第115話 ミリア・ハイルデートはミリアである36
*
「──え……クレハ達、明日、帰っちゃうの……」
明日、クレハ達は〝大都市エルクステン〟に帰ってしまうと聞いた私は、かなりのショックを受けた。
「うん、元々はシスティアお姉ちゃんの休日に、何処か出掛けるっていう話で、私達も付いて来てたから」
その話を聞いていた、お父さんの冒険者仲間の人達からは「それなのに盗賊倒してたりしたのか」「騎士隊長って本当に大変なのね」とか声があがっている。
「う……そっか……そっか……そっか……」
よく考えなくてもそうだ。クレハ達が他の街から来ていたのなら、長期滞在や移住でもしない限り、数日で帰ってしまうのは、当たり前だ。
「ねぇ、ミリア、騎士に興味無い?」
ショボくれる私に、エメレアが質問してくる。
「騎士?」
「ええ、私も〝大都市エルクステン〟のギルド直属の騎士隊に所属してるの。システィア姉さんはそこの第8隊の騎士隊長よ。それに今度クレハも入隊試験を受ける予定なのよ──私が見た所だと、ミリアは魔力が高いわ。今すぐにじゃないけど、試験も十分に受かる可能性があると思うわ。もしよければどうかしら?」
今まで私は騎士になる何て、考えた事も無かった。
でも、誰かを守りたい。強くなりたい。
そんな思いが私の中にも、ある事に気づいた。
「……わ、私も騎士になりたい」
気づいたら、私は声が漏れていた。
「待てミリア、本当にいいのか? それにエメレアも、騎士にどうとは、あまり簡単に言えることでは無いのだぞ? 勿論、危険が付きまとう」
〝それでも本当に騎士になりたいのか?〟と、システィアは真剣な眼差しで、ミリアに問いかける。
「わ、私も誰かを守れるようになりたいです。それができるのが騎士なら、私は騎士になりたいです」
力強い言葉だった。
その言葉と、その時のミリアの目を見て、システィアはミリアの中に強い気持ちがあることを感じる。
「そうか、疑うようですまなかった。ならば私も、可能な限り応援しよう。何かあれば何でも聞いてくれ」
そのシスティアお姉ちゃんの言葉を聞いて、皆もホッとし、お団子屋のおばちゃん達や、お父さんの冒険者仲間達も、その事を応援してくれる雰囲気だ。
「あ、でも、騎士の養成所とかあるけど……〝大都市エルクステン〟までは、ミリアここから通うの?」
具体的な問題をクレハが質問する。
「あ……どうしよう……」
……全然考えてなかった。クレハ達と一緒という事と、騎士になるという事で頭がいっぱいだった。
「ミリア、よかったら家に来る? おばあちゃんと二人暮らしなんだけど……部屋もあるし、女の子同士だし、どうかな?」
「……え、でも……いいの……?」
「うん、エメレアちゃんやシスティアお姉ちゃんもよく泊まりに来たりするし、遠慮しないで」
私は少しだけ考えた後、クレハの言葉に甘える事にする。
「じゃ、じゃあ、不束物ですが、お、お願いします」
「はい、お願いします。じゃあ、決まりだね!」
そうして私は、生まれてはじめて、この家を離れる事を決める。不思議と怖くない。
自分でも驚くほど、すんなりと受け入れた。
その後は、お父さんの冒険者仲間の人達とシスティアお姉ちゃんが、おばちゃん達を家まで送っていった。
クレハとエメレアは今日は私の家に泊まった。
システィアお姉ちゃんにも、一緒に泊まらないかと声をかけたが──予約してた街の宿を三人全員が当日にキャンセルをするのも、流石に悪いと言って、システィアお姉ちゃんは、街の宿に泊まるそうだ。
そして、はじめての友達とのお泊まり、楽しくて、皆で少しばかり夜更かしをしてしまったけど、その日は、ぐっすりとよく寝れた。
*
──翌日。
「結構、多くなっちゃった」
ミリアは大きなリュックに荷物を纏める。
そして手には、お父さんの形見の魔法の杖と、お母さんの形見になってしまった青く光る宝石──〝聖海の青玉〟が握られている。
「うわぁ、綺麗だね。それに魔力の気配もあるね」
「うん、これはお母さんから貰って、杖はお父さんから貰ったの」
「そっか、じゃあ、それはもうミリアの宝物だね!」
クレハがまるで自分の事のように嬉しそうに、そう言ってくれる。
「うん、私の宝物です──あ、あと、クレハ、この杖と青玉を、一緒にできるように加工できるようなお店、知らない?」
「〝エルクステン〟の街になら、いくつかそういう依頼も頼める武器屋があるよ、着いたら行ってみる?」
「あ、うん、行きたい、お願いします」
こくこくと頷くミリア。
「クレハー、ミリアー、準備はいい?」
もう外で待ってるエメレアが声をかけてくる。
「すぐ行くよ」
「わ、私も」
そして家を出て、戸締りをする。
よく考えたら、私は家の戸締まりは生まれて初めての経験だ。だって、敷地内にはタケシがいるから、怪しい人は入ってこれないのだから。
それでも、私は、このお家への自分の気持ちの一区切りとして鍵をかけた。
また必ず戻って来る。お墓参りにも頻繁に来る。
だから寂しくない。
「後は、システィア姉さんと〝ルスサルペの街〟の入り口で、落ち合うだけね」
「あ、エメレアちゃん、待った──」
と、クレハが指さす先には、家を出ると、ちょうど近くの空を通りかかったタケシに「行ってくるね!」と声をかけ手を振った後、家のすぐ隣にある、両親のお墓の前へとミリアがタッタッタと走って行く。
そして、お墓の前で手を合わせ──
「お父さん、お母さん、行ってきます」
しっかりと両親に〝行ってきます〟を伝える。
『『──いってらっしゃい!!』』
「……えっ……? お父さん、お母さん?」
聞き間違えようの無い、ミリアの大好きな両親の声がしたような気がした。ごしごし、ごしごし。と、ミリアは目を擦る。
だがもう一度、その場を見ても誰もその場にはいなかった。気のせいかな? と、ションボリするミリアの目に飛び込んできたのは、目をまん丸に見開き、口をポカーンと開けた──クレハとエメレアだった。
「クレハ、エメレア、ど、どうしたの!?」
「……エメレアちゃん……見た?」
「……ええ、ということはクレハも?」
クレハとエメレアは同じものを見て、ミリアは声を聞いた。
果たしてこれは見間違いや聞き間違いだったのだろうか? だが、3人とも背筋に冷たいものではなく、凄く温かい感覚を感じた。
今の答え合わせは要らない。
3人はそれ以上、言葉には出さなかった。
代わりに一頻り笑った。嬉しそうに3人で。
そしてミリアはクレハとエメレアと共に歩き出す。
ドキドキする、新しい未来へ向かって──
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