第12話 夕食と宿屋2
アトラにあげた為、空になったお冷やのお代わりを注文すると、お冷やはすぐに届いた。
そして俺はお冷やを飲みながら、引き続き、注文した大猪の肉料理をクレハと一緒に待っていると……
「──そういえば、ユキマサ君〝大猪〟っていつ倒してたの?」
向かいに座るクレハが質問をしてくる。
「クレハと湧き水の場所で別れた後に直ぐだが──あれって〝高級食材〟だったんだな?」
「〝大猪〟はお肉自体も凄く美味しいけど。滅多に人前に現れないからね。たまにギルドで〝狩猟依頼〟とかも見るけど、やっぱ中々見つからないんだよ?」
(あまり人前に現れないか……確かこの〝大猪〟はヒュドラから逃げてきた感じだったな──そのせいでたまたま取れたのか?)
「クレハは食べたことあるのか?」
「うん。小さい頃まだお母さんとお父さんが生きてた頃に、お婆ちゃんも一緒に食べに来た事があるよ」
「──、悪い。変なこと聞いたな」
少し寂しげに話すクレハに、俺は反射的に謝る。
「ううん、気にしないで。確かに、今でもお母さんやお父さんが死んじゃった事を思い出して、悲しいとか、辛いとか思う時もあるけど──それでも、私にとってこれは楽しくて大切な思い出だからいいの!」
『だから気にしないで』とクレハは優しく微笑む。
「クレハは大好きなんだな。両親も婆さんも?」
「うん。大好き!」
と、今度は眩しいぐらいの笑顔になる。
「そうか。なら、謝るのはむしろ失礼だったな。悪い。さっきの言葉は取り消すよ」
俺は失言だったと反省し、前言を撤回をする。
「あ……うん……ありがとう!」
最初は少し驚いた顔をするが、クレハは直ぐに優しい顔で微笑んでくれる。
「と、というか……やっぱりユキマサ君、ずるいよ!」
今度は『ずるい』と怒られる。でも、クレハはムスッとはしているが、表情に怒気は無く何処か優しい顔だ。
「ずるいって何がだ? てか、顔赤くないか?」
「か、顔は何か暑いから赤いの!」
と、クレハは机にあった、お冷やをグイッと一気に飲み干す。
アトラに負けず劣らずの良い飲みッぷりだ。
「で、暑い所に、熱い物が来たが大丈夫か?」
向こうから肉やサラダを持ったアトラが歩いて来る。
「──お待たせしました! 大猪のステーキです! あと、サラダです!」
ジュー! っと、音をさせ、丸く熱い鉄板の上に、粒状の塩やスパイス、それにハーブ等を、程よく使ってある大猪のステーキが運ばれてくる。
「うわぁ! ユキマサ君、見て見て! スゴく美味しそうだよ!」
クレハは目をキラキラさせ嬉しそうに声をあげる。
(クレハは肉が好物だったりするのか?)
「ああ。でも、確かに美味そうだが、これ一人前か?」
思いの外、大きい肉に思わず問いかける。
「いえ、通常よりも多めにしてあります! それに大丈夫です! もし残しても残りは私が必ず食べ尽くしますので!」
キリッとした表情でアトラが高らかに宣言する。
いや、それ飲食店的にいいのか? まあ、ここは異世界だから、そういった所の考え方も違うのか?
でも、食料を無駄にしないのは良いことだよな。
「──お待たせしました。こちらスープです!」
続いて猫耳亜人のウェイトレスが、野菜の入ったスープを運んでくる。こちらも美味そうだ。
「では、ごゆっくり! あ、もし、お腹いっぱいで、食べ残しそうなら、本当にすぐ呼んでください!」
『必ず駆けつけますので!』と飲食店ではあまり聞かない言葉を言い残し、アトラはぺコリとお辞儀をしながら、名残惜しそうに下がっていく。
(アトラはブレないな……?)
まあ、アトラはさて置き……
「よし。じゃあ、食うか?」
「うん。私、お腹ぺこぺこだよ。いただきます!」
クレハは行儀よくナイフを使い肉を切り始める。
そして、俺も同じく……
「いただきます」
と言いながら肉を食べやすいサイズに切り始める。
すると、向かいに座るクレハが肉を切りながら『へー』と感心したような様子でこっちを見ている。
「何だよ……?」
「ユキマサ君、お行儀良いんだね……? 何か『いただきます』とか声に出しては言わないタイプの人かな? って思ってた」
ああ……よく言われる。
まあ、誉め言葉と受け取ろう。
「昔、婆ちゃん達に教わったんだよ『食事の時は、いただきますとご馳走様はちゃんと言いなさい』ってな? ほら、早く食べないと冷めるぞ?」
「あ、うん。待って、食べるよ!」
クレハは切った肉をフォークを使い口に運ぶ。
そんな様子を眺めながら、俺も肉を食べ始める。
──んッ……美味いな!
正直、異世界の肉料理はどうなのかな? とか思ったが、この肉は野性動物特有の獣臭さも一切無い。
てか、一応は猪肉だから、味はジビエみたいな感じかな? とか勝手に考えてたが、どちらかと言うと、これ牛肉に近い味だぞ? 身はそれはそれは綺麗な赤身肉だ。
しかも、その肉は口の中で溶けるように柔らかい。
「わ! 美味しいッ!」
どうやらクレハも気に入ったようだ。
「白い米が欲しくなるな……」
「え? お米……?」
肉を可愛らしく、もぐもぐと食べていたクレハは俺の急な〝白米宣言〟に頭に『?』を浮かべている。
(異世界じゃ肉と白米の習慣はないのか?)
そーいや〝元の世界〟でも、日本じゃなくて、海外とかだと、ステーキと白米って組み合わせは、あまり無かったりするんだよな? 異世界なら尚更か……
「かなり合うぞ? 俺は基本ステーキとか、肉を食う時は、白いごはんと一緒に食う──」
すると、またもや良いタイミングで、通りかかった、さっきお冷やを頼んだの亜人のウェイトレスに「悪い。白米ってあるか? あの、白いやつだ?」と、質問してみる。
「お、お米ですか? あ、はい。多分大丈夫だと思います。少しお待ちください!」
亜人のウェイトレスは、俺の質問を聞くや否や、厨房へタッタッターっと走っていく。
どうやら、白米の単体は基本的に無いみたいだ。
まあ、考えてもみれば──異世界の料理屋で、亜人もエルフも人間も、皆で白米持って、味噌汁を啜りながら、焼き魚とか食べてたら、かなりシュールな絵面だしな? それに何か平和そうだ。
そんなシュールな絵面を思い浮かべていると……
「お待たせしました。大丈夫みたいです! お1つでよろしかったですか?」
と、先程の亜人のウェイトレスが、白米を木製のプレートに入れて持ってきた。
「悪いな。いただくよ」
俺は亜人の子に礼を言い受けとる。
「いえ、ごゆっくりどうぞ!」
亜人の子は二コリと笑い、仕事に戻っていく。
「──そ、それ、本当に合うの?」
と、クレハが興味津々に聞いてくるので、
「少しやるから、騙されたと思って食ってみろ?」
俺は白米を小皿に取り分けてクレハに渡す。
「あ、うん。じゃ、じゃあ、いただきます……」
クレハは肉を食べながら恐る恐ると米を口に運ぶ。
「──!! あっ、本当に合う!」
パチッとクレハは目を見開き、更にパクパクと上手にフォークを使い、ごはんと肉を交互に食べていく。
良かった。クレハの様子を見るに、気を使ってとかじゃなくて、本当に気に入ってくれたみたいだ。
「すいません。私もお米貰って良いですか?」
早速、クレハはお米を追加で頼んでいる。
……順応力高いな?
「お、お米ですか? あ、何か、さっきフウラちゃんが持っていたやつですね! すぐ持ってきます!」
アトラはメニューには無い、白米単品の注文に最初は頭に『?』を浮かべつつも、さっきの亜人の子の姿を見ていたおかげかスムーズに対応する。
「どうだ?」
お米待ち……で、肉を食べる手を止めているクレハに俺はご飯の感想を聞いてみる。
「うん、凄く合う! ビックリだよ」
と、クレハは凄く嬉しそうに言うので、何だがこっちまで少し嬉しくなって来る。
「お待たせしました!」
そして直ぐにアトラが白米を持ってくる。
「ありがとうございます」
「珍しい食べ方ですね? 美味しいんですか!」
アトラは興味津々で聞いてくる。
「はい。私も半信半疑でしたが、とても合いますよ。よければ今度試してみてください!」
早速クレハが肉には白米文化を広めてくれる。
「本当ですか! 私も食べてみたいのですが……」
そう返すアトラの視線の先の店内を見ると……
「何! 〝大猪の肉〟が食えるのか!」
「こっちは2つ頼む、あと酒もくれ!!」
「私にもお1ついただけるかしら?」
「すいません。おかわりお願いします!」
──店は、大繁盛の様子だ。
それに早くもおかわりしてる奴もいるみたいだ。
「恐らく店が終わる頃には売り切れで、私の三大食欲の一角である、晩御飯には並びそうに無いんです……」
ガックリと肩を落とすアトラ。
(てか、三大食欲って何だ? 朝食、昼食、晩飯か?)
すると厨房から……
「アトラ、何やってるの! 早く戻ってきなさい!」
と女将さんがアトラを呼ぶ声が聞こえる、
この席は、厨房から近くの端の方の席と言う事もあって、厨房からの声が良く聞こえて来る。
「は、はい! すぐに行きます! すいません。クレハさん、失礼します!」
と、慌ててアトラは走っていく。
「い、忙しそうだね……」
そんな慌ただしいアトラを見て、クレハが『あはは……』と苦笑いで呟く。
「まあ、繁盛してるのは良いことじゃないか?」
女将さんも怖いだけで、悪い人では無さそうだし。
「そうだね。でも、エメレアちゃんやミリアやシスティア隊長にも、このお肉食べさせてあげたかったな」
〝大猪の肉〟を食べながら、少し申し訳なさそうな表情のクレハ。
「なら、まだまだ肉はあるから少し分けてやるよ? 暇なら、明日にでも持ってきて焼いてもらうといい」
「そ、そんな悪いよ! それにそんなつもりで言ったんじゃないから!」
「知ってる。だから余計にあげたくなるんだよ──それに俺に変な所で遠慮しなくていい。真面目なのは良いが、もう少し肩の力を抜いとけ? それじゃ無駄に疲れるだけだぞ?」
慌てるクレハに、俺は少し肩の力を抜くように言う。
「……ッ……えっと……うん……わ、分かった……///」
何だ? やけに素直だな? それにまた顔赤いし。
「まあ、でも、気は抜くなよ?」
と、俺は少し付け加えて置く。
*
その後も「お米、美味しいね!」とか「焼き加減も絶妙だな」とか、他愛の無い話をしながら食事をする。
そして、二人共あっと言う間に食事を終えた。
「──お腹いっぱい! ご馳走さまでした!」
満足そうなクレハが肉を完食して一息つく。
「肉を食ったって感じの満足感だな。ご馳走さま」
俺も完食し、一息つきながら……
「そろそろ行くか? 店も忙しそうだしな」
と、クレハに切り出す。
店を見渡すと先程よりも店は賑わっている。
「そうだね。ユキマサ君、後は宿屋だっけ?」
「ああ、ギルドの近くだし宿屋ぐらいあるだろ?」
「うん。確か直ぐそこにある筈だよ」
席を立ちながらクレハが宿屋情報を教えてくれる。
「──ありがとうございました!」
帰宅モードの俺達にアトラが駆けよってくる。
女将さんにお代は要らないと言われていたので、お言葉に甘え俺達は会計をスルーして店を出る。
「御馳走様でした。また来ますね! アトラさんもお仕事頑張ってください。あと、女将さん達にもご馳走様でしたと伝えておいてください」
「はい! また来てくださいね! それにクレハさんに応援されたら、頑張るしかありませんね!」
と、クレハに応援され嬉しそうなアトラに……
「ご馳走さま、美味かったよ」
と、俺も挨拶をする──。
「はい、またお越しくださいませ!」
そんな定型文のような返事だが、そのアトラの声音からは、アトラの性格の良さを感じる。
そして、アトラに店の外まで見送られ、両手で手をブンブンと振られながら、店を後にする。
*
「──本当に美味しかったね!」
と、満足気なクレハ
「ああ。また行ってみるよ。教えてくれてありがとな」
ギルドに武器屋に飯屋──
生活に必要そうな場所は後は宿屋ぐらいか……?
「どういたしまして。後は宿屋だよね。案内するよ」
「もう暗いし場所だけ教えてもらえれば案内はいいよ」
「私の家は此処からも近いし、少しぐらい遅くなっても大丈夫だよ。宿屋ぐらいは案内できるから気にしないで」
どうやら、クレハは案内してくれる気満々みたいだ。
いや、まあ、そういう意味だけじゃないんだが……
それにまたエメレアに見られたら、それこそ殺戮的になって攻撃してくるんじゃないか?
……別に、やましいことは無いけどさ?
「あ、確かあれがそうだよ!」
──近いな!?
だが、そこの宿屋の札には……
〝旅の宿屋──本日、満室御礼──〟
の文字が、ドドンと華々しく書いてあった。
(まじか……)
と、その時、ちょうど店の店員が箒みたいなのを持って、外に出て来たので、キャンセル空きみたいなのが無いか、俺はダメ元で聞いてみる。
「──悪い。もう宿は満室なのか?」
「すいません。結構前に満室となってます。今日はなんでも──ヒュドラの〝変異種〟が出たとかで、遠方の冒険者の方達が沢山来てまして……どこも宿は満室のようです。家の店は少し高めの宿なので、埋まるのは遅い方だったみたいですが。それでも夕方前には満室でしたよ」
──おう……まじか……!?
しかも、何処も満室と来た。
「そうか。悪い、邪魔したな」
と、俺は宿屋を出る。
これは野宿かな?
「えーと……何処もいっぱいみたいだね……」
「仕方ないな。言われてみれば飯屋もあの混み方だ。よく考えれば宿屋が満室でも不思議じゃない……」
まあ、野宿じゃ無くても1日中ギルドは空いてるみたいだし、最悪ギルドの隅の椅子で仮眠でも取ろう。ギルドマスターのロキには『またいつでも来てください』って言われたしな?
「今日は色々と助かったよ。後、おにぎりもご馳走さま。本当に美味かった。後は自分で適当に探すから家にクレハは帰りな? 疲れてもいるだろ?」
「でも……ユキマサ君どこか他にアテはあるの?」
「ギルドの隅の椅子で仮眠でも取るかぐらいだな。それがダメでも、俺は男だし最悪野宿でもどうとでもなる」
幸い、雨とかも降ってないしな……
「──ユキマサ君……あのさ、もしよかったら……なんだけど……狭い所だけど……家……来る……?」
クレハは顔を真っ赤にし上目遣いで聞いてくる。
「……え……いや、流石に不味いだろ……?」
「ユキマサ君、さっき私に『俺に変な所で遠慮しなくていい』って言ってくれたでしょ……だから、ユキマサ君も私に遠慮何てしなくていいから!」
クレハは力強くそんな事を言ってくれる。
「それとも、私の家に泊まるのは嫌かな……?」
「……い、嫌じゃないけど」
「じゃ、じゃあ、来てくれる? 後……へ……変な意味じゃないからね! それにユキマサ君だから言ってるんだよ! 他の男の人とかなら、私は絶対こんなこと言わないから!」
真っ赤な顔のクレハが更に顔を赤くする。
「じゃ、じゃあ、お邪魔させてもらうが……いいのか? 本当に行くぞ……?」
俺は〝本当にいいのか?〟と念を押す。でも、何かここまで言われると逆に断る方が失礼な気がする。
それに、実際……助かるしな。
「うん! じゃあこっちだよ!」
と、俺はクレハの家に案内されるのだった。
★★★★★★作者からのお願い★★★★★★
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