第16話 お泊まり4
「……えっと……え……か……神様……女神様……!? え……アルテナ様……というか……異世界って……!?」
流石にまだ話についていけて無い様子だ。
〝何処から来たの?〟って聞いたら……
〝神様に呼ばれて異世界から来たんだよ〟って言われて一体どれぐらいの人間が信じてくれるだろうか?
まあ、この世界では神様ってのが、そもそもどんな扱いなのか、俺にはよく分からないんだけどな……?
意外と神様の存在が証明されてたり、
『あ、異世界人? 私の友達にもいるよ?』
とか言われても、俺はもう驚かないぞ。
少なくとも〝元いた世界〟で同じ発言をしたら〝そういう病気〟だとか……頭が残念ながら、ぽっくりと逝ってしまった人だとか思われるのが殆どだろう。
「本人は『職業は神様です♪』とか言ってたぞ? まあ、神様ってのが職業なのかは俺は知らないが」
神様が職業なのか、種族なのかは別にどうでもいいけど……アルテナは間違いなく本物の神様だろうな。
──証拠は、俺が今ここに居ること自体が証拠だ。
だが、残念ながら、この世界の人間に俺がこの世界からみて、異世界から来たという証拠は無い。
クレハは深く深呼吸をして息を整えると……
「えーと。1個ずつ聞いてくね? ユキマサ君、その神様……女神様ってどんな感じだった?」
「見た目の話か? 雰囲気の話か?」
「できれば、どっちも聞かせてほしいかな」
あらかじめ『嘘じゃないからな。ふざけてもないぞ?』と言って置いたおかげなのか……
それともクレハの性格故かは分からないが、クレハは真面目に話を聞いてくれている。
でも、恐らく理由はどっちもだろう。
「見た目は長い銀髪の20代ぐらいの女性で、喋り方は丁寧だが全体的にふわふわしていた。性格は凄く優しかったな──それと実際に会って感じた事は……アルテナは気配だの存在感だの、そう言った物の感覚が、他の生物と比べると完全に格が違った。少なくとも人間じゃないのは確かだ。じゃあ、何なのか? と聞かれたら、これは個人的な感想になるが、本人が言うように──神様って言葉がしっくりくる感じだったよ」
これが俺のアルテナへの嘘偽りの無い印象だ。
後は、超が付く程の美人だなとかだな……うん。
「じゃ、じゃあ、次、異世界ってどんな所だった?」
俺の話を真剣に聞きながら、クレハは次に異世界はどんな所だったからを聞いてくる。
これは予想していた。まあ、聞かれるよな……
俺でも〝異世界から来た!〟って言う奴がいれば、その世界はどんな所だったかを聞くと思う。
「まず……〝魔法〟も〝魔力〟も基本的に無い世界だ──〝魔法〟の代わりに〝科学〟というものが発達してる。それにエルフや亜人は存在しなくて、人類は人間しかいない。ちなみに魔物も魔獣も魔王もいない」
「え、魔力も魔法もないの!?」
これにクレハはとても驚いている。
この世界だと、魔力や魔法は当たり前らしいからな。
「ああ、基本的に魔力や魔法の無い世界だ。まあ、俺はさっきの〝回復魔法〟とかは少し使えたが……」
「つくづく、ユキマサ君は規格外だね……」
「それについてはアルテナにも驚かれたよ」
アルテナには『チートです♪』とか言われたが……でも、アルテナ的には誉めてくれたらしいし、これも誉め言葉として受け取っておいて問題は無いだろう。
するとクレハは大きく「ふはぁ~」と息を吐いて
ベッドに思いっきりバタリと力を抜き寝転がり……
「な、何か、一気にとんでもない事を聞いたせいで、身体の力抜けちゃったよ……」
と、脱力しながらクレハはこちらを見てくる。
「言っておいて何だが、我ながら結構信じられないような事を言ってると思うぞ?」
本当に信じてくれたのか?
「でも、嘘じゃないんでしょ?」
「嘘じゃない」
俺は即答する。だって嘘じゃないしな。
「じゃあ。信じるよ」
んな、あっさり……?
「確かに信じられないような話だけど、ユキマサ君が嘘ついてるように思えないし」
その信頼はどこから来てるんだろうな。
勿論悪い気はしないし、むしろ嬉しいので……
「ありがとう」
と言っておくが──でも、こんなにあっさりと、信じてくれるとは思わなかったな。
クレハも、副ギルドマスターのフォルタニアの嘘が分かるスキル〝審判〟みたいなスキルでも持ってるのか? と、疑いたくなるぐらい簡単に信じてくれた。
「というか、その神様、アルテナ様にユキマサ君が呼ばれたのは何で? っていうか、どういう事なの?」
ああ、確かにそこをまだ伝えてなかったな?
「頼まれたんだよ──『取り敢えず異世界に行って魔王を倒して来てくれ』ってな?」
そういや魔王は3人いるらしいな?
(てか、魔王が3人て何なんだよ!)
元は4人いたらしいし〝あいつは魔王の中でも最弱〟とか、後々〝実は魔王は5人いる〟とかお約束な展開とか無いだろうな? ……流石に無いか。
「魔王を……」
「何だ、どうした?」
クレハは少し起き上がり、口数が少なくなる。
「ユキマサ君、覚えてる? 竜車で、7年前に〝魔王戦争〟があったってチラッと言ったよね?」
勿論覚えてる。俺的には凄く重要な、魔王が3人いるとかの情報をサラリと言われたわけだからな……
「ああ。確か魔王は4人いて……その内の1人がその〝魔王戦争〟で倒されて今は3人なのもな?」
「その時の〝魔王戦争〟でね。私を逃がす為にお父さんとお母さんが魔王軍と戦って死んじゃったんだ……」
「──ッ……!?」
これには、流石に俺も返す言葉がすぐには見つからなかった。
「その時ね……お父さんとお母さんが泣きじゃくる私に『私達が絶対に守るから、大丈夫だから、クレハはこれからもしっかり生きて』って言ってくれて──」
クレハの声は少しずつ……涙声になっていく……
「怖くて、怖くて、いつまでも、ずっと泣き止まない私の為に……あんな大変な状況なのに……2人していつもみたいに私の大好きな笑顔で笑って……私の事を『大好き!』って言って、最後に抱き締めて、宥めてくれて──そこから、私を逃がしてくれたんだ……」
そして『それが私が最後に見た、生きてるお父さんとお母さんの姿だったんだ……』とクレハは話す。
やっと泣き止んだと思ったクレハが、またもや目に涙を浮かべている目の前の姿に、俺はまだ何も声をかける事ができていない。
「ごめんね……泣いてばかりで……」
涙を手で拭いながらクレハが謝ってくる。
俺はそんなクレハの頭にそっと手を置き──
「言った筈だ。俺には変な気を使わなくていい。泣きたければ泣けばいいし、笑いたければ笑えばいい」
こんな事しか言えないが、
せめて、こんな事だけでもと俺はそう伝える。
するとクレハは、こつん……と頭を俺の胸に当て
「じゃあ……少しだけ……このままでいさせて……」
と、俺に体重を預けてくる。
「分かった」
クレハは優しいな──〝誰かの為に本気で泣ける〟って言うのは本当に優しい奴じゃなきゃできない。
例え実の親が死んでも涙の1つも流せず……
〝悲しいのか?〟〝辛いのか?〟〝それとも自分が怒っているのか?〟──それすらの感情もよく分からなかった、馬鹿みたいなどうしようも無い奴もいる。
「ユキマサ君……」
ギュッと俺の服を握り話しかけてくる
「何だ?」
「もう少し……このままでもいい……?」
「だから、変な気を使うな。好きなだけ居ろ」
「……うん……居る……」
そう言いながらクレハは更にギュッと服を握る。
俺はクレハの頭に置いた自分の手を眺めながら……
確かこういうのも回復魔法じゃ治せなかったな。
まだあったな、俺の回復魔法で治せないもの。
そんな事を思いながら俺は……
頭に置いた手でクレハの頭を優しく撫でる。
これは昔小さい頃に『人はね、誰かに優しく頭を撫でて貰うと元気になるのよ』と婆ちゃんに教わった〝元いた世界〟の不思議なおまじないだ──。
*
──数分の間、お互いそのまま無言の状態でいた。
すると嗚咽も収まってきたクレハが口を開く。
「わ、私ね……騎士隊に入ったのは、自分自身が強くなりたかったからなんだ。それに隊にはシスティアお姉ちゃ……隊長もいてくれたしね……」
少し落ち着きを取り戻したクレハが、まだ俺の胸に頭を埋めながらゆっくりと話をしてくれる。
「クレハは強くなって、どうしたいんだ?」
魔王軍に家族を殺され、魔王や魔族を憎み、殺す為。それとも強くなり騎士として誰かを守りたいだとか、何か明確な目標でもあるのだろうか?
「私は強くなって皆と一緒にいたい! お婆ちゃんやエメレアちゃんと、ミリアとシスティアお姉ちゃんと! 私の大切な人達と私はずっと一緒にいたい!」
(……なるほど……クレハらしいな……)
「なら、しっかり生きなきゃな?」
昔、俺が親父に言われた『胸張って生きろよ』って言葉の意味とクレハの両親の言った『しっかり生きて』って言葉は、言葉は違えど意味は同じな気がする。
──平たく言ってしまえば……
〝自分を誇れるように生きなさい〟
……って、事だろうか?
それが正解なのかは分からない。
それにこの問題の答え合わせの機会はもう無い。
「うん。私はしっかり生きるよ! お父さんとお母さんが守ってくれた命だもん! 当たり前だよ!」
さっきよりは少し元気が出てきた様子のクレハ。
昔、婆ちゃんに聞いた〝不思議なおまじない〟が少しは効いたか?
その婆ちゃんも、8年前に糞爺と家を出ていった後は元気なのだろうか? 正直かなり心配だ。
生まれつき身体が弱く、8年前の時点でかなり衰弱していた。糞爺と出ていった時も婆ちゃんの意思でなく、糞爺が連れて行くような形だったからな。
「──そうだな。魔王は俺がちゃんと倒しとくから、クレハはしっかり生きてろ?」
まあ、魔王の件はアルテナにも頼まれてるしな。
「ユキマサ君もだよ! 私はもう何もできず大切な人が居なくなるのは嫌だよ。確かにお父さんやお母さんが守ってくれたのは凄く感謝してるけど──それと同じぐらい、残された人の気持ちも考えないで、先に死んじゃった事に私は怒ってるんだから!!」
(──ッ……!!)
俺はそのクレハの言葉が胸に刺さった気がした。
──あの日……俺の両親が亡くなった時……
その時に俺もそんな風に怒っていたのだろうか?
ふと、そんな感情が胸をよぎる。
……分からない。
ただ……頭が真っ白になった事だけは覚えてる。
でも、理沙の奴は俺に物凄く怒っていた。
あの時は本気で叩かれたな……パーで。
(痛かったな……あれ……)
俺は理沙には毎回よく怒られていたが……
あんなに悲し気に、本気で怒った理沙の姿を見たのは、後にも先にもあの両親の葬式の日だけだ。
「──俺は簡単に死なないから安心しろ? 俺はこう見えて結構しぶといぞ?」
「そ、それは知ってるけど。それとこれとはまた違うの! とにかくユキマサ君もいなくなったりしたら絶対に嫌だからね!」
「分かったよ。ありがとう……」
もし俺が死んだらアルテナの所にいくのかな?
まさか、最後にアルテナが言っていた『また絶対お会いしましょうね! 約束ですよ♪』──って、死んだらまたここで会おうとか……そういう意味じゃないよな? 流石に無いか? 無いよな……?
「あ、あと、ユキマサ君の名前ちゃんと教えて?」
「名前? ああ、フルネームか」
「うん。ダメかな?」
「いや全く。稗月倖真だ。名前が倖真で姓が稗月だ」
異世界だとややこしいかなと思って、名字は省いてユキマサで名乗ってたからな。
それにユキマサだけでも、異世界にユキマサ何て同じ名前の人がいるとは思わないしな。
「稗月倖真……うん、分かった。覚えたよ。あ、でも、これからも、ユキマサ君て呼ぶからね? その方が呼びやすいし……!」
「ああ、それでいい」
今さらクレハに稗月君なんて呼ばれても、何か距離ができた気がするしな。
「そろそろ、寝るか?」
話しも一段落した所だし、結構時間も遅くなってきた。俺もまだ聞きたいことはあるが……
それは明日でもいいか。クレハも疲れてるだろうしな……それにそれ聞き始めると長くなりそうだからな。日が暮れるどころか、日が昇っちまう。
「私はもう少し起きてたいかも……」
「どうした? 疲れてないのか?」
「流石に少し疲れてるかな。今日は本当に色んな事があったし。それに何か──寝て起きたら実は〝今日の事は全部夢でした〟とかなったら嫌だなって……」
「なるほど。面白いこと言うな?」
真剣な顔でそんな事を言うクレハを、俺は微笑ましく思い……つい自然と笑ってしまう。
「もぉ……笑わないでよ。だって、驚く事ばかりだったんだもん……夢って言われた方が納得するぐらいだよ」
クレハは少し顔を赤くし拗ねたように言う。
まあ、気持ちは分かる。
俺も起きたら、いつも通り、普通に孤児院のベッドで、神様も異世界も何もかも全部が夢で……
実は神も異世界も全部が無かった──とか、
もしそうなったら……俺も結構ヘコむだろうな。
多分、わりと本気で……。
そう考えると……随分、もうこの世界に情が湧くような感じがあるな。まだ、異世界初日なのにな?
「目が覚めたら……ユキマサ君も居なくて。お婆ちゃんの病気も治って無くて。今日の事は全部夢でした何て事になったら本当に嫌だよ。後……せっかく──」
「せっかく?」
「ううん。秘密。でも、悪いことじゃないよ」
クレハは少しイタズラっぽく言う。
「──ねぇ、ユキマサ君、夢じゃ……無いよね?」
クレハは寝転がりながら、不安そうに、そして凄く寂し気に、俺を真っ直ぐに見ながら真剣に聞いてくる。
「夢じゃない。それは俺が保証する。それにもしこれがクレハの夢の中なら、俺が正夢にでも何でもしてやる。そしたら、また、おにぎり貰いに行くからちゃんと準備しておけよ?」
実は人の夢を正夢にする方法は知らないんだが……でも、これは確実に夢では無いので、俺はそんな事までも口にしてしまう。
「うん、それなら、それなら絶対に大丈夫だね!」
頬を赤くしながら、クレハは嬉しそうにこの時間を噛み締めるように、強く頷きながら優しく微笑む。
「ああ、任せておけ」
あ、でも。これが夢じゃなくても……
クレハのおにぎりは出来ればまた食べたいな?
「じゃあ、寝ようかな? ユキマサ君も寝るよね?」
「クレハが寝るなら寝るし、寝ないなら寝ない」
宿主より早く寝るってのも何となく寝づらいしな。
「じゃあ、私が寝るまでは起きててね?」
と、クレハは掛け布団を被り直しながら、まるで──小さな子供が、電気を消した後の、暗い部屋に怯える時に言うような台詞を言って来る。
でも、俺はその言葉や仕草のひとつひとつが可愛いなと思ってしまう──てか、クレハは元々が超が付く程の美少女だから、基本何やっても可愛いんだよな……
「分かったよ。おやすみ、クレハ」
「うん。お休みなさい、ユキマサ君」
するとクレハは少し名残惜しそうに……
でも、安心した顔でゆっくりと目を閉じる。
目を閉じると、すぐにクレハは可愛らしい寝息を立てながら、今度は本物の夢の中へと入っていく──
──やっぱり疲れてたんだな。
あれだけ泣けば、泣き疲れもありそうだが。
念の為、ちゃんと寝てるか、再度確認すると……
クレハは安心した表情で、それにドキッとする程の可愛い寝顔で、すやすやと寝ている。
それを確認した俺はクレハの隣で目を閉じると……
すぐに馬鹿みたいに猛烈な眠気が襲ってくる。
(それに何だ、何故か凄く……心が落ち着つく……z……それに、隣から、何だか、いい匂いが……して……あと凄く温かいな……Z……z……z……)
睡魔で意識が遠退いて行く中で、寝落ちする寸前に俺はそんな事を感じながら……異世界初日の夜はこうして更けていくのだった──。
★★★★★★作者からのお願い★★★★★★
作品を読んで下さり本当にありがとうございます!
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★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!
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