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第127話 ボール遊び



 *


 少し遠くから大きな爆発音が聞こえた。


 レヴィニアを脇に抱えて走る、メイド長のイルザは足は止めずに視線だけで、その方向を振り向く。


「イシガキ様……」


 嫌な予感がする。

 でも、足を止めるわけには行かない。


「イルザ、今の爆発音……その……上手く説明できないんだけど……何か凄く……凄く嫌な感じがするの……」


 レヴィニアは震えた声で頭を抱えながら言う。


「私もです。ですが……戻るわけにはいきません」

「大丈夫よね……イシガキなら、上手く時間を稼いで逃げてくれる筈よ。そしたら私達を追いかけて来てくれて、直ぐにイシガキと合流できるに決まってるわ」


 大丈夫、大丈夫と、レヴィニアはパニックになる自分の頭に必死に言い聞かせる。


 爆発音から数十分。二人は何も喋らず、ひたすらに〝大都市エルクステン〟を目指し、先を進んでいた。


 ──そして、レヴィニアが望んだイシガキは一向に現れる気配は無く、正反対に()()()()()が追い付いて来たしまったのは……ほんの一瞬の出来事であった。


「探したぜ──〝王族の心臓(メインディッシュ)〟」


 一瞬、黒い影が自分の真横に来たかと思うと、底冷えするような声が響く。

 それは紛れもない、魔族アルケラだ。


「お嬢様ッ!」

「ひっ!」


 直ぐ様、イルザは抱えていたレヴィニアを左手から右手に抱え替え、自身がアルケラとレヴィニアの間に入るようにし、ほんの少しでもアルケラからレヴィニアを遠ざける。


「イシガキ! イシガキはどうしたのッ!?」

「イシガキ? ああ、あの白髪頭なら死んだよ。自分から爆発してな。お陰で心臓を食い損ねた所だ」


 ──ドン! ドン! バン!


 メイド服の何処からか取り出した銃で、イルザがアルケラの眉間、喉、胸部と言った場所を狙い発砲する。


 イルザの使った銃は〝魔力銃〟では無く、()()()()()()だが、その弾丸には魔力を込めた〝魔力強化(ブースト)〟付きだ。それを至近距離から絶妙のタイミングで放つ。


 その弾丸は見事に全部が命中するが、胸部と喉の弾は(はじ)かれてしまった。


 唯一、眉間へと放った弾は、アルケラに軽い鮮血を流させる。


「ハッ、ビックリしたぞ。白髪頭といい──1日に二人も俺に血を流させるとは、やるじゃねぇかよッ」


 勿論、殺す気で撃った。

 だが、致命傷は愚か……ダメージは無きに等しい。この距離からの着弾でも、薄皮が剥ける程度にしかダメージを与える事ができない事にイルザは舌打ちをする。


「化物め……」


 イルザは間を開けず、更に銃を撃ち、レヴィニアを抱えながら、アルケラへと魔力を込めた蹴りを放つが──弾丸は避けられ、アルケラの腕を蹴った筈の魔力を込めた右足は、オリハルコンでも素で蹴り飛ばしたかのようにジーンとした痛みと共に弾かれる。


「どうした? もう終わりか? これじゃ、まだ白髪頭のが骨があったが、なぶるのも嫌いじゃねぇ」


 ハハッと、アルケラは気に入った玩具(おもちゃ)でも見つけたかのように、楽しそうに笑う。


 この間もイルザは、レヴィニアを抱えながら、普通の人間が走れるようなスピードでは無い、速いスピードで山中を移動している。


 それを追うアルケラは、いつでも二人を殺せる状態だが──先程の台詞のように、怖がる二人を追いかけ、楽しそうに二人をなぶるように遊んでいた。


「そろそろ飽きてきたな。それに女、お前の心臓も美味そうだ──お前の心臓もいただくとするか」


 アルケラがそう言い、

 イルザへと手を振りかざすと──


 ──ザン!


 と、斬れたのはイルザの左腕であった。


「イルザッ!」

「う……ご心配無く。腕が切れただけです」


「面白いな、お前、中々経験値が高そうじゃねぇか」


 切れたイルザの左腕を持ちながら、今、イルザが()()()()()を見抜いたアルケラはニヤリと笑う。


「狙われる場所が分かれば、庇う事は難しくはない」


 そう呟くイルザが行ったのは、簡単な事だが、並みの精神力じゃ行えない行動だ。


 心臓を狙われたイルザは、その攻撃が避けられないと分かると、一か八か、アルケラの攻撃に()()()()()()()()()のだ。

 勿論、心臓を当てにでは無く、代わりに左腕を犠牲にする形でだ。


 万が一に避けても、直ぐに次の攻撃で、間違いなく、心臓は取られる。


 だが、()()()()()()()()という──

 相手の想像の斜めでも上でも下でも横でも、何でもいいから、何か一瞬の(きょ)を衝く行動を行ったのだ。


 その結果、心臓(即死)(まぬが)れた。


 だが、その代償は左腕一本。命の対価としては替えようが無いが、手痛い傷を負ったのは事実だ。


 肩からドバドバと(あふ)れる血を、レヴィニアが泣きながら必死に〝回復魔法(ヒール)〟をかけている。


「──私は諦めない! 例え、この身が滅びようとも、お嬢様は私が絶対に守ってみせる!」


 イルザは〝魔族アルケラ〟への宣戦布告と共に、この状況下では絶望的なまでの距離の〝大都市エルクステン〟へ向かう、自分に改めて活を入れる。


「ハッ、面白れぇな、だったら守ってみろッ! 気が変わった! お前を肉片一つ残らないまでに壊してから、そのお姫様の心臓を笑いながら喰ってやるよ!」


 ──ドン!


 鈍い音がイルザの身体に響く。

 アルケラに背中を蹴られたのだ。


 その攻撃で勢い付いたイルザ達は、更にスピードを出して、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。


 ズザザザザザ!! バキバキバキ!


「ハハハ! 楽しいなぁ、これッ!」


 アルケラは勢いが落ちると、またイルザを蹴り、何度も何度も吹き飛ばす。


「……う……ぐふっ……」


 魔力を込め、イルザは全力でアルケラの蹴りを防御(ガード)するが、その一撃一撃が重い。拷問でも受けてるようだとイルザは思うが。事実、それに近い。


「イルザ、私を置いて逃げなさい! 貴方まで死んじゃうわ!! あれの狙いは私の心臓なのでしょ!!」


 泣き叫ぶレヴィニアが、腕の中で暴れ始める。


「できません……それは諦めてください」


 そんな事をすれば、イシガキや死んでいった兵士達に合わせる顔がない──それに理由は何であれ、レヴィニアを自分より先に死なせる気など毛ほども無い。


 ──ドン!


 またイルザがアルケラに蹴られ、吹き飛ばされる。


「昔、食った人間のガキが、ボールとか言う丸いもんを投げたり、蹴ったりして遊んでいたが──こういうことか、意外と楽しいな! ほら、吹っ飛べよ!」


 ──ドン!!


「……ぐふッ……お、お嬢様……」


 イルザの意識が飛びかける。


 ガサガサッ!! バキバキバキ!!


 吹き飛ばされる自分達が当たった、木が〝くの字〟に折れていく。そして意識を保つのが困難になってきた頃──


 ──がし。


 レヴィニアを抱えたイルザを()()が掴む。


 その()()によって止められ、久しぶりとも感じられる、自分達が吹き飛ばされていない──極当たり前である筈の、辺りの景色が静かに流れる世界にハッと息を吐く。


「……れ、レヴィニアお嬢様……ご無事ですか……」

「イルザ! イルザ! しっかりして私は無事よ! お願いだから、今は貴方自身の心配をしなさい!」


 ボロボロの身体でイルザは、真っ先にレヴィニアの安否を確認する。


「おい」


「ッ!?」

「ひっ」


 ここで初めてイルザは、自分を抱き止めた人物の存在を認識する──黒い髪に〝スイセン服〟を着た少年と、その横には黒い髪のセミロングの少女がいる。


 普通に声をかけたられたのだが、イルザとレヴィニアの二人は異常なまでに驚いた反応を見せる。


 だが、こうしてはいられない──!


「ひ、人!? ──お、お願いします! お嬢様を連れて、今すぐに逃げてください! 私が時間を稼ぎます! 早くしないと、あれが……()()が来る!」


 私はここまでだ。後は1秒でも多く時間を稼ぐ。

 申し訳ないが、後はこの人達にお嬢様を連れて逃げて貰う。どのみち、このままでは全滅だ。

 

「嫌よ、イルザ! 貴方も一緒に逃げるのよッ!」


 レヴィニアの言葉には何も返さず、イルザは、すがり付くように、その〝スイセン服〟を着た少年に『早く、お嬢様を連れて逃げてくれ』と頼む。


 だが、その少年は──


「……おい、クレハ、こいつら連れて下がれ。どうやら、こいつらの言う()()とやらが来たみたいだ──」


 そう連れの少女に告げ、私達の一歩前に出る。


 あれは魔族だ! 少なくとも、()()()()()()少年の手に負える相手では無い! 

 と、そう叫ぼうとしたその時だ──


 バキバキバキッと、辺りの木々を根から巻き上げ、黒い渦を巻く異様な空間が近付いてくると、その渦の中から、底冷えするような嫌な声が響く。


「──何だ、邪魔が入ったか?」


「「……ッ!!」」


 イルザとレヴィニアは追い付いて来たアルケラ登場に、この世の終わりでも迎えたかのように、自分でも分かるぐらいに目を見開き、息を()むのだった。

  



 ★★★★★★作者からのお願い★★★★★★


 作品を読んで下さり本当にありがとうございます!


・面白い

・続きが気になる

・異世界が好きだ


 などと少しでも思って下さった方は、画面下の☆☆☆☆☆から評価やブックマークを下さると凄く嬉しいです!

 (また、既に評価、ブックマーク、感想をいただいてる皆様、本当にありがとうございます! 大変、励みになっております!)


 ★5つだと泣いて喜びますが、勿論感じた評価で大丈夫です!


 長々と失礼しました!

 何卒よろしくお願いします!


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