第103話 ミリア・ハイルデートはミリアである24
次に私が目を覚めると、翌日の昼だった。
随分と、長く寝てしまったみたいだ。
いつの間にか寝室で寝ていた私は起き上がり、居間の方へ向かう。
多分、寝室へは聖女様が運んでくれたんだと思う。
居間に着くと、おばちゃんと聖女様が居た。
「ミリアちゃん、お邪魔してるよ。具合はどうだい?」
「ミリアさん、お邪魔しています。勝手ながら、魔法による治療を施させて貰いましたが、どこか身体に痛む場所はございますか?」
おばちゃんと聖女様が質問をしてくる。
「お、おはようございます。頭の奥がクラクラしていて、その度に大きな波みたいな痛みが胸に来ます……」
ミリアは、普段は感じたりしない感覚を説明する。
「ミリアさんのその症状は精神的な物ですね。そういった物も、魔法ではどうしようもありません……」
私の目の前に来て、ゆっくりと聖女様が話してくれる──精神的な物。それは何となく分かっていた。
「……はい」
私は短く返事を返す。
「無理もありません。急に病で母を亡くし、聞けば2年程前に父が──しかも〝魔王信仰〟の者の手にかかり亡くなったばかりともなれば、心中への傷は相当深いものでしょう」
「……え?」
「あっ……」
「──え?」
聞き返す私と『しまった』みたいな顔をするおばちゃん。そして最後のは聖女様の口から漏れた言葉だ。
「お父さんが……魔王信仰……にって……どういう……」
動揺するミリア。
〝魔王信仰〟──母からも、とても頭の狂った連中だとか、その存在の危険性を強く注意されていた。
でも、お父さんが〝魔王信仰〟に殺された何て事は、私は一切聞いていなかった。
「──!? もしかして、ミリアさんには伏せてあったのでしょうか!? そんな、私は何て事を! ど、どうしましょう!」
冷静だった聖女様が本気で焦り始める。
「……いえ。私も言ってませんでしたから、私のミスでもあります。聖女様、どうか顔をあげてください」
バッ──と、頭を下げる聖女様におばちゃんが声をかける。
「しかし……」
「ですが、聖女様、その話はどちらで?」
「2年前の事件の事は以前から知ってはいましたが、直接に私が聞いたのは〝大都市エルクステン〟のギルドのギルドマスターからです」
まあ、思っていた通りだ。
と、団子屋のおばさんは納得する。
「……おばちゃん。教えて、お父さんの事……」
真っ直ぐな目でミリアに問われたおばさんは、これはもう全て話すしか無いと覚悟を決める。
──そして、団子屋のおばさんから父親の話を聞いたミリアの反応は、思いの外、落ち着いた物だった。
ミリアは話をずっと黙って話を聞いていた。おばさんが話を終えると、ミリアはぐしぐしと目に溜まっていた涙を拭きながら「そうだったんだ」とだけ呟く。
お父さんへの気持ちは何にも間違っていなかった。
『お父さんは町を守る為に亡くなった』
魔王信仰の者を街に近づけさせまいと、自分がここで食い止めようと──戦い、お父さんは亡くなった。
お父さんの勇姿は変わらない。
大好きで、立派な私の自慢のお父さんだ。
「おばちゃん、聖女様、私もう少し休みます」
その後、ミリアはそれだけを告げて、寝室に戻り、まだ疲労の残る身体に襲い来る睡魔に任せ、そのまま深い事を考えてしまう前に、目を閉じ眠るのだった。
*
私が次に目を覚ますと、
翌日の夜、外は真っ暗の時間だった。
また長く寝てしまったみたいだ。
恐らく〝魔力枯渇〟が原因だろう。
「……お水……」
ミリアは喉がカラカラな事に気づき、ゆっくりと起き上がり水を飲む為に、台所へ向かう。
すると、まだ居間には聖女様が居た。
「聖女様……お、おはようございます……」
何となくデジャヴのような、ジューリアへのおはようございますに、ミリアは少し違和感を覚える。
「ミリアさん。よかった──もう少し待って、起きないようでしたら手紙を残して去るつもりでした」
聖女様が少しホッとして話して来る。
「す、すいません……聖女様、帰っちゃうんですか? 後、おばちゃんは帰っちゃいましたか……?」
ミリアは昼には居てくれたおばさんの姿を探す。
「おば様はお店の方へ戻られました。明日また来ると言っていましたよ。私は〝大都市エルクステン〟に寄った後に〝アルカディア〟へ戻ります。何も力になれず、本当に申し訳なく思っています」
〝聖教会・聖女〟──ジューリア・クーロー
聖教会でも屈指の実力者であり、権力者でもある。
そんな人物が、最初はミトリ1人の為に、このルスサルペの街に足を運び、結果4日も滞在するということは大変稀なことである。
実際、この数日間に何回か〝大都市エルクステン〟や〝中央連合王国アルカディア〟の重要な教会からも呼び出しがかかっていたが、その呼び出しをジューリアは全て断っている。
勿論、一悶着あったが、ジューリアは上手く対応して滞在期間を伸ばしていた。
当初の目的はミトリの診察だったが、ジューリアが駆け付けた時には既にミトリは亡くなっていた。
間に合わなかった罪滅ぼしという訳では無いが、母親の為に〝回復魔法〟を使い続け重度の〝魔力枯渇〟を起こして部屋で倒れていた、小さな、優しい少女をジューリアは必ず助けようと心に決めた。
「ミリアさん、おば様がお団子を用意してくれてあります。他にも街から食料を買ってきてありますから、少し食事を摂りませんか?」
「……お水だけでいいです……今は食欲がありません」
「そうですか。分かりました」
本当ならば〝魔力枯渇〟を起こしてるミリアには、少し無理にでも食事を摂らせるべきだが、精神的にも肉体的にも限界のミリアに無理に食事を摂らせることを、今ばかりはジューリアは躊躇った。
だから、その代わりにジューリアはミリアに〝回復魔法〟と〝魔力回復魔法〟を使った。
椅子に座って、水を飲みながらジューリアからの魔法を受けるミリアは、ずっと俯いたままだった。
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