第143話 嵐の前の
翌日、俺はノアに言われた通り、
──〝大都市エルクステン〟にいた。
とはいえ、手持ち無沙汰でもあったので、ノアのいる〝聖教会〟に顔でも出すかと考え、この〝大都市エルクステン〟にある、ギルドに次いで、豪華で大きな建物──〝聖教会の大聖堂〟の近くまで行ったのだが、警備が結構ガチガチだったのでやめといた。
今変に騒ぎを起こしても、ノアにも悪いしな。
と、言うわけで、更に暇になった俺は町を軽くブラついた後、料理屋〝ハラゴシラエ〟に、昼食を取りに来ていた。
(〝大都市エルクステン〟に居てと言われた以上、街の外に出る、ギルドの依頼も受けらんないしな──)
「あ、ユキマサさんです! いらっしゃいませ!」
店に入るなり、元気に声をかけてくれたのは、金髪ショートの髪の、店の従業員である給仕服姿のアトラだ。その右肩には鳩のハトラが乗っている。
「よう、昨日の孤児院の件、ありがとな」
「いえいえ、みなさん大喜びでしたよ!」
「そうか、それならよかった──で、昼飯を食いに来たんだが、いいか?」
と、店を見渡すと、昼時だからだろうか、普通に混んでいる。だが、昼間だというのに、やたら酒を飲んでる奴が多い。
「はい、では、こちらへどうぞ!」
アトラに一席だけ空いていたテーブルに案内され、俺はそこに座り、昼飯の注文を考える。
「そうだ、アトラ、何かオススメはあるか? できれば肉以外で頼む」
「お肉以外でオススメですか? そうですね、私は今パスタとクラムチャウダーが食べたいです!」
「どんなオススメだよ?」
オススメじゃなくて、お前の気分じゃん。
「まあいい、せっかくだそれで頼む」
と、この世界にもあった、パスタとクラムチャウダーを頼む。
「はい、かしこまりました!」
パタパタと店の奥へと駆けて行くアトラ。
そして注文を通した後、アトラはお冷やを持ってきてくれた。
「ユキマサさん、お冷やです。それにしても今日はお一人ですか? 珍しいですね!」
「そうか? 別に珍しくは無いぞ?」
「何か、いつも女性と一緒のイメージなので!」
「いや、何でだよ?」
全く悪気の無い、天然のアトラに俺は突っ込む。
大体俺はこの世界に来てから、まだ6日だ──
「クレハさんに始まり、エメレアさん達や、フィップさんに、アリスちゃん王女様、それとエルルカさんとか──何かユキマサさんの周りには美人な方がたくさんなので! あ、私もカウントしていいですか!」
「勝手にしろ……」
「ほんとですか!! やったーー!!」
割りと本気でアトラは喜ぶ。
「ちなみに何だが、今日は何の日か知ってるか?」
俺はこの天然娘に『今日は何の日』か尋ねてみる。
「え? 66日ごとの魔王の変わる日ですか?」
「……正解だ……」
キョトンとした顔であっさりと答えられた。
「ユキマサさん、もしかして私のことからかってますか? 私だってそれぐらいは知ってますよ!!」
「悪い、悪い──にしても、今日は道もギルドも、この店の中でさえ、空気がピリついてるな?」
朝からギルドの騎士隊に出勤しているクレハも言っていたが、今日はどこもかしこも皆、嫌に緊張し、静かにピリついている。
「そうですね、魔王の変わり目は色々とバタバタしますから。まあ、お店的には昼間から利益率の高いお酒類の注文が沢山あるので、ありがたい面もありますけど、やっぱりこの世界で生きてる以上は、魔王の恐怖とはいつでも隣り合わせなので、とても怖いです……」
いつも明るいアトラの表情が暗くなる。
そんなアトラを見て、鳩のハトラがパタパタと翼でアトラを優しく叩き、励まそうとしている。
「──お待たせしました! パスタとクラムチャウダーです!」
すると、亜人のウェイトレス姿の店員が注文した料理を何故か2つずつとお冷やをもう1つ運んでくる。
「あ、フウラちゃんです! お疲れさま!」
「アトラ、休憩中だからって、ユキマサさんにあまり迷惑かけるんじゃないって女将さんが言ってたわよ」
「お前休憩中だったのか?」
「はい、あ、相席いいですか? 私もお昼です」
俺の返事を待たず、アトラはエプロンを外す。
「まあ、俺は構わないが」
相変わらず、自由だな。アトラは。
「ありがとうございます! いただきまーす!」
「いただきます」
アトラに続き、俺も食事を始める。
(うん、美味いな!)
「ユキマサさん、味はどうですか?」
「美味いぞ、他の店より全然」
〝元いた世界〟のそこら辺のファミレスとかより全然上手い。これは恐らく牛乳と塩の品質が高いんだろう。コクがあり、程よい塩分の中に甘味がある。
勿論、これらは店主の料理の腕があってこそだ。
「よかった、何だか私も嬉しいです!」
そう言いアトラもクラムチャウダーを口に運ぶと「ん~いつ食べても美味しいです!」と満点回答だ。
──その後もアトラと他愛ない話をし、食事を終え、会計を済ませて店を出る。
ちなみに会計の時に出てきた女将さんには、また「お代はいらないよ」と言われたが、今日は大猪の肉を安く卸したわけでも無いので、きっちりとお代は払ってきた。
店を出てギルドに行くと、ギルドの中は空いていた。パッと見だが、いつもはわんさかいる冒険者の姿が見えない。
今要るのは、ギルドの職員と騎士隊員ぐらいだ。
「──ユキマサ様、こちらにいらしたのですね」
不意に背後から話しかけられる。
凛としている、聞き取りやすい綺麗な声だ。
「フォルタニアか──今日は何処も静かだがピリついてるな? 嫌な静けさだ。そーいや、噂のギルドの騎士隊長達はここにいるのか?」
これはエメレアが言っていた、万が一の為に、このギルドの騎士隊長──8名は大忙しらしい。
「エルフの国〝シルフディート〟に向かった第4騎士隊と〝中央連合王国アルカディア〟に向かった第5騎士隊以外は、もう城壁の上で配置に付いてますよ」
(城壁の上? そんな所にいるのか、まあ街のド真ん中よりは、敵襲には対処しやすいか)
「それにもう始まりますよ、あと数分です」
時刻は昼過ぎ、随分と半端な時間だ。
──そして時はやって来る。
ギルドの外から、空を見上げてると──空が光る。
昼間だと言うのにピカリと光るのが分かった。
透明な結界のような物が、どこまでも伸びて、その光が世界を包み込み、約1~2分の間、光った後、元の空に戻る。不思議な現象だ。
これが1000年も前の人物の仕業だと考えると、どれほど〝天聖〟という人物が規格外か分かるな。
その光が消えて、すぐのことだ──
「──ッ!? おい、何だあれは!」
空に3つの赤い玉が、この街に向かい落ちてくる!
──いや、ただの玉じゃない、これは隕石だ!!
(ここからの距離からでも、かなり大きく見える──ってことは、あの隕石の幅は数百mはあるぞ!?)
ノアの神託で言っていた、赤い石か──
その正体はこの隕石だったのか!
不味い、あんな物が3つも直撃したら、この街どころか周辺の街も山も、全部巻き込んで吹き飛ぶぞッ!
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