第104話 ミリア・ハイルデートはミリアである25
「ミリアさん、少し聞いてもいいですか?」
椅子に座るミリアに〝回復魔法〟で治療を施しながら、ジューリアが、ふと話しかける。
「は、はい、何ですか?」
「昨日、私がミリアさんの意識を刈り取った時です。ミリアさんは何故あの時、最後に笑ったのですか?」
先日、ミリアはお墓にしがみつき泣いて離れなかった──その時、ミリアは心身共に最早限界だと判断したジューリアが、ミリアの首の脛椎をトンと叩き、気絶させてミリアを半ば無理に寝かしつけた。
だが、その時……ミリアは意識を失い倒れる直前に『……ありがとう……っ……』と笑って倒れたのだ。
その理由がどうしても気になったジューリアは、今この機会にその理由を聞いてみた。
「……えっと……その……昔に……お父さんとお母さんが約束したらしいんです……」
「約束? ミリアさんのお父様とお母様が?」
「はい……『自分が亡くなった時は最後だけは笑って送り出してほしい』って……だから、私もお母さんを最後だけは笑って送り出したかったんです……私は、ずっと泣いてばかりでしたから……」
ミリアは最後は笑って伝えたかったのだ『お母さん、ありがとう。また逢おうね!』と──
「おば様に家の中へ入ろうと言われた時、ミリアさんが『……ダメ……まだ……泣いてるから』と答えたのも、それが理由ですか?」
ジューリアは真剣な表情で質問をする。
「はい……お家に入ったら、お見送りが終わっちゃうと思ってしまって……」
「そうでしたか……重々、私は何てことを……」
ジューリアは自分の失態に頭を抱える。
理由はどうであれ……最後の母への思いを中断させ、他の皆が気を使い伏せていた、父親が〝魔王信仰〟に殺された件を口を滑らせミリアに伝えてしまった。
(私はこの子に何と詫びればいいのでしょう……)
「あ、あの、聖女様! だ、だから、あの時は本当にありがとうございました……!」
「──!?」
急にミリアに礼を言われ、ジューリアは驚いた表情をする。
「あのままだったら、多分ずっと私はお墓に泣きながら抱きついていました……どうしても、涙が止まってくれなくて……でも、聖女様が私を寝かそうと首を叩いた時に、意識が飛ぶ前、一瞬だけ、お母さんの元気な姿が頭を過ったんです……」
ゆっくりとミリアは話す。
その声をジューリアはしっかりと聞いている。
「もう時間が無いって考えたら、スゥ……っと、気を失う前の一瞬だけ、冷静になれて、あの時お母さんに今までの『ありがとう』を言えた気がするんです。だから、それを言えたのは聖女様のお陰です、本当にありがとうございました……!」
〝回復魔法〟を使うジューリアに、首だけで少し振り返り、ミリアは今できる精一杯の体制で頭を下げる。
「いいえ……私は何も……」
お礼を言われ戸惑うジューリアは、次に少し悩んだ後、小さく頷きながら、意を決したように口を開く。
「──ミリアさん、もしよろしければ、私と共に聖教会に来ませんか?」
「──!? ……!!」
ミリアは最初何を言われているのか分からなかった。それに今の聖女の発言は極めて異例な事である。
「どうでしょうか? ミリアさん、私は貴方の事がとても気に入りました──聖教会には、貴方のような方が、綺麗な心を持つ人が必要なのです」
聖女様は真剣な声で私に話しかけて来る。
「取り敢えずは私の弟子という扱いで、まだ知らない作法も、勉学も、魔法も、分からない事があれば、私の教えられる範囲でしたら全て私がレクチャー致します。ミリアさん、どうでしょうか?」
教会のシスターや、その道を目指す人なら泣いて飛び付くような話しだ。
「……聖女様、ごめんなさい」
でも、ふるふるとミリアは首を横に振る。
「──、そうですか。すみません。最後の最後まで困らせてしまいましたね。どうか、謝らないでください」
優しく微笑むジューリアだが、それでも少し残念そうな表情をしている。
「ミリアさん、今何か目的はありますか?」
「目的ですか……」
その言葉にミリアはそっと下を向く。
「ゆっくりでいいです。何か目的を見つける事が、人生を大きく左右する事に繋がります。気持ちが落ち着いた時で構いません。何かを探してみてください」
と、言い終わると同時に聖女様が私の魔法を終える。
「──あ、あの……! 私、友達が欲しいです……!」
ミリアは振り返り、ジューリアにそう告げる。
「ふふ。友達ですか♪ 素敵ですね。ミリアさんなら、きっと良き友人が見つかると思いますよ♪」
まるで、女神のように温かく笑ってくれる聖女様。
「ひゃ、ひゃい、が、頑張ります……!」
友達。昔、お父さんが今の聖女様と同じような事を言ってくれた覚えがある。
素敵な友達。もし私にもそんな人達ができたら、お父さんやお母さんに紹介したかったな──。
──その後、聖女様は〝回復薬〟と〝魔力回復薬〟を私に渡して、最後にお母さんとお父さんのお墓に手を合わせてから〝中央連合王国アルカディア〟へ帰って行った。
その日、街では聖女様のお迎えとかで、凄い騒ぎになっていたらしいが、私は詳しいことは知らない。
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