第134話 赤紙
──急ぎ〝大都市エルクステン〟に戻ると、俺とクレハ、そしてフィップはギルドに向かった。
ギルドに入ると、待ち構えていたかのように、直ぐに副ギルドマスターのフォルタニアが俺達を出迎えてくれたかと思えば「ユキマサ様、クレハさん、フィップ様──ロキとレヴィニア様達がお待ちです。よろしければ一度こちらにご足労願えますか?」と、ギルドマスター室に案内された。
話からするに、ドレスのお姫様──レヴィニア達は〝大都市エルクステン〟に無事に着けたみたいだな。
コンコン、コンコン!
「失礼します、ユキマサ様方がお見えです」
フォルタニアが部屋をノックし、中に居る人達に声をかける。
(……あんま、畏まられても入りづらいな……)
そう言いつつも入らざるを得ないので、俺とクレハとフィップは、フォルタニアが開けてくれたドアからギルドマスター室に入る。
そこにいた人物は思ったよりも多い。
まず、ロキとレヴィニア、それとメイドのイルザ。
まあ、ここは当然ながら予想していた。
そして、意外だったのは〝アーデルハイト王国〟のゴスロリお姫様のアリスと、執事長のジャン。そしてギルド第8騎士隊長……というか、システィアがいた。
「意外に知った顔ぶッ──!?」
異世界に来てまだ数日だが、意外ともう知り合いができて来たな──と、感じて思ったままに口に出そうとすると、その途中でバッ! っと、俺は抱きつかれる。
「ユキマサ、さっきは本当にありがとうっ! お陰でイルザも助かったわ、全部、全部あなたのお陰よ!」
半泣きで抱きついてきたのはレヴィニアだ。
「──、どういたしまして、お前もよく頑張ったな」
俺はそんなレヴィニアの背中をポンポンと叩く。
「ユキマサ様、私からも、どうお礼を申し上げればいいか──貴方には主と私の命を救われました」
床に両膝を吐き、ベタァと頭を下げ、土下座で俺に礼を言うイルザは、一向に頭をあげる気配は無い。
「いいから頭をあげろ、レヴィニアもそろそろ離れろ」
と、俺は土下座するメイドと、抱きつくお姫様に声をかける。
「……ユキマサ君?」
……後ろから冷たい視線と声が聞こえる。今さら聞き間違えようが無い、その視線と声の主はクレハだ。
「──レヴィニア様、確認が取れました」
よく響き聞き取りやすい、心地の良い声で、この場の注目を集めたのはフォルタニアだ。左手を左耳に添え、まるで何処かと通信しているような体制だ。
そして、その通信という言葉に心当たりがある。エメレアも使っていた〝精神疎通〟だ。話の素振りからも、何処かと連絡を取っていたのだろう。
「……フォルタニア……どう……だった?」
蚊の鳴くような、小さな声だ。
レヴィニアのその声は少なからず震えている。
たった今行った手術の結果でも聞くかのようだ。
「残念ながら赤紙です。たった今入った〝イリス皇国〟からの連絡だと、レヴィニア様とイルザ様以外の、今回出立した〝イリス皇国〟の方は全員、先の戦いで亡くなりました」
赤紙──これは聞いたな。恐らくは冒険者登録をした時にした、名前を書き、血判を押した〝特殊な紙〟のことだろう。
確か、血判を押した者が亡くなると、その紙が真っ赤に染め上がるだとか……ギルドでは一種の安否確認の一環として用いているとか言っていたな。
冒険者で無くとも〝イリス皇国〟の兵士達は皆、これを登録していたのだろう。そして今確認が取れた。
(その結果──赤紙。正直レヴィニアとイルザに会った時に予想はしていたが、他は全滅か……)
その言葉を聞いたレヴィニアは、バッ──
「……イシガキ……皆っ……」
俺の胸に顔を埋め、すすりを上げ泣いてしまう。
その身体は、長く冷たい雨にでも打たれたかのように、ぶるぶると震えている。
「イシガキ殿が……」
「……」
ここで初めて口を開いたのは〝アーデルハイト王国〟の執事長のジャンだ。様子からするに知り合いなのだろう。もしかしたらそれ以上の仲かも知れない。
そしてその横ではアリスが何も言わず、いつも持っている自身の背丈の半分はあるであろう、熊のぬいぐるみのリッチに、切なげに顔を埋めている。
「残念ですが、生存者が他にいない以上、遺体の捜索は日が昇ってから明日行います。レヴィニア様、イルザさん、その方針でよろしいですね?」
フォルタニアからの報告を受け、ロキが捜索の日程を明日にと確認を取る、生存者がいれば今からでも捜索をしたかも知れないが、生存者がいない以上……
無理に夜に探すのは危険と判断しての事だろう。
まだ俺に抱きつき泣いているレヴィニアは、ゆっくりと「……ええ」と呟き、イルザは「ご迷惑をお掛けします」とロキに頭を下げる。
「──ところで、ユキマサさん、その後〝魔族アルケラ〟は、どうなったかを教えては貰えますか?」
レヴィニアとイルザに「とんでもございませんよ」と返事を返すと、ロキは視線を俺に移し、真剣な目と声音で俺に問いかけてくるのだった──。
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