第102話 ミリア・ハイルデートはミリアである23
ミリアが泣き止み、少しだけ落ち着きを取り戻すと、ミリアは直ぐに、ミトリの遺体の行方を聞いた。
おばちゃんに話を聞くと、お母さんの遺体は、この教会の遺体安置所に運ばれているらしい。
「ミリアちゃん、まだ寝てた方が……」
すぐに動き出す私をおばちゃんが止める。
実際、頭がズキズキするし、目眩もする。
でも、私は動かなくちゃいられなかった。
「大丈夫……」
「──では、私が付き添いましょう。危ないと判断しましたら、直ぐに寝かせますからね? ミリアさんの〝魔力枯渇〟は重度ですよ。ポーションや回復魔法も、大分効きづらくなってるでしょうから」
ふらつくミリアの身体を、聖女がそっと支える。
〝魔力枯渇〟は、重度になればなるほど、ポーションや、回復魔法が効きづらくなる厄介な性質がある。
「あ、ありがとうござい……ます……」
ミリアはビクッとするが、直感で悪い人では無いと感じ、緊張しながらも、しっかりと返事を返す。
「申し遅れましたが。私は──ジューリア・クーローと申します。聖教会では、大それながら〝聖女〟とも呼ばれている者です。よろしくお願いしますね」
──ステータス──
【名前】 ジューリア・クーロー
【種族】 人間
【性別】 女
【年齢】 24
【レベル】75
聖女様が、私に〝ステータス画面〟を見せてくる。
「わ、私は、み、ミリア、ハイルデートです……」
私も聖女様に自分の〝ステータス画面〟を見せようとするが、その手を聖女様に優しく止められる。
「今は少しでも魔力を使うのは危険です。それは元気になったら、改めて見せてください」
ふわっとした優しい声の聖女様。
その言葉に、こくりと私は頷く。
そして、私とおばちゃんと聖女様は、お母さんの遺体のある──遺体安置所へと向かう。
*
「聖女様──どちらへ?」
「そちらの子は目を覚ましましたか。何よりです」
「聖女様、何か私共にできる事はありますか?」
病室を出ると、教会のシスターさん達が、聖女様に頭を下げながら話しかけて来る。
そして私はそっとおばちゃんの後ろに隠れる。
「遺体安置所に向かいます。道を開けてくださいますか?」
聖女様のその一言で、状況を察した様子のシスターさん達が「分かりました」とだけ返し、道を開ける。
「ミリアさん。こちらです──」
私はおばちゃんと一緒に聖女様の後に続く。
遺体安置所に入ると、人が一人入れるような縦長の箱が置かれている。この箱は知ってる、棺桶だ。
棺桶の箱を開けるまで、私は『お母さんじゃない、お母さんじゃない』と、最後まで願っていた。
でも、箱を開けると──
そこには紛れもない、3日前の朝よりも、もっと冷たくなって、亡くなったお母さんの姿があった。
「……うぐ……っ……ひぐ……っ……お母さん……」
ミリアは氷のように冷たくなった母親の遺体に抱き付き、嗚咽をあげる。
「腐敗の進行を防ぐ為、私の魔法で遺体を少し凍らせてあります」
ジューリアは、母の遺体に抱きつくミリアを見ながら、当たり障りの無い声で、遺体の状態を説明する。
だが、今のミリアには返事を返す余裕は無い。
その後、ミリアは、ミトリの遺体に抱きついたまま、身体中の水分が全部流れ出てしまったのではないか? と、思う程に泣いて、泣いて、泣いた。
*
ミトリの葬儀は、その日に執り行われた。
ミリアは母の遺骨を、大事そうに、悲しそうに抱き締めて家に戻り──家の隣にある、父親のトアも眠る、お墓へと遺骨を納める。
お団子屋のおばさんとジューリアも、それぞれお墓の前で手を合わせる。
「──限界ですね。これ以上は看過できません」
険しい表情で、ジューリアが言葉を発する。
いつまでも、お墓から離れようとしないミリアの身体は既に限界であった。精神的にも肉体的にも、とっくに限界を超えている。
ふるふるとミリアは首を振る。
泣き腫らした目の奥が痛い。
頭の奥もズキズキと酷く痛む。
それでも、ミリアはそこから動こうとしなかった。
「ミリアちゃん……せめて、お家に入りましょ?」
「……まだ……ダメ……泣いてるから……」
お団子屋のおばさんが、ミリアの肩に手を置き、家の中へ入るように促すが、ミリアは『泣いてるから』と言いながら、首を横に振ったまま動こうとしない。
「……泣いてるから?」
お団子屋のおばさんは、ミリアのその言葉の意図が分からず、素でミリアに聞き返す。
「ミリアさん──ごめんなさい。時間です」
そう言うと、ジューリアはミリアの首の後ろの脛椎をトンと叩き、ミリアを気絶させる。
だが、ミリアは気絶するまでの、ほんの数秒の間に──泣いてた顔を一瞬だけ優しく微笑ませ……
「……ありがとう……っ……」
そんな言葉を発し、パタリと倒れて気を失う。
「──!?」
気を失うミリアを抱き上げながら、ジューリアは少なからずの驚きの表情を見せる。
「何故、ミリアさんは、最後に笑ってたのでしょうか……」
最後のミリアの表情が、ジューリアは目に焼き付いて離れない。だが、間違っても自分に向けた言葉では無いのは分かる。
「幼いようで、大人びた、しっかりした子ですね」
ジューリアは、そう感嘆の声を漏らしながら、抱き抱えたミリアを家の中へと、そっと運ぶのだった。
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