第124話 お嬢様とメイド長と王室親衛隊
*
──時を遡る事、数時間前
アデリシュ山脈・山道──
そこには、とある国の第二王女を乗せ、1000人もの兵士を付け、竜車で〝大都市エルクステン〟を目指す一行の姿があった。
その中の最重要人物──〝イリス皇国第二王女〟レヴィニア・イリスの傍らには、二人の人物がいる。
一人はレヴィニアの側近にして、メイド長でもある──イルザ。メイド服を着こなした、黒髪のポニーテールの二十代の女性だ。
もう一人は、初老の筋肉質の男性、白髪の髪をオールバックにしており、左頬には昔、刀で斬られたのであろう傷跡が残っている。
こちらの人物の名は──イシガキ。
レヴィニアの護衛であり、イリス皇国の王室親衛隊でも、トップ3に入る実力者である。
「イルザ、もっと私も外が見たいわ。いい天気だし、流れる風を浴びたいの、もう竜車の中は飽き飽きよ」
「お嬢様、お気持ちは分かりますが、危険ですので我慢してください」
「何よ、少しぐらい良いじゃない! ケチ!」
「魔物に盗賊、下手をすれば遠距離からの狙撃、もっと酷ければ〝魔王信仰〟や、魔族が現れる可能性もあるのですよ? そして〝魔王信仰〟や魔族に取っては、魔力の高い王族である──レヴィニアお嬢様の心臓は喉から手が出るほど欲しい物なのです。危険過ぎます。大人しく竜車の中にいてください」
「う……分かったわよ……」
ムスっとしているレヴィニアだが、話の内容はド正論なので、しぶしぶ納得し、再び席に腰を下ろす。
「まあまあ、少しぐらいはいいんじゃねぇか? 長旅なんだ、レヴィニア嬢ちゃんの息抜きも必要だろ?」
そう親しげに話すのは、初老の男性のイシガキだ。
レヴィニアが幼少期の頃から、護衛をする事が多かったので、話し方も結構砕けた感じで話している。
「そうよね! イシガキ、私の息抜きも大切よ!」
長く綺麗な薄いピンクの髪を揺らし、レヴィニアは目を輝かせる。
「却下です。どこかで比較的安全な場所で休憩を挟みますので、そこまで我慢してください。少なくとも移動中は竜車の中です──イシガキ様も、もしレヴィニアお嬢様に何かあってからでは遅いのですよ? 優しいのも結構ですが、その危険も考慮してください」
「ハハ、敵わねぇな、メイド長ちゃんには?」
膨れるレヴィニアと、何処までも真面目なメイド長のイルザと、国でもトップ3の実力者のイシガキ。
そして、それに続く1000人の兵士。
そんな彼女らの行く手を阻む者は、今日もいないだろうと思いながら、レヴィニアは年に一回ぐらいは行く〝大都市エルクステン〟への道を進んでいた。
そして今回は昨年できた、アーデルハイト王国の友人も〝大都市エルクステン〟にいるとの事だ。お土産に、その友人の好物の辛い物も沢山持ってきている。
きっと、このお土産に友人は喜んでくれる筈だ。
そう考えた、レヴィニアの顔は自然と綻んだ。
イルザの言葉通り、比較的安全と思われた、山の中の泉の湧く場所で、竜車は止まり休憩を挟み、再び〝大都市エルクステン〟への道を進み出す。
……そして問題の敵が現れたのは、日が落ち始め、本日の夜営場所を探していた、そんな時だった──
「──な、何だあれは!!」
「雨雲? い、いや違う、何だこの魔力は!?」
先頭を行く竜車から始まり、瞬く間に他の竜車全体に、どよめきと焦りが広がる。
「……う、嘘だろ……」
竜車から表に飛び出し、その存在の正体にいち早く気づいたイシガキが冷や汗を掻き、唾を飲む。
「メイド長ちゃん、レヴィニア嬢ちゃんを連れて逃げろ!」
焦るイシガキは無意識に怒鳴り声になる。
普段はそんな大きな声を上げる人物では無いので、事の重大さを──イルザとレヴィニアは瞬時に理解した。
「それとエルフの者達は〝精神疎通〟を使って、直ぐに〝大都市エルクステン〟の副ギルドマスターに援軍を頼んでくれ! 並の戦力じゃ死人が増えるだけだ! レベルは40以上か、騎士隊長級の──」
──ズドン! ドン! ドン! ドンッ!
イシガキが喋り終える前に、今しがた〝精神疎通〟を使おうとしていた、エルフ達が全員、細く速い熱線のような攻撃を受ける。
そしてその攻撃を受けた全員が、的確なまでに頭を貫かれており、即死してしまっている。
「お前達ッ! ……くッ」
イシガキは倒れた仲間へ駆け寄ろうとするが、もし今の攻撃がレヴィニアに放たれれば、全てが終わる。
現状レヴィニアを守れる可能性が最も高いのは、イリス皇国の王室親衛隊のトップ3の実力を持つ──イシガキだ。
イルザを護衛に付け、レヴィニアを逃がすまでは、何としても、イシガキはレヴィニアの竜車の側を離れるわけにはいかなかった。
(しまった。まさか開幕で〝精神疎通〟を使えるエルフ達が全滅するとは……しかし何故だ……)
そして渦巻く黒い霧の中からは──
人型の男の姿をした者が現れる。
たが、その男は人間では無い。二本の角と、腰の辺りからは蜥蜴と言うよりは、恐竜のようなゴツイ黒い尻尾が生えており、赤く鋭い目は目付きが悪く、肌は黒い鱗様の物で覆われている。
「魔力の気配のした方に少し攻撃してみたら、耳の長い人間共か、確かそいつらは仲間を呼ぶんだよな? だとしたら食事の量が増えたか、失敗したな──」
底冷えするような嫌な声が辺りに響く。
「できれば、俺の勘違いで……見間違いであってほしかった──何で、魔族がこんな所にいるんだよ……?」
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