間抜けさんは放っておいて座りましょ」
屋台に10席ぐらいの椅子がある、この店は規模は小さいながらも、何処か落ち着く雰囲気の店だ。
「あー、親父、元気出せよ?」
「おうよ、ったりめーだ!」
もつ煮にホッケ、キャベツの塩揉みや焼き鳥、そんなザ・酒のつまみなメニューだったが母さんも理沙も気に入ったようで、大満足でそれらを食べていた。
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