第105話 ミリア・ハイルデートはミリアである26
──少し時を遡る。
これはミリアも知らない、あの日、ミトリが一時だけ目を覚ませた時のとある魔法の話しである。
──4日前・深夜過ぎ。
その日、ハイルデート家の敷地内に、ある1人の少女が足を踏み入れていた。
歳は12~13歳。幼さは残るが、何処か少し大人びた雰囲気の白いフードを深く被った紫の髪の少女だ。
その少女は淡々とした足取りで、誰にも気づかれずにハイルデート家の敷地を歩いて行く。
「──ここかな? お邪魔します」
その少女は、そう呟くと扉を開けて家に入る。
傍から見れば普通に不法侵入である。
でも、そんな事は気にせず、そのまま少女は歩いて家の中を進んで行き、寝室へと向かう。
寝室のドアを開けると、そこには──
高熱で寝込み意識の無い女性と、その横には水色の髪の小さな女の子が寝ていた。
他でも無い、ミトリとミリアである。
そして、白いフードを被った少女は……
「可愛い子だね。でも、ちょっとごめんね」
と、ミリアに手を翳し、結界魔法を使う。
これにより、あらゆる音は遮断され、更に深い眠りにつく。この結界魔法を解かない限り、ちょっとやそっとの事で、ミリアが目を覚ます事はないだろう。
「で、次はこっちかな?」
そう言うと、少女はミトリに手を翳す。
「──あれ? 思ったよりも魔力を使わないな。久しぶりに〝魔力回復薬〟を飲む事になるかなって考えてたけど? この人、凄く魔力が高いんだね♪」
*
20日前に倒れてから、必死に目覚めようとするが、どうしても目覚めてはくれない、朦朧とする意識の中、何処までも終わりの無く広がる、真っ白な景色の夢の中のような不思議な場所で……
──ミトリ・ハイルデートは、ずっと祈っていた。
(……お願い……誰か……誰か……助けて……もう一度だけ……あの子に会いたいの……ミリアに会いたい……)
自分の体はもう持たない。
後は、刻一刻と訪れる、近い日の死を、このまま二度と目覚める事も無く、ゆっくりと待つだけだろう。
……なら、最後の手段に出よう。
そう考えたミトリが取った行動は、高い魔力を持つ極一部の者のみが使える、自身の魔力を犠牲にして行う、生命力を極限にまで高め──
一時的に肉体を復活させる、特殊な魔法を使った。
魔力の犠牲。この魔法は魔力を使うのでは無く、犠牲にする魔法だ。簡単に言えば、犠牲になった魔力は2度と回復しない。
そして、この魔法は多大な魔力を使う。
怪我や病気に関わらず、体の状態が悪ければ悪いほど、使う魔力も増える。
それに勿論100%成功するというわけでも無い。
魔法の発動に失敗すれば、ただ魔力だけを失い、そのまま死ぬ可能性だって十分にある。
(……お願い……もう一度……ミリアに会いたいの……)
有りっ丈の魔力を注ぎ、ミトリは魔法を試みる。
(……ダメ……魔力が足りない……)
だが、今のミトリの残りの魔力量では、魔法を発動できるまでの魔力量が足りなかった。
万全の状態のミトリなら可能であったが、今は万全では無い。当たり前だ──そもそも、万全の状態ならば、こんな最終手段の諸刃の魔法など使っていない。
(……何で……こんな時ばかり……私は……魔力ぐらいしか……取り柄が無いんだから……最後の時ぐらい……言うこと聞きなさいよ……お願い……お願いだから……)
すると、その時──
ぶわッと、魔力が回復する感覚がミトリを包む。
(……!! これなら……! ……お願い……っ……!)
「──ハッ!!」
ミトリが気づくと、寝室のベットの上だった。
「わ……私……生きてる……」
目を覚ますと、ミトリは自分の状態を確認する。
「──こんばんは。ミトリ・ハイルデートさん。私を呼んだのは、貴方で間違いなさそうかな?」
真横から声をかけられ、漸くミトリは自分の寝室にいる、その少女の存在に気づく。
「──ッ!?」
ミトリは心臓が飛び出るかと思った。
「貴方……どうやってここに……!?」
「歩いてかな?」
至って真剣に少女は返事を返す。
「……私に魔力をくれたのは貴方?」
警戒しながら、ミトリは質問を投げる。
「うん、そうだよ♪」
「──ッ!? ミリア!」
だが、直ぐにミトリは、その少女の回答とは別に関係なく、慌ててミリアへと視線を向ける。
「娘さんなら、私の魔法で深く寝てて貰ってるよ。大丈夫、何も心配は要らないから、安心して──」
「……」
一先ず、敵ではない。そうミトリは判断する。
「さっきの、私が貴方を呼んだって言うのは何?」
「たまたま夢で見たんだ。貴方がしようとする事と、誰かを呼ぶ姿が──そして、今回は貴方が呼ぶ、その誰かが、私になったってだけの話しになるのかな?」
「夢? 誰か? ふざけてるの……?」
少しズレたような、そうでないような回答にミトリは首を傾げる。
「私の事なんかより、時間を気にした方がいいよ。せっかくの魔法が解ける前に──ミトリさん、貴方の寿命は、残念ながら、持って3時間て所だと思うよ?」
少しトーンを落とした口調で少女が告げる。
「その時間を過ぎたら私はどうなるの?」
余命3時間──あまり聞かない余命時間と、己の死という、体験した事の無い物事に流石に不安を感じ、ミトリは反射的に目の前の少女に話を聞き返す。
「恐らくだけど、その魔法が解けて、眠るように亡くなると思うよ。でも、その覚悟はあったんだよね?」
大丈夫。痛くは無いから。と、少女は言う。
「……ええ……」
ミトリは短く返事をする。
「そう。なら、私から言うことは何もないかな」
そう言うと、部屋を去ろうとする少女。
「待って! 本当にありがとう。本当なら何かお礼をしたいけど……貴方、名前は?」
この不思議少女の名前が気になったミトリは、立ち去る少女に、お礼を言いながら名前を訪ねる。
その気になれば、ミトリの持つ──スキル〝天眼〟を使い、少女の〝ステータス画面〟を覗き見れるが、助けられた恩もあるので、流石にそれは気が引けた。
「どういたしまして──私はノア。お礼なら傘を1つ貰えるかな? 外は雨が降ってきたみたい」
「え……ええ。傘なら玄関の所にあるから、好きなのを持っていってちょうだい」
そんな物でいいのかとミトリは拍子抜けする。
「ありがとう。それじゃあ──お邪魔しました」
ミリアへの魔法を解き、ノアは部屋を出る。
ノアが去って少し経つとミトリは、すやすやと寝ているミリアを、ゆさゆさと揺らして起こすのだった。
*
ミリアの家から貰ってきた、傘を差して歩くノアは、シトシトと降る雨を見ながらボソリと呟く。
「噂の空竜の〝変異種〟も見てみたかったけど、それは、またの機会になりそうかな」
と、その時──
──バサリ!
ノアの真上を青い竜が通りすぎる。
他でもない、今しがたノアが見たがっていた、空竜の〝変異種〟である──タケシだ。
だが、タケシがノアの存在に気づく気配は無い。
「今の青い竜って──噂をすればってやつかな? ふふ、やっぱり私は運がいいみたい♪」
見たい物も見れた満足そうな様子のノアは、軽やかな足取りで、降る雨が辺りの草木に当たる雨音を聞きながら、ハイルデート家の敷地を後にするのだった。
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