第130話 魔族3
「──おい、お姫様! メイドはどうなってる!」
「ユキマサ君、イルザさんの肺への空気は私が送ってるよ!」
そう答えたのは、ドレスのお姫様では無く、クレハだ。どうやら〝瞬間移動〟のスキルを応用し、イルザの肺に空気を送っているらしい。
俺も急ぎ、呼吸と脈を調べるが……
──ダメだ。
案の定、どちらも止まっている。
だが、まだだ──!!
心配停止から、脳死までは時間がある。心肺停止を生きてるとは言えないかもしれないが……
これだけは言える──まだ死んではいない!
心肺の停止が、先程のドレスのお姫様の叫び声からと仮定すれば──心肺停止からは、まだ1分弱だ。
まだ十分に間に合う筈だ。
だが、俺の〝回復魔法〟でも死人は生き返らない。
何を持って、明確に死と考えるかの定義は人によって、それぞれだが、今はイルザの脳死を死亡と考える事にする。後は時間との勝負だ。
ドンッ! と、俺がイルザの胸を叩くと、イルザの身体はバズンと波を打ったかのように跳ねる。
──ドクン。
心臓が動いた! すかさず俺は〝回復魔法〟を両手で使う、片方は胸部と肺付近、もう片方は頭部だ。
「ユキマサ君、だ、大丈夫!?」
「この状態からは初めてだ。文句は言うなよ」
慌てて俺に〝魔力回復薬〟を持ってきてくれたクレハには軽く目で返事をしながら、俺はドレスのお姫様にそう言う。
多分イケる。だが、状態が状態だ──
俺の〝回復魔法〟でも、100%では無い。
こくり。
その俺の言葉にドレスのお姫様は小さく頷き、心配そうにイルザを見ながら「お願い……お願い……」と震えながら何度も祈っている。
そのまま俺は〝回復魔法〟を使い続けると──
「う……お嬢……様……」
小さく言葉を放ちながら、イルザが目を開け、ゆっくりと起き上がる。
「イルザッ!!」
その姿を見た、ドレスのお姫様はイルザに飛び付く。
「れ、レヴィニアお嬢様……お、お怪我は!? それにあれは……アルケラはどうなったのですか!?」
「怪我の心配は貴方の方よ! ごめんね、イルザ、凄く凄く痛かったでしょう──私の為に、ごめんなさい、本当にごめんなさい……」
まだ記憶が混濁している様子のイルザと、泣きながら謝るドレスのお姫様。
「おい、お姫様、まだ治療中だ。気持ちは分からんでも無いが、今は離れろ」
まだ回復魔法を使っている俺は、軽くドレスのお姫様を注意する。
「あ、あなた方は確か……」
「俺がユキマサで、この黒髪の女の子がクレハだ。さっきの質問には俺が返すが、アルケラなら逃げた」
「に、逃げた!?」
「そうよ、この人スッゴく強かったのよ。あの魔族をコテンパンにしたんだから──!」
ドレスのお姫様が、イルザの気を失っていた間に起きた出来事をザックリと説明してくれる。
「ま、魔族を追い返せたのですかッ!? ……ですが、そうでも無いと、今の状況が説明できませんね」
「具合は大分よさそうだな──後は腕か」
ハッキリと意識が戻りつつあるイルザの様子を確認すると、俺は肩から先が無くなっているイルザの左腕部分に目をやる。
「千切れた腕があれば、繋げられましたが、その腕は無いので難しそうですね。お嬢様の命が無事なだけでも万々歳ですのに、私の命まで……本当に何とお礼を言えばいいのやら」
深々と頭を下げ始めるイルザに俺は「いいから、少しじっとしてろ」と、言いながら左肩に触れ〝回復魔法〟を使うが──腕一本生やさなきゃいけないのだ。
普通よりも〝回復魔法〟の濃度を高めるように、強さを強めながら「こんな感じか?」と、左肩からの先から無い腕を、まるであるかのように腕にそって、真っ直ぐに撫でるようにし〝回復魔法〟を使う。
俺がボワァっと、緑の光を纏いながら〝回復魔法〟を使い、肩からゆっくりと撫でた場所から、緑の光に包まれつつ──イルザの左腕が再生する。
「どうだ、感覚はあるか?」
「──ッ……え、ええ……嘘のように……」
イルザは再生した自分の左腕を、グー、パー、グー、パーと開いたり閉じたりしながら、目を見開く。
だが、イルザは瞬時に頭を切り替えた感じで、
「ユキマサ様、クレハ様──この度はレヴィニアお嬢様と、私の命をお救いくださり、本当に──」
とか、何とか礼を言ってくるが……
「礼を言われてる時間は無い。イルザと言ったな? お前、一人でドレスのお姫様を連れて〝エルクステン〟まで行けるか?」
「ハッ──この身に代えましても、必ず!」
「いや、心構えとか、そういう意味じゃ無いんだが……お前は無理なく動けるか? そう言う具体的な話だ」
「私の体調なら、お陰様で問題ありません。ここら辺の魔物でしたら、殆どは遅れも取らないかと、強いて言えば、危険が高いのは〝蛇熊〟ぐらいでしょうか」
蛇熊? ああ、さっき〝ドロップアイテム〟を拾い損ねたやつか。
あの程度なら、このメイドがいれば大丈夫だろう。
「そうか、なら急いで行け。俺はアルケラを追う」
「な……追うのですか!? だとしても、エルクステンからの援軍を待った方が……」
「必要ない、もう遅いぐらいだ。あと数秒で来るとかなら待つが──何分も、何時間も待っていたら行くだけ無駄だ」
「わ、私のせいですね……申し訳ありませ──」
「お前のせいじゃない。そこのドレスのお姫様に頼まれた俺の判断だ、勝手にお前のせいにするな」
「──、ですが……」
「とにかく、俺はアルケラを追う。お前達は無事に〝エルクステン〟へ向かえ、いいな? 後、悪いがクレハは俺の方に付いてきて貰う」
アルケラは最後に俺とクレハを見ていた。
それが何を意味するか……
恐らくは狙いを付けた。必ず殺すという。
そんな目だった。
俺は勿論のこと──最後に俺に〝頭部と心臓を破壊しなければならない〟という、魔族の殺し方を、俺に教えたクレハが気に食わなかったのだろう。
万が一、アルケラとクレハが遭遇した場合、アルケラ相手の戦いではクレハが勝つのは難しい。
だから、俺はこれから先──アルケラを殺すまでは、クレハの側から離れられない。
これはクレハを殺されたくないという、俺の我が儘だ。それに『魔族絡みの事にクレハを巻き込んで、取り逃がし、あと命狙われてます』なんてエメレアに言ってみろ? 俺が殺されかねん。割りとガチで。
だから、クレハには悪いが、アルケラを追うのには付いてきて貰う。
「う、うん、私は全然いいよ」
「悪いな、その代わり必ず守ってやる」
「え、あ、うん/// よ、よろしくお願いします///」
何故か、顔を赤らめるクレハ。
あれ? ちゃんと伝わってるか?
魔族を追いかけてトドメを刺すのに付いて来いっていう、結構中々に危ないこと言ってんだけどな?
……と、話も纏まった(?)ので、俺はクレハをお姫様抱っこで抱え、イルザはレヴィニアを右脇に抱えて、この場を離れる準備をする。
俺のお姫様抱っこ移動もあれだが、そのイルザのリアルお姫様であるレヴィニアを普通に脇に抱えるのはどうなんだ?
まあ、ドレスお姫様もお姫様で、特に異論無いみたいだし……イルザ達的にはあれが一番安全な体制なのだろう。安全第一、良いことだ。
「ユキマサ様、後日必ず何かお礼を致します──」
頭を下げるイルザに俺は軽く視線だけを交わし、俺はクレハを〝お姫様抱っこ〟し、イルザはお姫様を右脇に抱えるという〝リアルお姫様抱っこ〟で、端から見れば、結構シュールな絵面でこの場を後にする。
少なくとも、片方が魔族を追う絵では無いな。
──でも、俺は気を引き締め、頭部が割れ、心臓以外はズタボロとなっても、尚生きてるアルケラを仕留める為、その後を追う。
……つーか、それにしても皮肉なモンだ、あれだけ『人類の心臓、心臓』と騒いでおきながら、最後は自分の心臓を何よりも大事に守ってるんだからな。
少しは心臓の大切さが分かったか?
この野郎──
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